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エンジェルウォー・フロントライン  作者: Regulus
第一章 物語の始まり
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戦争と国家ー2

 現在日本という国家は残された領土の一割を担っており、もとより持ち合わせていたその技術力から世界からの厚い信頼を得ていた。

 無論技術力のみで信頼を得ているわけではなくその謙虚な姿勢からも称賛され各国からの支援を受け取るほど裕福な国へとなっていた。

 しかしそれもつかの間の空想。政治家がそれに目を付けないわけもなくそのほとんどが政治家のポケットマネーへと流れて行った。

 その中でも群を抜いて支援金を着服してるのが国防長官の地位に立ち最低最悪の政治家の異名を持つザイゼンカネミツであった。



 出迎えへと軍門の前にて待機していたミツキら三人の目の前へと止まった高級車から降りるザイゼンはその革靴を荒野へと降ろし、そのふてぶてとした胴体を見るからに貧弱な脚で支える。


 住宅街がある中心都市から離れた位置にある天使殲滅策略本部は、政治家の住む地域からも列車は走ってはいないため車での移動が余儀なくされる。その移動距離は時間に換算するとおおよそ2時間。


「全く、なぜこんな辺境の地にあるのかいささか疑問だな」

 ザイゼンは車でも葉巻を吸っていたのであろうとその場にいた誰もが察せるほど、車からは多大なる量の副流煙が漏れ出す。

「パパ、もう着いたの?」

 ザイゼンに続いて車からは息子であろう子供が煙にやられた目をこすりながらけだるそうに降りてくる。

 トオルはその情景を見るなり「子供のこと考えないのかよ」などとぼやくもザイゼンの耳には届かなく、それどころかトオルら出迎えの兵士に土をかける始末。

 護衛よりも早く車から降りたザイゼンは護衛の黒服が降りきるのを待つと大きく口にくわえた葉巻を吸い込み、煙を吐き出した。

「はあ。全くなんだねここは暑いったらありゃしない」

「ねえ、パパ。早く行こう?」

 横柄なその男は指先で握った葉巻を深く吸い込みカオルに濃く濁った煙を吐きかける。その後葉巻を口にくわえ、今まで葉巻を持っていた手を高級服を着た子供の頭にのせる。

「そうだな坊や。早く中に入ってアイスでも食べさせてもらおう」

「ありがとうパパ」

ザイゼンが子供に向けるはずのその目線はひどく腐りきっていた。

「で、ここの責任者はどこにいるのだね?」

「お待たせいたしました。」

 ミツキら三人の後方からは責任者であるはずのオオツカの太い声ではなく、か細いミサキの声が聞こえた。

「ほう。君が第一秘書のサエジマ君だね、噂は常々聞いているよ。しかし、噂よりも美しく、何より若いではないか」

「ありがとうございます」

 ザイゼンはその脂肪に埋め込まれた下品ではしたないその視線をミサキへと向けると、あたりを見回し、そこにいるはずの人間がいないことを察した。

「しかし、ここの責任者であるオオツカとかいう男はどうした?」

「はい。ただいま責任者のオオツカがただいま出張のため代理責任者として第一秘書である私サエジマミサキが対応させていただきます」

 横柄な態度をとるザイゼンに対しトオルは憤りを隠しきれずにいた。今にもと飛び出しそうなその拳を必死に抑える。

 勿論双子の妹であるカオルがそれを止めないはずもなかったが今回ばかりはカオルもトオルと同じ感情を抱いており、お互いその発作とも呼べる怒りを必死に抑えているだけで精いっぱいだった。


「ねえ、パパ暑いから早く中に入ろう?」

「そうだな、そこの兵士」

 ザイゼンはその太りきった指をカオルへ指した。

「私?」

「そうだ貴様だ、貴様名は何と申す」

「ミシマカオル、第二兵団団長です」

「ふむ、特別に貴様に息子の子守を任せる、ありがたく思えよ?」

 そういいながら近寄るザイゼンはその手をカオルの腰あたりへと回す。その手が脇腹へと触れるとカオルは額から尋常ではないほどの冷や汗を流し鬼の形相でその手をつかむ。

「このク……」

「おっと、そんなこと言っていいのかな? 私は国防長官だぞ、我々上流階級の人間に盾ついていいと思っているのかな? 個々の資金は私たち国防省が決めている、つまりは君たちの命も私が握っているのだよ。たかが軍人風情がそんなこと言ってみろ、即刻射殺するぞ」

 いつどんな時でも自分の兄であるトオルと本部の人間全員の安全を考えているカオルはその言葉の重さをこの中の誰よりも理解していた。

 ただでさえ物資が不足している中で生命線である国からの支給金が途絶えてしまうこと。すなわちそれが死を意味していると。


「了解いたしました」

「分かればよろしい。さあ、坊やこの軍人に遊んでもらいなさい」

「うん! 分かった!」

 腰元へと回っていたその手はいつしか尻のほうへと回っていた。


「それにしても、ここの人間は私が重い荷物を持っているというのに誰も持とうとしないのか! 特にそこの軍人!」

 ザイゼンの目線はトオルを向いた。

「なんでしょう」

「先ほどからなんだその威圧的な目は」

「生まれつきで」

「口答えはいい、早く私の荷物を持て!」

 トオルの胸部へと押し付けられた本革のトランクケースは何も入ってはいないかの如く軽くトオルはその視線をさらに強くした。


「な、なんだ貴様。気に食わん、名前と階級を述べろ!」

 トオルはその場に残った副流煙もろとも空気を吸い込み、誰しもがおののくほどの大声を出した。

「ミシマトオル、天使殲滅策略本部機動兵団第一弾団長であります!」

 ザイゼンはその大声を直に浴び一瞬耳が聞こえなくなった。

「耳元で叫ぶな! 全く。おい、そこの」

 その指はミツキを指しているが、ミツキは表情一つ変えずに聞こえないふりをした。

「無視をするな! そこのお前だ、そこのすました顔の軍人!」

「すいません、恐れ多いのですがもしかして俺のこと言ってますか?」

「貴様以外に誰がいる!」

「えっと、カオルにトオルにミサキに、それと付き人の二人ですかね」

 人数に含まれなかったザイゼンはさらに怒りがました。

「それでは我々親子が人数に含まれてはいないではないか」

「いえ、豚がしゃべったものですから人数にいれませんでした。もしやあなたは人間なのですか?」

 

 ミツキの言動に思わず吹き出してしまう天使殲滅策略本部の面々。しかし笑ってしまったのとミツキの言動により全員は冷静になり、三人同じくミツキに対する危機感の無さに呆れはてた。


「貴様よくもコケにしおって。貴様に処罰を下すためにも所属と名前を聞いてやる」

「名前はドウジマミツキ。階級は無し、所属もなし」

「なんだ貴様ただの一般兵だったのか」

 ミツキはあきれたかのようにため息を一つつくとその一度は閉じた口を再び開く。


「これだから頭の悪い豚は嫌いなんだ。俺はもとより此処の兵士ではない、それよか俺はお前に指図される立場ではない」

「なんだと? ではその制服は何だ、ここの制服ではないか」

「俺にとってここは生きるためのただの寝床でしかない。これも脱げと言われればたやすく脱げるぞ」

 ザイゼンはミツキのその圧倒するような口調に恐れすら感じ、その場から一歩後ろへ下がってしまう。

 その刹那その場は静寂に包まれ、その舞い上がった砂ぼこりがなした音は各々の耳に伝達された。


「まあいい。サエジマ君早く中へ案内してくれ」

「分かりました。ではこちらへ」

 そういいサエジマはミサキの先導の元、本部の建物内へと足を運んだ。


「全くよく言うぜ」

「何が?」

「いや、あのくそみたいな国防長官に権力ふりかざされている中豚だのなんのってよく言えるなってこと。全くこれで資金が来なくなったらお前のせいだからな。その時は覚悟しろよ?」

 そういうトオルの表情は口角が緩み今にも笑い出しそうなほど笑いをこらえていた。

「トオルこそ今にも笑い出しそう」

「馬鹿言え、気のせいだろ。俺は先に行くお前も早く来いよ」

 そういいトオルはミツキに背を向ける。

「そうだね、でももしそうなったら俺が軍からいなくなればいい話だ」

「なんか言ったか?」

「いいや何でもない」

 トオルは聞こえていないそぶりをしたが、実際は聞こえていた。

 そしてある一つの憶測が脳裏をよぎり立ち止まる。


「なあ、ミツキ、お前ここからいなくなる気じゃあないだろうな?」

「まさか、ここは俺が生きるために必要な施設だ。簡単にいなくなりはしないさ」

 その言葉を聞きトオルは内心ホッとした。

—まさかなミツキがここからいなくなるなんてことないよな。くそっあんな男のせいで、俺はなんてことを考えてるんだ。


 トオルはその浮かない顔に自分自身で活を入れると再び本部目指し歩き出した。



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