池と湖
放課後の中庭。どうやらアン先生の方も私にどこで瘴気を見たか確認するつもりだったらしく、こっそり手招きされて人の少ないベンチで私とエレン様とアン先生のお話会となった。
早速私から瘴気に関する事情を説明する。
「まだ瘴気を実際に見たわけでは無いのです。ですが私の起こす予定だった血の惨劇は地獄の門が開いて街に瘴気が溢れるものだったらしいのです。これを防いだ場合は近隣で瘴気を抑えて潜んでる悪魔がその門から帰れず衰弱して倒れ、同じくここから瘴気が溢れる可能性が高いと、これがまぁ厄介な二段構えになってしまいまして」
「なるほど。想像していたより随分大問題のようです」
「それを防ぐのに、出来れば悪魔達を無事に元の世界に戻したくて、まずはどういった状況と技法で召喚され、取り残されてしまったのか調べていて、アン先生にも何か伺えないかと」
「なるほど。しかし困りました、私の知る瘴気の事件はどれもそこまでの大事ではなく、それゆえ何か危ない事が流行っていないかこっそり聞く程度のつもりだったのです」
流行。目を合わせる私とエレン様。
「まさにその瘴気が出た危ない流行、オカルトブームを探しているのです」
…アン先生が教えてくれた幾つかの出来事は、例えば不思議なアクセサリーが流行したが魔物を素材にしたもので瘴気を発生させ問題になったり、危険な薬品に有り得ない効果のデマが流れ結果的に大量不法投棄から下水で瘴気が発生したり、確かに求めていたままのオカルトだったものの、正直関係有るか無いか判断が難しかった。
「ふむ。思いつくまま喋ってはみたものの、この方法だけで見つけ出すのは難しいかも知れませんね。複数の悪魔が喚び出されたと分かる大事件なら調べるまでもなくすぐ分かった筈。かといって関係あるか分からない程度の話から探そうとするなら、結局関係あるか判断も出来ないでしょう」
(確かに)(判断材料が足りない)(思ったよりかなり難しいぞ)
「せっかくお話頂いたのに、実際に聞いてみると確かに難しいです。悪魔か或いはそれに付随する瘴気に関係しそうな情報からすぐ繋げられると思ってたのですが…」
「単に精霊や悪魔を喚び出したとなるとそれはオカルトというより優れた召喚術といった感じで、それも流行ということは多くの人に出来たお手軽な大魔法として召喚魔術の教科書に載るでしょう。何か、私の好きなホラー・オカルトとは別のただの技術に思えます」
やはりもう一度あのほぼタコの悪魔クラーケンさんに会って詳細を聞くべきかも知れない。意図せず喚び出された側が事前に詳しく何が起きていたか知ってるかは怪しいが、オカルトブームがあったと断言する理由は間違いなく知ってる筈だ。
(しかし悪魔に話を聞きに行くならばある程度こちらの準備も整えておきたい)
(話の裏取りは必要となるだろうし結局他の情報も必要だ)
(もどかしさはあるが悪魔に頼らず拾える情報も一旦手広く拾おう)
「これがシャーク様のサメ会議ですか。超常という意味では一番オカルトの領域であって正直ホラー好きとして興味が湧きますね」
「ゆらゆら揺れて可愛いのですが、その中では聡明なサメが3匹とたまに6つ頭のサメが会議してるそうで、興味が抑えきれません」
(いかん、揺れるな、ホラー好きに目を付けられてるぞ)
(アン先生もエレン様側の存在のようだ)
(この2人では武術と技術の両面から変な実験させられかねんぞ)
怖い。まず自分が揺れてるのを知らなかった。
「あっ、両面…?」
「おや、サメ会議で何か分かったのですか」
「あ、いえ、あんまりサメ会議は関係無いのですが、アン先生や皆に伺う内容を絞りすぎたのでは無いかと思って…。例えば、そう、オカルトかどうかも分からない謎の瘴気の事件と、その時期や場所であったオカルトを別々に聞くべきかもと」
「ふむ。なるほど。確かに繋がっていない可能性はありそうです。であればエレン様、原因不明の瘴気の多発した場所や時期の情報を分けて貰えますか。そのメモ帳、ホラーな案件には事欠かぬはず」
「はい!えっと…」
…いつのまにか少しずつアン先生とエレン様の距離が近づいてる気がする。危ないかも知れない。なんかもう若干楽しそうに情報交換してる気配がある。危ないかも知れない。
少しの間、私はウンウン唸りながら考え事をし、アン先生とエレン様は情報のやり取りを続けていた。
「…むっ。…血の湖。少しブラッドレイク姓の生徒の前ですべき話では無いのですが、宜しいですか?」
「え?…あっ私だ。はい、お願いします」
シャークはシャーロット=ブラッドレイクなのだが、ブラッドレイクさんは地域柄か意外と多いのもあって余計に姓で呼ばれる場面が無いのだ。
「ブラッドレイク。つまり血の湖の名前の由来は分かっていないので、これが元は一族の血脈的な意味の血なのか、昔は何らかの赤く染まる現象があったのか等は分かりません。しかし、名前のイメージから実際に血液をまじない的に用いる危険なオカルトが定期的に発生します」
「そして、不法投棄か何かが原因とされている水質の汚染やガスの話があるのですが、こういうのは具体的に何が捨てられたかとか、何が発生したかが分からなかったり…これが瘴気絡みだった可能性もあると思います」
アン先生のオカルト解説から綺麗な連携でエレン様の情報が続く。仲良し。
「なるほど、一定の場所で何かが積み重なって悪魔を喚ぶほどの事件に。それはかなり今回の事件に関係があるかも知れません。…というか悪魔が地獄の門を開く話をしていた時、血の池を生き血で満たし云々って言ってたんですよね…」
「おや」「あっ」
「私てっきり悪魔が言うからニュアンス的に血で作った池だと…でも本当に血液の池ならもう最初から血で満たされてますから…」
(そういえばそうだ、ポンドとレイクの認識ズレか?)
(あの時は他の情報が過多すぎて詳細に目を向ける隙が…)
(ゴースト八岐之大蛇ドラゴンで過多だと思っていたのに…)
((((((ゴーストゴーレム八岐之大蛇メカドラゴンかっこいい))))))
「ふーむ。なるほど。これはなかなかに厄介そうです。私も協力はしますが、貴方達はどちらにしても根気強くブラッドレイクを調べねばならなそうですね」
「はい。アン先生、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました。今度はホラー小説の話もさせて下さいませ」
アン先生にお礼を言って一旦お開きとなる。仰る通り、血の湖の情報をある程度集めてからでないと話にならない。
それに、悪魔が出てきたのも帰すのも同じ場所というのは可能性が高いけど、それはちょっと良くない流れだ。結局悪魔を帰したかったら地獄の門を開きましょう、つまり血の惨劇を起こしましょうという避けたいイベントへの誘導が見えてきてしまう。
「…元のゲームの状態では、恐らくイベントが起きるのが前提として発動の仕方に柔軟性があるのではと推測はしていました。あるとすれば”プレイヤー”が他の方法で解決する方向であって、私が普通に探る範囲では結局血の惨劇に結末が収束してしまう可能性があります」
(ティア様の別解決方法を奪うという想定はもうしている)
(しかし瘴気をどうにか防げるか程度では倒した後の保証が無い)
(大体、本音で言えば倒したく無いのだろう)
「うーーーーん」
せっかく令嬢でサメなのだから、出来ればなんかこう優雅に無敵に解決したい。重く湿っぽいのではなく。きっとまだまだ落第点な気がする。
「シャーク様、普通に探って駄目という話でしたらご安心を。普通じゃないほど探して、普通じゃない解決方法を見つければ良いのです。サメとワニが味方の時点でとっくに一歩踏み越えているので、少なくとも必ず普通の枠は超えられますわ」
((((((そうそう!そういうやつ!))))))
「そうですわ。そういう感じのやつです。いつもありがとうございますエレン様。ちょっと眉間にシワが寄りかけていたので、甘いものを補給してまた作戦会議ですわ」
「まずは普通じゃない大きさのスイーツの情報をお教えします。実は私も自慢のつもりだった情報収集の腕に甘さを感じて、少し大きな気晴らしがしたいかも知れません」
「そんな、エレン様の情報は本当に凄くて…」
「いえ、無敵のサメを前にしているのに想定が小さすぎました。サメならば合体して巨大ロボになるくらいはありえるはず」
「いいえ!?」
((((((巨大ロボなりたい!))))))
(よせシックス!)(いかん!)(ハイドラさんみたいになるぞ!)
甘味処に向かいながら思考を巡らす。血の惨劇への情報収束にちょっと怯みを感じたけれど、血の湖を調べたほうが良いと分かった事自体は進捗として悪くないのだ。詳細を調べつつも、エレン様の言うように普通を超えた何かを探そう。出来れば私のサメがロボにならないやつで。




