おしまい
湖での最終決戦はそれなりに水飛沫も浴びてしまい、私の家に帰ってきた4人は真っ先にお風呂に入ることになった。
成し遂げた達成感と、重荷から解き放たれた解放感で、令嬢らしからぬほど大はしゃぎしてしまい、童心に帰って温水プールで遊んでいるかのような楽しい入浴は、いつもならすぐに風呂から出たがるティア様が湯船から上がるのを惜しむ程の素敵な時間だった。
お風呂から上がると、メイドさんが部屋に軽食やお菓子、飲み物などを沢山用意してくれていて、夜更ししすぎのとっても悪いパジャマパーティーが開催される。
話題としては真っ先にエレン様の忍者疑惑を追求したのだが、どこを指摘しても最終的になぜかやっぱり忍者なんて居ないという結論に誘導されてしまい、どうしても掴みきれない。
((((((絶対忍者なのに…!))))))
「絶対忍者なのに…!」
「ぜったい忍者なのに!」
「ふふ…見つかったら忍んで無いですからね」
「つまり忍者なんてどこにも居ませんわ」
6つ頭のサメと私とティア様はどうも推理合戦で分が悪く全然勝てない。ケイト様が探偵なのに推理を覆す側に居るのがずるい。私もバリツ覚えたい。
他にも、悪魔の生態や目的を推理したり、あの湖はもう少し掃除しないとダメなので作戦を考えたり、もう全然なんでもないただ面白いだけの話で笑い合ったり、夜更しの楽しい時間は続く。
「そうだ、粗品も渡さなくては」
「思ってたよりだいぶ袋でかいです!」
「エレン様とケイト様にも教えて貰った令嬢オススメお菓子セット袋です」
「スタンプってすごい!」
「風見鶏ホテル系列のクーポンも一応入ってます」
「賢い方のワニが喜んでます!」
(やはりそこらへんは賢い方のワニの管理なのか)
(過保護の気配がある)
(しかし安心感もある)
「シャークさんが悪役でほんとに良かったです!あんな怖そうなイベントが、みんなと仲良くなれて、こんな幸せな感じになるなんて!」
「私もティア様が正義の使者で良かったです。悪役でも助けてもらえて、仲良くもなれるなんて」
「じゃあお互いラッキーです!」
「はい、ラッキーです」
笑い合うサメとワニ。こうなるなんて最初は私も全然予想していなかった。
次から次へと話題は尽きず、それこそ朝まで遊び続けるのではとも思っていたのだけれど、実は私達は皆自分が思っているより相当疲れていて、私が一度あくびした瞬間皆にあくびが移り、急激に眠気を自覚する。
特に早寝組のティア様とケイト様はいきなり寝落ちしそうになったので、慌てて皆で歯を磨いたり寝支度をして、今度は簡易ベッドをくっつけ合った大きなベッドに4人で一緒に潜り込む。
長い一日の終わりだ。
「みなさん…!ひょやゆいなさ…!」
もう殆ど寝ているティア様がおやすみの挨拶らしき発言をしながら眠りに落ちていく。
「ふふ…皆さんお疲れ様でした。おやすみなさい」
「最高のものが観れた最高の日でしたわ。おやすみなさい」
ケイト様とエレン様が眠りに落ちていく。
「みんな、本当に、本当にありがとうございました。おやすみなさい…」
私は、凄く眠いけど、でも、すぐには眠れなかった。
カチコチカチコチ。時計の音。
段々聴こえてきた、すぅすぅという寝息。
こっそりとまた眠るティア様を抱きしめる。
ありがとう。あの日私を助けると言ってくれてありがとう。素早くて捕まえるのは大変だったけど、会えたらいつも協力的で肯定的で、優しくて、ありがとう。
無事に助けてもらえて本当に良かった。笑顔で解決まで辿り着けて本当に良かった。この終わりに辿り着けて本当に良かった。
風見鶏ホテル系列のクーポンは、長きに渡るご利用と色々な人助けへのお礼で大奮発のものだそうだ。そしてもうあの部屋にティア様の予約は入っていない。
そう、私が眠ったら、この長かった日々は、ティア様との日々は、終わる。
すぐにでも強くなって、すぐにでも飛べるようになってついて行きたいけれど、今の私はティア様が守った大事な日常の一つで、そんな大切なものを簡単に壊すわけにはいかないし、未熟な腕でティア様の足手まといになる私なんて私が絶対に認めない。
伝えたいことは山程あって、でも楽しく忙しい日々はあまりにもあっという間に過ぎ去って、すばしっこいティア様とはゆっくり話す時間もなかなか無いまま終わってしまったから、やっぱり実績のある手紙に頼る事にした。
私はティア様の事が凄く凄く好きなので、いつでも会いたいし、いつ会えても嬉しいから、旅の途中でも、全てが終わってからでも、いつどんな時でも好きな時に遊びに来て欲しいし、強くなって飛べるようになったら会いにも行くと書いたラブレター。
その手紙もこっそりお菓子の袋に入れてある。
私が悪役なのは大きなゲームの中のたった1イベントで、どう考えてもティア様にはまだやるべきことがたくさんあって、きっとティア様は全然ゆっくりしないから。私はもう悪役じゃなくて、力も足りなくて、まだすぐには追いつけないから。楽しい日々は、一緒の時間は、これで一旦おしまいだから。
……でも、出来れば、おしまいは一旦だけがいい。そういう手紙。
* * *
早朝。いつの間にか眠りに落ちていた私が気配に気づき目覚めると、素早いティア様はもうこっそり窓から旅立とうとしていて、私は声をかけず手を振る。
ティア様もこちらの気配に気づいて振り返り、光り輝く朝陽の中で柔らかく笑って手を振ると、そのまま音もなく窓の外へと浮かび上がり、ゆっくり加速し始めて光の中へと消えていく。
姿が見えなくなっても私はずっとずっと窓の外を見つめていたが、起きてきたエレン様とケイト様に優しく教えて貰ってようやくベッド横の小机に白い封筒が置かれている事に気づく。
手紙には、はい!と大きく一言だけ書いてあった。




