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エンジェルウォー・フロントライン  作者: Regulus
第一章 物語の始まり
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戦争と国家ー1

 セカンドとの交戦から数日後、天使殲滅策略本部は全国的な猛暑や天使によるライフラインの断絶などにより急激な資材不足に陥っていた。

 無論今まで資材不足になったことが無いこともなくそれと類似した状況は多々あったものの、局員へ配給される食糧の削減などを行い急場しのぎではあるが乗り越えることができてはいる。

 しかし今回はそうはいかず負傷者も多数いることにより物資は急速に減っていき天使殲滅策略本部は危機に陥っていた。



 冷房の効かない天使殲滅策略本部に居ても立っても居られなくなったトオルは格納庫裏口のシャッターを開けてすぐの畑で作物に水を撒いていた。

 いくら資材不足になろうと最小限の食糧を確保するために設置されていた畑であったが、そこでとれる農作物の量もたかが知れており、さらには猛暑によりさらに減少の一途をたどっておりトオルは半ば餓死すらあるのではないかと諦めていた。


「全く、国からの物資はまだかよ」


 トオルはその頭を無作為にかきむしる。本部内の電気設備の70%を落としていることもありその服装もTシャツに短パンと今にも虫取りに行きそうな少年のような格好になっていた。


「お兄様、そんなことを言っても仕方ありません。今はこの状況を耐え忍んでいくしかないことはお兄様が一番わかっていることなんじゃないですか?」


 そういうカオルは女としての威厳を保てないほど軽装になっており、上半身はほぼ半裸に近く、下半身はトオルと同じく半ズボンをはいているものの足元は靴を履くのではなくビーチサンダルとトオルと同じく夏休みを堪能するような格好をしていた。


「とはいえ、こんな状況だ。そう言うしかないだろってカオル、なんだその服装は!」

「そりゃあこんなに暑かったらこんな格好にもなりますよ、お兄様もそんなTシャツ着てないで私と同じく上だけでも脱いじゃいましょうよ」


 ミシマ兄妹がじゃれあっていると涼しい顔をしたミツキがその間を音もたてずに通り過ぎて行こうとする。

 その恰好は二人とは違いピッシっと上までボタンを留めた本部の制服の上下を着ており、足元はミリタリーブーツと見る人横を通る人全員が暑苦しい印象を受ける服装をしていた。


「……二人とも邪魔」

「おお、すまんな。って何だその暑苦しい恰好は」

「全く暑苦しい恰好ね、見てるこっちも暑苦しくてたまんないわ」

「そっちこそいつまでそんな格好してるの?」

 ミツキはその視線を薄着のカオルに向ける。

「いつまでって言われてもなこんなに暑かったら……」


 三人がわき目も気にせず喋っていると遠くのほうからミシマ兄妹の制服を抱え汗だくになりながら走ってくるミユキの姿が陽炎の奥にうっすらと見えた。

 最初は一生懸命に走っていたが徐々に失速していき三人の元へあと数十センチのところで膝から崩れ落ちてしまった。


「あ」

「倒れた」

 すでに冷静な思考回路を保っていないトオルは状況を理解するのに数十秒かかった。

「大丈夫かミユっ!」

 トオルは刹那その場に倒れた。

「ミユキちゃん!?」

 カオルがトオルを押しのけ急いでミユキへ駆け寄るとかろうじて意識はあるものの眼を回して気を失っていた。


「おいおい大丈夫か?」

「お兄様、ちょっとそのホース貸してください」

「おう、いいぞ」

 カオルがホースを受け取るとその口を細くさせミユキの口の中へダイレクトに押し込む。

 ホースを押し込まれたミユキの顔はみるみる青ざめていき限界かと思ったその時、ミユキは口から滝のような量の水と口にくわえたホースを吐き出し目を覚ました。

 ミユキの眼の瞳孔は開き一度死んだかのようなリアクションを示す。


「だ、大丈夫?」

「カオルさん。多分大丈夫です……」

 一呼吸つくとミユキはあたりを見回し地面に散乱している制服を見るなり自分がなぜここに来たのか理由を思い出し掌の上で拳を叩く。

「そうでした!」

 急な破裂音がトオルの耳に響く。

「どうしたんだ?」

「これから国の国防大臣が来るそうなんですよ! 噂によると施設見学みたいで私たちが案内しなきゃいけないみたいなんです」

「みたいみたいうるさい! とりあえず分かったわ。で、あとどれくらいで着くの?」

 ミユキが静かに腕時計を見ると時刻は午前九時を指していた。

「あと三十分くらいで着くと思います」

「おいおいもう時間ないじゃねーか! カオル今すぐ戻って準備するぞ!」

「はい! お兄様!」

 ミシマ兄妹が血相を変えてその場から走り去ろうとするとその襟が勢いよく引き寄せられる。

 何事かと思い二人が振り返るとそこには二人の制服を抱えたミユキが何かを話したがるかのようにもごもごと口をごもらせている。

「ま、待ってください、今、ここに制服はありま……」

 最後まで話す暇もなくミユキは再びその場に倒れ伏してしまった。



 ミシマ兄妹がせっせと準備を進める中ミツキはミユキを抱え医務室へと訪れていた。

 医務室の扉を開ける乾いたキャスターの音は決して昼寝をしていたアキの眼覚めには心地の良いものではなかったようで人相が悪くなっていた。

「なんなのようるさいわね」

「ここの立て付けが悪いだけだ」

 半ばいやいや起きたアキはミツキに一言文句でも言ってやろうと起きるとアキの眼にはミツキに抱えられぐったりとしたミユキの姿が入り込んできた。

「そんなこと言ったって……ってミユキちゃんどうしたのよ!」

「さあ?」

「さあ、じゃないわよ! 今すぐそこのベッドに寝かせなさい!」

「分かった」


 ミツキは冷静に医務室のベッドにミユキを寝かせるとミツキも安心したかのようにそっと腰を下ろす。


「はあ、全く手間のかかる」

「ため息なんかついちゃって、幸せ逃げるわよ」

「それは困った。アキみたいに婚期逃したくないな」

「あ?」

「イヤ……なんでもないです」


 ミツキがアキをからかいちょっとした喧嘩をしているとその物音に反応してなのかうっすらとミユキの瞼が開くと、その回復したてでぼやけるミユキの目線の先には取っ組み合う二人がいた。


「何やってるんですか?」

「ごめんね、起こしちゃった?」

「ここは?」

「私がいるってことは、医務室しかないでしょ」


 ミユキはそのうつろな瞳で周囲を見回す。

 何度も倒れているせいか意識も朦朧とし起き上がるのも困難だった。


「ミユキちゃん、お前は寝てろ。こっちは俺たちで何とかする」

 目に青あざを作り、口元を引っ張られた状態でミツキは語り掛けた。

「でも私もそっちに行くように指令を受けたのよ!」

「それでもだ、ミユキちゃんはここで休んでくれ」

「分かった、そうする」

「分かったならもう寝ろ。俺は行ってくる」

 そうはいったものの心のどこかでは心配になりどっちとも取れない気持ちにミツキは駆られてしまった。

「まあまあ、ミユキちゃんはただのただの軽い熱中症だから私に任せて早く行きなさい」

「手出すなよ?」

「それはどうかな~?」


 アキは思い詰めていたミツキに変わらずふざけると、ミツキは心の安静を取り戻し医務室を後にした。



 ミツキが医務室を抜け軍門の前へとたどり着くとすでに時刻は九時二十五分を回っていた。

 彼らが見つめる目線の先に広がる陽炎の奥からは一台の高級車がそのボンネットを見せ始める。


「遅いぞミツキ」

「そっちこそ早いねトオル」

「とは言ってもこんな時間だぞ」

 その腕につけられていた時計をミツキに向けるも、ミツキは見向きもしなかった。それよかミツキはその視線を目の前の高級車に向けていた。

「ってなんだよ見てないのかよ」

「あれが例の国防大臣か?」

 トオルは時計を出したほうの袖を直すとミツキと同じ方角を見ると、先ほどまでボンネットしか見えていなかった黒塗りの高級車がその全貌を現していた。

「そうだ。ったく本当に悪趣味な車だよな」

「何言ってるのよお兄様、あいつがいなくちゃうちの組織は解体されるのよ」

「とは言ってもなあ……あいつだぞ?」

「あいつでもよ」

 カオルが嫌がる中着々と近づくその車、彼女がため息をついているうちに目前まで迫っていた。


「ミツキ、カオル。襟、正とけ」

 車は三人の目の前で止まると、その横柄なドアからいかにもサイズの合っていない大柄な男が下りてきた。口には太い葉巻、首元には金のネックレス、そして腕には高級品の腕時計がされていた。

「国防長官様のお出ましだ」


 その横柄な男は車から降り切ると吸い込んだその煙をカオルに向けて吐き出した。


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