死神が消えた日-1
天使殲滅策略本部大講堂の壁が爆散し、そこにいた職員もろとも無残に瓦礫の下へと埋もれていた。
カオル以外のABFパイロットや、整備長のモリタ、元軍人であったミサキ、オオツカはその瓦礫を押しのけ多少の怪我はあるもののその場を切り抜けられたものの瓦礫の下敷きとなった職員はそうはいかず多くのものが重傷、軽くても骨折と被害は数え切れなかった。
モリタは天機が崩壊させた講堂の壁に最も近く、その場の誰よりも巨大な瓦礫に押しつぶされたカオルを見つけ、腕の傷から血を流しながらも持ち前の怪力を活かし瓦礫を避ける。
どうやら運よく鉄柱がうまく重なり合い体が押しつぶされることはなかったが、頭を強打したためその鮮やかな金髪が根元から赤く染まっていた。
「お前さん大丈夫か!?」
モリタが呼びかけるも意識を失っているためカオルの返事はない。
「クソッ! 早く医務室に連れて行かねーと」
モリタはカオルの体を引き出そうとするも、彼自身無傷ではなかったためうまく力が入らない。
「さっきの瓦礫のせいで持ち上がらねえ!」
「私も手伝います!」
そういいモリタと共にカオルの体を引き出したのはミサキだった。
ミサキ自身、最も壁から離れた位置にいたため大きな怪我こそなかったが、崩壊した壁の瓦礫が飛来しその額に命中、額からは血を流し左目を赤く染めていた。
「ミサキ! その目!」
「気にしないでください! それよりも早くカオルを!」
「分かった」
そういいモリタは負傷した腕に鞭を打ちカオルを担ぐとおぼつかないい足取りでその場を後にし、医務室へと向かった。
モリタが医務室へ向かうため施設内の長い廊下を歩いていると、カオルがうっすらと意識を取り戻し何かを言いたそうにその口を開く。
「うう…」
「カオル! 目ぇ覚ましたか!」
「お兄様を…止めなきゃ…」
「大丈夫だ安心しろ! 向こうにはミツキもいる、何ら心配することはない」
そう言われ少し心配そうな表情を浮かべるとカオルは再び気を失ってしまった。
「また気を失ったか」
モリタは少し安心したようにカオルを抱えなおすと自分の顔に活を打ち再び歩き始めた。
「さあ、急がねーと」
先をモリタはカオルを医務室へ運ぶことにしか気が入らず自分の怪我すら忘れていた。
腕から流れ出る血が一滴一滴地面へと落ちその度モリタ自身の意識も遠のく。何かないかと探し、あたりを見回すとカオルのポケットから一枚のハンカチが今にも落ちそうになっていた。
「すまないカオル、緊急事態なんだ」
そういうとモリタはカオルのハンカチを自分の歯と右手で左腕から流れる血を一時的に止血したものの、現状完全に止めることはできず少しずつ流血していく。
歩くたびにモリタの腕に巻いた白いハンカチ。今まで白かったそれは徐々に赤く染まっていき医務室へ着くころにはハンカチの色そのものが赤へと変わるほど流血していた。
「はあ、はあ、着いた」
モリタは朦朧とする意識の中で医務室の引き戸をもたれかかるように開けるとそこにはすでに何人ものけが人が運び込まれていた。
「アキ! 居るのか!?」
モリタは残された力を振り絞りその名前を呼ぶと、部屋の奥から額に汗をにじませたアキが息を切らして走ってくる。
「ジロウその怪我! カオルちゃん!?」
目の前の光景や現在の状況に脳の整理が追い付かずアキの額からは脂汗がにじみ出る。
「早く、こいつを…」
「分かった! 衛生兵、早くカオルちゃんをベッドへ!」
アキの呼びかけに衛生兵二人が駆けつけカオルを一番近いベッドへと移動させる。
「何とかなったな」
モリタは何とかカオルをアキへとたくすとその場に膝をつく。
「ジロウ! あんたなんて無茶してるの!」
「俺はいいんだ、早く戻ってほかのやつらもつれてこないと」
モリタはようやく空いた両手で膝を抱え立とうとするもうまく力が入らないどころか、視界すらも確保できていなかった。
「無茶しないで!」
「無茶なんてしてないさ、はあ、俺はあいつらをほんとの子供のように思ってる、だからこそ俺はあいつらを助けなきゃいけないそのためならこの身すら惜しくはない」
モリタは自分の体に再び活を入れると、辛うじてその場に立つことはできた。
しかし、その腕に巻いていたハンカチももう限界を迎え、モリタの腕の傷口からは一筋の赤い血が重力の通りに流れ落ちる。
「そんな怪我で何ができるの! あの子たちを大切に思うならまずはあなたが自分を大切にしなさい!」
アキの言葉はすでに届いてはおらず、モリタはその場ですでに立ったまま気絶していた。
「ジロウ!」
アキは慌ててモリタをベッドへと運び、モリタと同じ血液型の輸血パックを手に腕に残された瓦礫を取り除く準備を始める。
アキはモリタが横になるベッドの横へ座ると、その傷口に残された瓦礫をピンセットを使い慎重な手つきで取り出し、銀色の滅菌トレーへと置いていく。
流れ出る血はすでに止まり始めてはいたが、傷口に入っていた瓦礫は細かいものもあれば大きいものもあり、完全に傷口が塞がってしまっては取ることは困難。急いで取ろうとするとそれは奥深くへと潜り込んでしまうため急ぐこともできなかった。
「なんでこんな状態でここまでこれたのよ!」
アキが慎重にモリタの体から瓦礫を取り出し終えると滅菌トレーには細かい瓦礫が小さい山を作っていた。
「うう…」
麻酔をかけずにやったため、気を失っていたモリタはその痛みを感じ意識を取り戻し、その体を起き上がらせようとするも、血を多く失っているため血圧が下がりうまくからどぉ起こすことができない。
「ジロウ、今傷口縫うから待ってて」
そういいアキは手慣れた手つきでその傷跡を縫合してく。腕に針が刺さる痛みでモリタは徐々に意識を回復させていき、アキが縫合を終わらせるとその意識はほぼ回復していた。
「全く、麻酔ぐらいかけてくれよ」
「仕方ないでしょ緊急事態なんだから」
「それもそうか、それでカオルはどうなった?」
モリタがそういうとアキは静かに隣のベッドへ視線を移す。
そこには額に大きな絆創膏をつけ、首にコルセットをまいたカオルがベッドで眠っていた。
「あれは大丈夫なのか?」
「まあ、何とかね。どこかの誰かさんが血みどろでここまで運んできたおかげでね」
そういわれるとモリタは何かを思い出したかのように、ベッドから起き上がろうとする。
ベッドに建付けられた手すりに手をかけると目の前が暗転し再びベッドに倒れこんでしまった。
「まだ無理しないでよ、ジロウ、あんたねあんだけ血流したんだから輸血しないと今みたいにぶっ倒れるんだからね?」
「だがな、俺は早くあいつらを」
「それなら安心して、今うちの衛生兵たちが急いで向こうに行ったから今頃処置を受けてるはずよ」
アキはモリタが起き上がろうとするのを止めると点滴スタンドに輸血パックを用意し、輸血の準備を始める。
モリタはその手際のよさに感心しているとアキが袋を破り中から太い輸血用の梁を取り出すのが目に入った。
「なあ、なんだその太い針」
「輸血用よ。もしかして」
アキは何かを感づいたかのようにじっとりとした目でモリタを見つめる。
「なんだよ」
「いや? さっきまで俺が守る! とか言ってた男が針なんか怖いわけ?」
モリタは額に汗をにじませる。
「ほら答えなさいよ」
「そうだ、俺は針が苦手だ!」
「まあ、そんなに慌てなくても一回刺しちゃえば痛くもかゆくもないわ」
そういいアキは抵抗するモリタの太い腕に輸血用の針を刺そうとすると部屋の奥にいた衛生兵の一人が慌ててアキを呼びつける。
「室長!」
「何! こっち忙しいのよ!」
「外を見てください!」
アキが外を見るとそこには無数の天機を相手に講堂にでき大穴を守る、死神、ガンスリンガー、オーディンが苦戦を強いられていた。




