路〜産声〜(10)
「どうぞ、ジントニックです」
シャーベットは客にグラスを渡していた。
「こっちにマティーニ一つ」
高そうなスーツを着た中年の男が上品だが、少し興奮した声で注文した。
「はい」
シャーベットは、慣れた手つきで、空のガラスにジンとベルモットを入れ、かき混ぜてからグラスに注いだ。
「こちらマティーニになります」
「…」
男は無言で受け取ってから賭博の席に戻っていた
彼女の接客は見事だった。
カクテルスプーンを持つ親指と中指。少しピンと立った人差し指に、折り畳まれた弱々しい薬指と小指。ささやかな指先一つでさえ、何かを誘惑するかのような、もしくはなにかを待っているかのような。煌びやかな照明に照らされた彼女の黒髪は、儚げであると同時に婀娜やかなフェロモンを発していた。
「…おい、大丈夫かよシャラ猫のやつ。めちゃくちゃ馴染んでんじゃねーか。このまま転職しちまうんじゃね?」
「…いやまぁ、うん、大丈夫だろ。妙に手慣れてるけど」
スタッフとして遠目に見ていた二人は少し不安になりつつも業務をそつなくこなしていた。
(さすが会員制の貴族限定の賭博…振る舞いが上品で迷惑客もいないな)
アラキにも少しは見習って欲しいものだと思いつつも客にもてなしを施していた。
そして、営業時間が終了する頃、見張りのスタッフを除いたスタッフ全員がある男に呼び出された。
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