再会
「りい、案内を頼む。」
力也が静かに言った。
「はい。」
りいは小さく頷き、ゆきへ向き直る。
「それじゃ、行きましょうか。」
「よろしくお願いします。」
二人は部屋を後にした。
◇ ◇ ◇
「ここが資料室。」
りいは廊下の一角にある扉を指差した。
「依頼の記録とか、過去の事件の資料が保管されてる場所。」
ゆきは扉を見上げる。
「思っていたより大きいですね。」
「うん。」
りいは苦笑した。
「私も全部は見られてないけど。」
「そうなんですか?」
「無理。」
あまりにも即答だった。
思わずゆきの口元が緩む。
「そんなにあるんですか。」
「ある。」
「読むだけで一日終わる。」
「それは大変ですね。」
「でしょ。」
りいもつられるように笑った。
◇ ◇ ◇
しばらく廊下を歩いていると、りいがふいに立ち止まった。
「……やっぱ無理。」
「え?」
「敬語。」
「敬語ですか?」
りいは真顔のまま頷く。
「新人さんには敬語って決まりなんだけどさ。」
「うん。」
「私には合わない。」
あまりにも真剣な表情で言うので、ゆきは少しだけ笑ってしまう。
「そういうものなんですか。」
「そういうもの。」
りいは真剣なまま頷いた。
「だから普通に話すね。」
「私は別に構いませんよ。」
「よかった。」
その笑顔は、どこか安心したようだった。
「ゆきも敬語じゃなくていいから。」
「……分かった。」
「うん、それでいい。」
りいは満足そうに歩き出した。
その後も案内は続く。
相談室。
会議室。
休憩室。
食堂。
結び屋は思っていた以上に広く、思っていた以上に普通の場所だった。
「どう?」
りいが振り返る。
「結び屋。」
ゆきは少し考え込む。
「まだ実感はないかな。」
「そっか。」
りいは小さく笑う。
「最初はみんなそんな感じ。」
その時だった。
廊下の向こうから勢いよく走ってくる足音が響く。
「りいさーーん!」
大きな声が廊下中に響いた。
ゆきが振り向くと、一人の少年がこちらへ駆けてくる。
りいは慣れた様子で軽く手を振った。
「あ、臨時。」
「新人っすか?」
「うん。」
臨時はゆきを見た。
じっと見つめる。
何も言わない。
「……?」
ゆきは少しだけ居心地が悪くなる。
それでも臨時は視線を外さなかった。
「……どっかで見たことある気がする。」
腕を組み、首を傾げる。
「会ったことありましたっけ。」
「いやぁ……。」
臨時は唸る。
「絶対どっかで……。」
「名前は?」
「長瀬ゆきです。」
その瞬間だった。
臨時の動きがぴたりと止まる。
「……え?」
「長瀬、ゆきです。」
ゆきがもう一度名乗る。
数秒の沈黙。
そして――
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?」
廊下中に響き渡る絶叫。
ゆきは思わず耳を押さえた。
「うるさ……。」
「ゆき!?」
「……臨時?」
「マジかよ!」
臨時は目を輝かせる。
「うわぁ!久しぶりじゃん!」
「それ、こっちの台詞なんだけど。」
「何年ぶりだよ!」
「知らない。」
「そこは覚えとけよ!」
昔と何一つ変わらないテンションだった。
その姿が少しだけ懐かしくて。
ゆきは自然と笑っていた。
「ちょっと待ってろ!」
「え?」
「一樹連れてくる!」
「いや、ちょっ――」
止める間もなく、臨時は全力で走り去っていった。
「……行った。」
「行ったね。」
「いつもあんな感じ?」
「うん。」
りいは迷いなく頷いた。
「基本ずっとあんな感じ。」
「……大変そう。」
「結構ね。」
◇ ◇ ◇
数分後。
再び足音が近づいてきた。
今度は二人分。
「だから何なんだよ。」
落ち着いた声。
「いいから来いって!」
聞き慣れた騒がしい声。
やがて二人が姿を現した。
臨時。
そして、その隣には――
綾橋一樹。
一樹はゆきを見たまま動きを止めた。
「……。」
数秒。
何も言わない。
やがて、小さく口を開く。
「……ゆき?」
「久しぶり。」
その一言だけで十分だった。
一樹は小さく笑う。
「本当にゆきなんだ。」
「偽物に見える?」
「少しだけ。」
「ひど。」
臨時がすぐに割り込んでくる。
「俺は一発で分かったぞ!」
「嘘つけ。」
ゆきが即座に返す。
「名前聞くまで分かってなかったじゃん。」
「細けぇことは気にするな!」
「気にする。」
一樹は呆れたようにため息をついた。
それでも、その表情はどこか嬉しそうだった。
「まさか結び屋で再会するとはな。」
「私も思ってなかった。」
今日だけで、いろいろなことが起きた。
結び屋への入隊。
りいとの出会い。
そして――幼馴染との再会。
少なくとも。
これから先、退屈することだけはなさそうだった。




