ぐへへとか言ってそうなポーズ
現在重点的に行なっていることは、血の湖の情報を集める事と、空気投げの鍛錬だ。前者は本当にエレン様が頑張ってくれて血を用いたオカルトブームの全容が見えつつあり、後者はアン先生の授業でも家でも地味な鍛錬が続いていた。
(サメの力があるのだから、少なくとも物理的な力では絶対劣らぬ)
(ここまで来たら空気でも何でも掴むのだ)
(時間のかかる成長では駄目だ、サメの力を引き出すのだ)
((((((筋肉!筋肉!))))))
ブートキャンプ風の指示を受けながら、さも何らかの難しい鍛錬をしているような感じだが、見た目だけで言うと夜の家の庭でスポーツウェアを身にまとった私が虚空に向かって手をグーパーグーパー閉じたり開いたりしてるだけである。
「あの、お嬢様。スポーツドリンクが必要な運動なのかどうか判断に困りますが、一応こちらに用意しておきましたので」
メイドさんが困惑しながらもスポーツっぽいストローつき水筒を持ってきてくれる。なんとも言えない視線が痛いが、白黒で丸みを帯びたシルエットのメイド服は夜みるとサメにとって凄く凄くアザラシを想起させ、触りたさでなんだか凄く意識が冴えていく。
「お嬢様。私を凝視されながら手をニギニギされてしまうと、こう、コメディちっくなセクハラ感が凄いです」
「違うのです、こう、空気を掴む練習なのです」
「はぁ…空気を…」
確かに見た目は更に悪化した気がするが、今私達サメの皆がアザラシに触りたいという思いに集中しているため、なんか凄く掴めそうな気がする。こう、スカートの下に続く空気をつまんで、ふわっと、こう…
ふわっと、スカートが少しだけ持ち上がり、それをメイドさんがさらりと優雅に抑えて私の直線状から軸をずらすように数歩動く。
「お嬢様?」
そう、こういう感じ、これ。こう、ふわっと。
「お嬢様?なるほど、どうやら本当なのは分かりましたが」
ふわわわわっと
「なるほどなるほど?それほどの力を得てスカート捲りとは。これはそろそろ責任をとって婚約頂きこの家をお譲り頂く日も近いようですね」
「婚約からの欲望の溢れ方が恐ろしいですわ」
「夢は大きいほうがよいのです。しかし本当に掴めるのですね、空気」
「こう、手で握ると言うか…サメが噛む感じで…ふわっと」
「見切りましたわ」
「!?」
避けられた。普段死角から音を消してサメがセクハラしてくるため、正面からなどと甘えた行動は通じないようだ。
「ありがとうございます、欲求で集中してちょっとコツが掴めましたわ」
「もう少しまともな方向でお役に立ちたい気もしますが、良かったです」
「…ふわっと」
「見切りましたわ」
「!?」
後ろからも駄目だった。
* * *
平日にティア様と会うのはなかなか難しく、情報交換はやはり手紙が主なやり取りになる。
どうやら普段は何かを色々直したり、人助けをしたり、なんと働いてもいるらしく、想像以上に忙しいらしい。
そしてティア様が長期宿泊する風見鶏とはあまりにも顔馴染みになったので、手紙を届けた次の日はいつもチップ込みで朝食を買い、そのパンの袋に手紙が入っているという謎の仕組みまで出来上がっていた。
行儀悪くパンを食べ歩きながら手紙を取り出す。その中には
「はい!あと、全部で13体です!」
と書かれていた。
(最初の”はい!”は恐らく共有した情報が分かったという意味だろう)
(13体というのは、多分この地の悪魔を探してくれていたのだろう)
(だいぶ短いがティア様にしては長文だ)
どうやら一番安全だからと預けていたゴーストゴーレム八岐之大蛇メカドラゴンのハイドラさんと一緒に、周辺に潜んでいる筈の悪魔の居場所と数を探してくれていたようだ。
(13体、思ったより多くは無い。貴重な情報だ。しかし…)
(これは恐らく、いざという時ティア様が悪魔を消し飛ばす準備も整っていると思ったほうが良い)
(街の人の安全という意味では安心だが、そうもいかんのだろう)
「絶対にさせません」
((((((ヒーローやるぞ!))))))
ティア様はとにかく素早い。例えば異変に同時に気づいたらもう先に着くのは不可能だ。しかし無慈悲とも真逆な存在だ。絶対ギリギリまでは待ってくれる。
…もしかすると、ケイト様からスポーツの観点からの速さを引き出せる走り方や、エレン様が稀に行う謎の高速移動を教わっておくのも良いかも知れない。
* * *
忙しい平日があっという間に過ぎていって、週末のお昼過ぎ。学生による環境調査という名目で、私とエレン様は地域の担当職員さん達と一緒に血の湖の調査を行っていた。名目と言っても本当に採水したり沈殿物や泥を調べたりしたいわけで、実質的にボランティア活動と何も変わらない。
度々清掃も行われているそうで、怪しい沈殿物がゴロゴロしてたり酷すぎる水質という事もなく、ブラッドレイクという恐ろしげな名前の割にごく普通の広い湖といった感じだ。
しかし、全く何も無いというわけでも無かった。年齢のばらけた職員さん達に聞いても昔はかなり怪しげな物体が投げ込まれる事が多かったらしく、清掃や調査で底を漁るとそれなりの頻度で何かしら出てきてしまうそうで、中にはまさに目星をつけていたオカルトグッズの話もあった。
「自分の血を塗り込んだものを投げ捨てるなんて、汚染どころか重大な病気を流行らせるかも知れませんから、昔その手のオカルトが流行った時に大問題になって明確に禁止されて、今はもうそんな危ないことする人も居なくなったのですがね」
「出てきたらこちらで処分するので触っちゃ駄目ですよ。あ、ほらこういうのです」
丁寧に教えてくれる職員さん達。
「はい」「わかりました」
職員さん達の話に素直に頷く私達。
表向きはとても良い子なので無難なお手伝いとレポートをまとめ、裏向きでは目的の湖に沈んでいた品をこっそり拝借し、帰り際に手伝いをとても褒められてちょっと罪悪感を覚えながらもミッションを完了した。
「シャーク様、後でまた。ハイドラさんに付けるものもありますので、一旦戻って準備を整えてからパジャマパーティに伺いますわ」
「なにか一瞬不吉な気配がありましたがお待ちしています」
(ゴーストゴーレム八岐之大蛇メカドラゴンでまだ完成では無いのか…)
(そういえばあの幽霊悪魔ドラゴンは最終的にどうしたらいいんだ)
(助けるどころか既にゴーストだし、あの体壊せば勝手に帰るのか?)
((((((壊すくらいならロボ欲しい!))))))
(よせシックス!)(だめ!)(諦めろ!)
色々気になる所はあるが、私もすぐ帰って準備だ。実態は作戦会議みたいなものだけどパーティはパーティ。友達と夜に集まって秘密の共有なんてどうしたって楽しいし、楽しんで欲しいから、準備だ。




