戦争と国家-6
ザイゼンが天使殲滅策略本部職員の前で演説し終えるとその場にいた全員の目線が冷めきっていることに気が付きその場の全員の顔を眺める。
「なんだ、貴様らその目は」
「お前まだ理解してないのか」
全職員に軽蔑の視線を向けられるザイゼンの目の前に、首を鳴らし周りと同じく軽蔑の視線を向けるミツキの姿があった。
「なんだ軍人」
「まだ理解してないのかって言ってるんだ」
ミツキはそういうとその拳をザイゼンの顔めがけて振りかざす。
「ちょっと、何してるのミツキ」
その場に到着したミユキはその無茶な行動を目の当りにして止めないはずもなく、大講堂の入り口から慌ててミツキの元へ駆けつけると、その振り上げたこぶしが止まり。
「ミユキ、体調はもういいのか?」
ミツキの問いかけにミユキは自分の頭をさすりながらミユキは歩み寄る。
「まあ何とか」
「何を話している! さっさと話せ、我が何を理解してないというのだ!」
「はあ」
何も理解していないザイゼンの姿を見てあきれ果てたミツキは大きくため息をついた。
「なんだその態度は、そもそもお前はここに来た時から気に食わんのだ。その反抗的な態度、我を見下すようなその姿勢、我はお前が気に食わん。おいオオツカ!」
「なんでしょうか」
「国防長官命令だ、この畜生を即刻射殺しろ」
「ですが!」
「なんだ貴様も我に逆らうのか、ならば仕方ない」
ザイゼンはそのはち切れんばかりに張り詰めたスーツの胸ポケットから一丁の拳銃を取り出す。
「ザイゼン国防長官、それはさすがに横暴ではないのでしょうか」
「貴様はただの司令官であろう、そんなお前が我に逆らったのが悪いのだ」
ザイゼンはその銃口をオオツカへと向ける。
「全く、これだから政治家は。私は止めましたよ」
オオツカのその発言に疑問を持ち、ザイゼンは彼の見つめる視線の先を見ようと振り返る。
しかし、行動を起こすにはあまりにも遅く、ザイゼンの動きはその蓄えた脂肪により動きが制限され振り向く速度は情人よりも遅かった。
「まったく何を言って……」
ザイゼンが振り返りきる瞬間すでにザイゼンの姿は宙へと浮いていた。
「き、貴様何をしたかわかっているのか!」
右の頬をさするザイゼンの前には、拳を構えたままのミツキの姿があった。
「悪いな」
「み、ミツキ! なんで殴ったのよ……」
ミユキはその状況について行けずその場で気を失いかけた。
「貴様、撃ち殺してやる!」
ザイゼンの銃口がミツキへと向けられたのと同時に背後にいたトオルがその背中から羽交い絞めにした後、構えていた拳銃を叩き落した。
ミツキの元へ転がる拳銃、目の前には無残にも足を投げ出したザイゼン。そしてその場にはミツキを止める者はいない。
ミユキの脳裏にはこの先のミツキの行動が見えた。見えてしまった。
「やめてミツキ!」
ミユキが止めに入った数秒間のことだった。
ザイゼンの右太ももは乾いた銃声と共に打ち抜かれその場には血が噴き出し、ザイゼンは痛みに悶える表情はなく、平然とした表情でミツキの顔を舐めるように見つめる。
ミツキの背後でザイゼンを睨むミユキは太ももにできたその傷跡はじわじわとふさがっていくのが見えた。
「なんなの」
「ミユキや、ここの全員が見るべき真実だ」
その場の人間全員が見たのは銃弾により空いた穴から銃弾が吐き出されその傷跡が塞がっていく姿。ザイゼンはすでに人間をやめていた。
「全くどこまでもいけ好かないガキだ」
今までと口調は変わらないがどこか今までとは雰囲気が変わっていた。
「トオル、そいつの首元を見ろ」
そういわれるとトオルはザイゼンの着用していたワイシャツの襟元を引きちぎるとそこには奇妙にうごめくザイゼンとはまた別の後から移植された細胞が脈を打っていた。
「あれって」
「ミユキ、カオルを呼んできてくれ」
「待ってよミツキ、まずはこの説明をして」
「カオルを連れてくるのが先だ」
「分かった」
ミユキは渋々カオルを呼びに隣接している応接室にカオルとザイゼンの息子を呼びにその会場を後にした。
「な、なあミツキ、いい加減抑えてるの疲れたんだが」
「ごめんトオル忘れてた。だけどもう少し耐えてくれ」
トオルがその太った体を抑え込みミユキを待っているとザイゼンの体が異様にけいれんし始める。
「う……ぐ……」
「おい、何事だ!?」
トオルのザイゼンを抑え込んでいる手が急に振り払われる。
自由の身となったザイゼンの痙攣は腕から始まり、足、頭。そして全身へと広がっていき、その痙攣からおおよそ30秒が経ったその時ぴたりと痙攣は止まり、ザイゼンは不自然に立ち上がりミツキを睨みつける。
「貴様……だけは……」
睨みつけるその目の瞳孔は開き切り、見つめられた本人は恐怖を感じるほどに鋭かった。
「ミツキ、いったいどうなってんだ」
「ここまでは俺も知らない」
ザイゼンがミツキを睨み数分が経つと会場の入り口からカオル、ザイゼンの息子。そしてアキを連れてミユキがその扉を開いた。
「お兄様!」
「カオル! ってなんでそのガキまで連れてきたんだ」
「僕が来たいって言ったんだ」
ザイゼンはミツキを睨みつけたまま膠着し、首元の細胞は動きを止めるどころかザイゼンの皮膚と同化し始めていた。
「なあ、ミツキ連れてきたんだから何が起きてるか話してよ」
ミユキはその表情を変えミツキの元へ駆けつける。
「分かった、恐らくこいつらは疑似NEXT、天使に命を売ったクズだ」
「疑似NEXT?」
「ミユキ、お前も見ただろ。セカンドの明らかにおかしい身体能力にこいつの異常な回復力。これはまさしく天使のそれと類似している」
「確かに似てるけど、どこか違うように思える」
ミユキの脳内には、ザイゼンとは異なりどこか安定していたセカンドの姿が浮かんだ。同じく首元には禍々しく蠢く細胞はついていたもののここまで一体化した印象はなくある程度当人との融合を拒んでいる印象があった。
「その通り、元来人間の脳はその機能の10%しか使われていないといわれてきたが、実際は適度に満遍なく使われている。しかしNEXTはその機能のリミッターを外すことによりその身体機能を向上させている。こいつの場合は外部から細胞を取り込み疑似的にNEXTになったいわゆる出来損ないだな」
「出来損ない……」
ミユキはその現状をひしひしと受け止め始め、ザイゼンがすでに助からないことも理解していた。
*
ミツキが淡々と説明をしていると奥からサトルが走り寄ってくる。
「パパ!」
サトルは固まったまま動かないザイゼンのその体に抱きつく。
しかしその体には反応はなく、瞳孔は開ききったその目はすでに何にも見えてはいなかった。
「パパ……?」
「あきらめろ。もう死んでる」
その一言は齢12歳の少年にはあまりにも残酷であり、甘やかされてきたザイゼンの息子には理解の及ぶ出来事ではなかった。
「嘘を言うな! パパは立ってる、生きてるんだ!」
理解が追い付かず逆上したサトルはミツキの胸ぐらを掴みその顔を睨みつける。
「何か言えよ! 軍人!」
しばらくの沈黙の後、胸ぐらを掴まれたミツキの怒りが最高潮へと達した。
その行動に憤りを隠しきれなかったミツキのその拳はすでに振るわれていた。
「甘ったれるな」
「ミツキ!」
ミユキはミツキが暴れだしたのを羽交い絞めにし、止めるも男と女では力の差があり完全に止めきれずその腕の中からミツキが荒々しく抜け出した。
「ガキ! お前がカオルに父さんを止めてほしいって頼んだんだろ!? 違うか!」
「なんでそのことを知ってる」
ミツキは制服の胸ポケットからカオルと通話状態の携帯電話を取り出す。
「いいか、俺たちはな常日頃から二手三手先を予測して生きてる。お前が最初から隠し事をしてたことぐらい予測できた。ただそれだけのことだ」
「何のために?」
「それは……」
ミツキは一呼吸置きその事情を説明しようとサトルの肩を掴むと大講堂の壁が爆発したかのように崩れ落ちる。
間一髪ミツキはサトルを抱え無傷とまではいかないがその場から生還することができた。
他の面々もミツキ同様その場から辛うじて生き残れたが、天使殲滅策略本部職員数名はがれきの下敷きとなり、生死は確認することができなかった。
「ゴホッゴホッ。なんだ?」
トオルは背中に乗った瓦礫をその持ち前の根性で押しのけ爆散した壁をかすむ目で見るとそこには指揮官用天機の姿があった。
「皆さん久しぶり」
天機のコックピットが開くとそこからはセカンドがしたり顔で現れる。
「お前!」
「やだな、トオル団長。そんな目を向けないでくださいよ」
トオルの鋭い眼光を受けてもなおセカンドはにやけ顔を保ち続けている。
その様子は以前とは異なりどこか、怪しく、禍々しかった。




