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エンジェルウォー・フロントライン  作者: Regulus
第一章 物語の始まり
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死神とミツキ

 ミユキは多少の怪我を負いながらもトオルと共にオオツカが不在の天使殲滅策略本部の復興を仕切り、トオルがカオルの看病へと回っていた間に至っては組織の指揮をすべて担ったため疲れがたまり、ミツキの眠る病室で寄り添うように眠っていた。

 病室の窓から差し込む朝日がミユキの頬を焦がし、吹き込む風はカーテンを揺らし、ミツキの顔をあらわにする。

 寝ぼけ眼で見つめるミユキは傷ついたミツキの頬を少し撫でると、ミツキはその目を少しではあるが開き、その顔を見つめる。

「ミツキ!」

 半分眠っていたミユキの眼はその顔を見つめると、目を見開きミツキに覆いかぶさるように抱き着いた。

「…痛い」

「ご、ごめんミツキ」

 ミユキは自分がミツキの傷を開いたのかと思い慌てて離れると、その姿を見て絶句する。

「…本当にミツキなの?」

 その問いに対し、ミツキは不思議そうにミユキの顔を見つめる。

「どうしたの? ミツキ?」

 ミツキは静かに酸素マスクを外し口を開いた。


「君は一体誰だ?」


 ミツキの目に映るミユキの姿はどこか別人のようでミユキ本人もそこにいるミツキは、同一人物でありながらも別人であることが仮説から確信へと移ることができた。

「どういうことよ、ミツキ。私よミユキよ、幼馴染の」

 ミユキの返答を聞くも、ミツキの顔は一向に晴れることはなく、次第にはさらに曇りを増して行った。

「申し訳ない、思い出せないんだ」

「嘘でしょ…」

 ミユキは現実という壮大な壁に行く手を阻まれ、言葉に詰まっていると病室の扉を通り過ぎたトオルはミツキが起きているのを見て慌てて病室へと入り込む。

「み、ミツキ! 起きたのか!」

「君も、彼女の知合いですか?」

「どういうことだ? なあ、ミユキ」

 トオルはミツキのその姿を疑問に思い、ミユキの姿を見つめるもミユキはうずくまり一言も発さなかった。

「なんとか言えよミユキ、どうしてミツキは俺たちのことを覚えていないんだ? なあ?」

「ここで喧嘩はやめてください。僕が何をしたかはわかりませんが、その、ごめんなさい」

 普段であれば喧嘩を目の当たりにして謝ることなどあり得ることが無く、トオルはその姿を見て思わず息をのんでしまう。

「トオルさん」

「なんだ?」

「ミサキさんと起きてたら司令とカオルさんを連れてきてください」

「分かった。お前は?」

「私はここで待っています」

 トオルはミユキの頼みを聞き、自分が今すべきことをするために病室を後にした。

「君は僕のことを知っているのかい?」

「え?」

 ミツキの唐突な問いかけに対してミユキは驚いたが、自身でも不思議なほど即座に冷静に返答することができた。

「あなたのことは知らない。でも」

「でも?」


「死神と呼ばれた男のことはよく知っているわ」


 ミツキは自身が誰なのか、失った記憶とは何なのか。再びその疑問が深層へと深まっていき、ミツキはその場で口を閉じてしまう。


 しばらくの沈黙がその場に漂い、何人もその空間へと立ち入る事が出来ずに暫しの時間が過ぎて行った。

 ミユキは、その似ても似つかわぬミツキの姿、しゃべり方、思い悩むその姿勢。どこをとってもミツキとは呼べる存在ではなかった。

「その、死神と呼ばれた男というのはどんな人だったんですか?」

 沈黙に耐えかねたミツキは再びその口を開いた。

「そうね、彼はずる賢くて、ひねくれてて、どうしようもない奴だけど、いざというときにはどんな無茶をしてでも仲間を見捨てずにその場を切り抜ける馬鹿だったわ」

 ミユキはそういうと自身の記憶の片隅にいるミツキの姿が脳裏に浮かび、どこか遠く空のかなたを見つめてしまう。

「君は彼のことが好きだったんだね」

 ミツキがそういうとミユキは耳から顔が赤く染められていった。

「ば、馬鹿言うんじゃないよ! 私がなんであんな馬鹿のこと」

「嫌いだった?」

 純粋無垢なミツキの表情と共に投げかけられる質問に当のミユキ自身返答に困り、たじたじとしてしまう。

「…別に、嫌いじゃなかったけど」

「女の子って不思議だね」

「うっさい!」

 ミユキが逆上し、ミツキの肩を殴ると病室の扉からトオルとミサキが静かに入室した。


「ミツキ、本当に目が覚めたのね」

「だけど」

 ミユキが心配そうに見つめるミサキの肩を掴むと、彼女は静かに微笑みその手を軽く握った。

「トオルから話は聞いたわ。安心して、私たちは彼に助けられたの。だから今度は私たちが助ける番よ」

「そうだぞ、ミユキ。おやっさんも言ってただろ? 俺たちは家族同等なんだ、こんな時こそ手を取り合わないとな」

 二人のやさしさに当てられたミユキはその瞳を潤ませミサキの手を強く握る。

「皆さんいい方たちばっかりなんですね」

 ミツキはそういい、やさしく微笑んだ。

「いい人か。私たちはミツキに助けられた恩を返そうと思っただけなんだけどな」

 そう照れながら頬をかくミサキの傍ら、ミユキはあたりを見回し他に誰も来ていないものかと探すも誰も来る気配がなかった。

「トオルさん、カオルさんたちは?」

「それがまだ目を覚ましてないんだ」

「そうだったんですか…」

 ミユキは三度表情を曇らせうつむいてしまい、その場の空気が重くなってしまった。

「ま、まあ、ミツキだけでも起きたんだ。まずはそれを喜ぼうぜ?」

「そうよ、例え今記憶がなくてもいずれは戻るって先生も言ってたから」


 二人がミユキを慰める中ミツキは日が落ち始めた空を眺め、三人の会話に入っていくことのできない空っぽの自分を見つめていた。

「どうしたのミツキ?」

「いえ、何でも。すいませんが少し一人にさせてもらえませんか?」

「分かったわ。また何かあったら連絡して、私たちはいつでも駆けつけるからね」

「ありがとうございます」

 どこか他人行儀なミツキの反応にむずがゆくなったトオルは立ち上がりミツキの肩を叩き背を向けた。

「じゃあ、またな。行こうミサ姉」

「そうね、また来るわ」

「本当にありがとうございました」

 ミツキがそういうと、病室にはミツキ一人だけとなり騒がしかった空気も再び静かに、トオルが来た頃にはまだ明るかったその空は、星が輝くきれいな月夜へと移り変わっていき、病室の向かいの廊下は何人もいない静かな一本道へとなり、建物には静寂が染み渡った。

「俺は一体誰なんだ」

『ミツキ様』

 窓の外に生えた一本の松の木に人知れず隠れ、ミツキを見守っていたアモンはそこん誰もいなくなったことを確認し、病室の中へと大きな翼を羽ばたかせ侵入する。

「うわあああああ! フクロウがしゃべった!」

『本当に記憶がないようですね。私はこう見えてあなたのパートナーのれっきとした機械です』

「そうなの?」

『ええ』

 ミツキはアモンの体をまさぐるように、羽一本一本の裏側を探りアモンの赤く輝く瞳の奥に眠るカメラを見るなりその存在を容認した。

「それで君は何をしにここに?」

『そうでした、ミツキ様。近々迎えが来ます、あなたは戸惑うでしょうがあなたの記憶を取り戻すための最善の手段であり、ただ一つの方法ですのであしからず』

「そ、そうなんだ」

『それではまた近しいうちに』

 アモンはそう言い残しその場から飛び立った。

 ミツキは彼が何者だったのか迎えとは何なのか考えるが、考えれば考えるほど謎は深まり、頭痛に見舞われその場で気を失った。



 ミツキが気を失いしばらくすると、病院内のすべての電力が落とされ緊急警報が鳴り響き、電力がすべて予備電力へと切り替わった。

 警報が鳴る中、入院患者のいる病室はすべて自動でロックがかかり誰も病室へと入る事が出来なくなる中。窓を開けたまま気絶するミツキの元へ何者かの手が伸びる。

「あなたがミツキね。彼の言った通りまだ子供ね」

 窓からの侵入者は身にまとっていた薄汚れたローブを脱ぐと、そこに警報を聞いたミユキが駆けつける。

「あなた何者?」

 ミユキは太ももにつけていたハンドガンを侵入者へ構えると月あかりが病室内へ差し込み、侵入者の姿が煌々と照らされるとそこには、髪の短く全身を黒い防弾スーツで覆った少女の姿があった。

「私は……何ものでもない」

 そういうと少女は腰につけていたフラッシュグレネードの栓を抜きミユキへと投げる。

 ミユキはそれを避けることもできずに視界を一瞬にして光に奪われ、目を押さえるも青白く見える視界の中では到底何も見えることはなく、視界が戻るころにはミツキも少女もその場にはいなく、痕跡すら残っていなかった。


「……嘘でしょ?」


 あたりを見回したミユキは失意の念に駆られその場で泣き崩れた。



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