孤独じゃない抱き枕
ワイワイとしたお食事と、なんだか経済が高速回転しそうなお風呂のあと、元幽霊屋敷だった私の部屋に皆が寝間着で集まる。作戦会議ことパジャマパーティだ。
特に重要なのは、魔術において飛び抜けた能力を持つ正義のワニのティア様に、私とエレン様とケイト様で集めたオカルト情報を見てもらい、悪魔が喚び出された原因と、可能なら安全な帰し方を推測する事。
集めたオカルト話を詳細に共有する過程で、やはり時折怪談めいた恐ろしい出来事や身の毛もよだつ顛末が飛び出てくる為、語り手がエレン様とケイト様、それに怯える私とティア様とゴーストゴーレム八岐之大蛇メカドラゴンという構図がしばらく続いていた。
「シャークさん!これ絶対怖いだけの話混ざってます!絶対!」
「幾つか明らかに事前に聞いてませんでしたわ。絶対ただの怖い話ですわ。抗議、抗議します」
いつの間にか話を聞かされる側に回されていた上に恐怖のどん底に叩き落された私はティア様と一緒に抗議するものの聞き入れられず、何事も無かったかのように情報の分析が始められてしまう。
「つまり、血の湖に投げ込まれた多くのハズレの中に当たりの素材が少しずつ混じっていて、召喚術の準備に近い何かが一時期発生していたのではと思うのです。ただ、どう贔屓目に考えても準備までといった感じで、肝心の魔法陣など直接的な術式の痕跡が見つからず、実際に何がきっかけで召喚されるのかが未だに不明です…」
「…アッ…イエ何デモ無イデス。謎デスネ…」
エレン様のまとめにハイドラさんが入っているロボ的な玩具のような何かがだいぶ挙動不審な相槌を打つ。いや僅かでも可動してたら不審としか言いようのない物体なのだが。
「ハイドラさん、そういえばエレン様が今日新しいパーツを持ってきてくれているそうですよ」
「メイン術式ハ地獄側ニ有リマス!」
どうやらパーツが増えるのがとても嬉しかったのか、ハイドラさんが地獄側の重要な情報を一気に教えてくれる。可能な限り自分達で情報を調べた甲斐があり、パズルにはまるピースの見分けがついて悪魔の情報でも見分けやすい。
地獄の門というのは文字通り別世界と地獄を行き来する門を作る魔法で、血の湖に繋がっているのは遥か昔ハイドラさんがまだゴーストになる前に実験していた失敗作らしい。
そして、仕組み的に召喚術と近いため、出入り口付近でその手の変な事をすると干渉して突発的に穴が空いたり暴発するそうだ。
「設置の目的とか気になる部分もあるのですが、判定の難しい心理的な部分は後でじっくり伺うとして、魔術的な仕組みとしてはティア様から見てどうでしょう?」
「こんなことじゃないかと思ってました!」
「アチチチチチ」
小さなワニの幻影に噛みつかれて宙に浮くハイドラさんに何か加減されているらしい浄化魔法が当てられている。
「ふふ…まぁ犯人が過去の事件と関係あるのはよくあることです」
話しながらケイト様がエレン様にまた何かゴーレム素材っぽいものを渡している。
もちろん全然私も何かそういうの分かってたけど、反応を見るにどうやら皆なにかしら推理が進んでいたらしい。もちろん全然私も何かこう、何か色々あると思ってた。
(散々鵜呑みにせず話の裏を取らねばという話をした気がするが)
(我らの話たまに聞き流してないか?)
(どうもシックスも本体も思考が筋肉寄りな気がする)
((((((一緒にしないで欲しい!))))))
一緒にしないで欲しい!
「しかしこうなると地獄の門とやらを破壊するのもミッションに含まれてきてしまうのですが、この話の流れだとハイドラさんはその方法を知ってるんですよね?」
「…アッ…勿論!落トシ穴状態デ危ナイノデ破壊シナイト…!」
「それでその方法は…?」
「……ソノ…門ヲ開クト両方ノ世界ヲ繋イデル術式ガ見エルノデ、破壊スルダケデス…」
なるほどなるほど、地獄の門を開けば向こうにあるという術式も繋がってるから見えると。それを壊せば終わりと聞くと簡単なような気もしてきたが…
「あの、悪魔は別ルートで帰した上で出来れば門は開かずに壊したいんですけど」
「エッ!?ドウヤッテ!?」
すごく知らなそう。まぁハイドラさんはそもそも地獄の門を開けたい側の存在なので、あっても教えてくれないかも知れないし、別の手段自体想定してないかも知れない。
「もしかして、だいぶ厄介な感じでしょうか」
「やっぱり門を開かないと駄目という話になってしまいますわね」
「ふむ、伺っていた通り本当に普通に調べると血の惨劇が起きる流れになるようです」
唸るいつもの3人だが、ティア様は更に深刻…というか少し怒っている感じで口をへの字にしている。見た目で言うと小柄さゆえの子供っぽさが強調されて可愛いが、そんなことを言ってる場合では無い気配だ。
「ティア様?どうされました?」
「その、賢い方のワニが気づいて良かったです!門を開いたまま術式を破壊したら恐らく暴走します!これはこっちの世界だけでなく悪魔側にも大問題なので、すぐ魔力の供給を絶ち閉じたい筈です!」
「なるほど、壊して簡単にすむ話では無いのですね」
「重要なのはそこじゃなくて!魔力の供給とは準備した血の供物などの道具の他に、術者も含まれます!その、シャークさん!本当はシャークさんの体で術を行使した筈なんです!」
ベシベシとハイドラさんの入っている玩具を叩くティア様。
「わたしに!シャークさんごと倒させる気だったんです!きっと、わたししか悪魔の力を得たシャークさんを倒せない!」
もっとベシベシとハイドラさんを叩くティア様。
なるほど、言われてみれば元々は私が悪役として正義に滅ぼされるイベントだ。優しいティア様が私を消し飛ばすのが正しい流れなのだから、何か避けがたい理由があってもおかしくない。
「どんな物語でも悪役は大体仲間と一緒です!悪役本人より周囲が何かしてくる事も多いです!だから、きっと、ケイトさんもエレンさんも、他の人達も必死に止めに来たり、瘴気に巻き込まれたり、怪我だけでは済まなかったかも知れない!嫌なイベントです!!すごく!!!」
無言で叩かれ続けるハイドラさんを受け取って、お怒りのティア様を抱きしめてまぁまぁと宥めながらお菓子を口に放り込む。
「まぁまぁ。普通に解決方法を探すだけでは駄目そうだと分かっていましたので、むしろ一つ重大な普通を超えているのに気づけて安心したくらいです。普通はこの話を正義と悪が共有なんて出来てない筈ですから」
「むぐぐぐ!」
「ふふ、そうですね、正義の使者が悪役とその一味と一緒にパジャマパーティなど、なかなかに珍しい」
「きっとワニの力も含めた尋常じゃない速度が時間をくれたのでしょうから、普通じゃない速さの重要性も感じます」
ケイト様がお菓子を更に取り出し、エレン様もジュースを更に取り出す。
「みんな激甘です!」
「それはもう、令嬢で、ずるい悪役ですから」
「そのライバルと」「研究者ですから」
「あれ、エレン様だけちょっとおかしいですわ」
「悪役、やっぱり思ってたのとだいぶ違います!」
「ティア様も正義だけど悪の大事なお友達ですわ」
「むぐぐぐ!なんか恥ずかしい感じでお怒り維持出来ません!」
「その調子です、ここは悪の令嬢のテリトリーですから。シリアスをずるく回避して、優雅に朗らかな感じで行きましょうね」
今日の真面目な相談会はここまでになり、後はもうワイワイお菓子を食べたり、時折ハイドラさんがしばかれたり追加パーツ付けられたりしながら謝罪を続けていたり、みんなで過ごす夜となった。
やがて早寝組が眠りにつくと、私とエレン様でしばらく他愛の無い話をしたり人の心の無い恐怖話をされたりして、今日は終わる。
今日の感じだと、ゆっくりしないティア様が勢い余って夜中に悪魔をみんな消滅させて、血の湖に変な封印とかかけて、全部全部背負って即解決とかもちょっとだけ有り得る気がしたので、何かあったらすぐ察知出来るようにティア様が寝てる簡易ベッドに潜り込んで抱えて寝る事にした。怪談が怖かったからではない。




