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エンジェルウォー・フロントライン  作者: Regulus
第一章 物語の始まり
18/33

団長の意地

 ミサキの姿を後にしたトオルは戦火の漂うその海へ飛び込んでいた。


 行動不能のトオルの代わりに指揮を執るミユキが率いる第一第二合併兵団は出撃準備もまだらなまま、天機たちと対峙している。

目の前に広がる一面の火の海を前に隊員は溢れ出る天機の波が流れるその場から一歩下がってしまう。


 敵はすぐ目の前にきており即座に動かなければこちらもすぐに殺される。そのことは第一兵団団長であるトオル自身がよくわかっていた。

 その中兵士の一人が背を向け逃げる準備をしていた。

「何をしている!敵を目の前にして背を向けるな!」


 トオルはオーディンが強奪されたため生身で戦場へと出ていた。


「団長!無茶です!生身で戦場になんて自殺行為ですよ」

 部下の警告を無視し、その場にあった機関銃を手にトオルは巨大兵器の行きかう戦場へと飛び込んでいく。

 トオルはその機関銃を乱撃するもその剛健な体にはその銃弾が通用するわけもなく、むなしくもすべてはじかれてしまう。


「くそっ!なんで効かないんだよ!」

 トオルが機関銃の球をリロードしていると一機の天機がトオルに前に立ちふさがる。

「なんで俺は部下一人守れないんだよ!」

 悔恨にかられるトオルに向けて天機の槍が構えられる。


「ここで俺の運も尽きたか…」


 トオルが覚悟を決め腹をくくったとの時。目の前にいた天機の頭が銃弾により打ち抜かれた。

「トオルさんは下がっててください!」

「その声ミユキか!?だが…」

 ミユキの声が聞こえたのはトオルの見たことのないABFだった。

「なんだよその機体」

「説明はあとです!ミツキが格納庫で呼んでます!急いで向かってください!」

「恩に着る!」

 トオルはミユキのガンスリンガーから護衛を受けつつ格納庫へと急いだ。生身のトオルは天使からしたら絶好の的であり、攻撃対象であり、格納庫へと戻るしばらくの間、天から降り注ぐ多くの銃弾はトオルめがけて打ち放たれた。

「トオルさん!急いで!」

「くそっ!よけきれない!」

 トオルは自分の頭上に打ち放たれた銃弾に死を覚悟した。


「そこだ!」


 ガンスリンガーは西部劇のガンマンのごとく腰につけていたピストルでその銃弾を打ち返す。

 トオルはガンスリンガーが銃弾を打ち返したのを見ると、生気を取り戻し再びその足を動かし始め、格納庫へと急いだ。



 やっとの思いで格納庫へとたどり着いたトオルは息を切らしつつもミツキのいる格納庫奥へと向かう。

「はあ、はあ、もう少しだ」

 トオルが歩き続けると格納庫奥にミツキの姿があった。


「こんなところに呼びつけてなんなんだよ」

「呼びつけて申し訳ない、一つだけ質問させてほしくてな」

 ミツキはそういうと音を立てずにトオルの元へ近寄る。トオルはその足音がないことに恐怖し一歩下がる。

「な、なんだよ。それに質問って何だ」

 ミツキはその場にピタッと止まった。


「トオルは力が欲しい?」


 止まったミツキから発せられた質問は当たり前のように簡単な質問だった。

「ほしいに決まってる!」

「なんで?」

 トオルはその質問の回答に対して戦場で死んでいった部下たちの姿を思い出し、拳を強く握りこんだ。

「俺は、ABFが無いと部下の一人も守れない。目の前では俺の部下たちが次々と殺されていく。俺にも戦う手段が欲しいよ。部下の一人も守れないで何が団長だ。俺はそんなことのために軍に入ったわけじゃない、人々を守るために軍に入ったんだ!俺は何かを守れる力が欲しい!」

 トオルの眼はまっすぐ先を見据えていた。

「それにどんな代償を払っても?」

「勿論だ」

「分かった。ついてきて」

 ミツキはそういうとトオルを大きな布をかぶせられた大きな塊に手をかける。

「いいこれから見せるのはABFじゃない」

「どういうことだよ」

「見ればわかる」

 そういいミツキは大きな塊にかぶせられていた布を一気に剥がしとる。

 

 そこには人馬型の天機がいた。


「おいおいミツキこれはもしかして」

「そう。これはトオルが仕留めた人馬型の天機。俺はなんの策略もなしにオーディンを盗ませるわけがない。あれはオーディンの装甲を着せたミユキが乗っていたあの半壊したポーンだ。おそらく今頃…」

 ミツキがそういうと戦場から大きな爆発音が響いた。

「何の音だ!?」

「あれは元々壊れていたものに装甲をつけただけのパチモンだ。性能も無理にオーディンに近づけてる無理に動かそうものなら爆散するさ」

「待てよ。あれがポーンだとするなら本物のオーディンはどこにあるんだよ」


 ミツキはそっと人馬型の天機を指さす。


「いやいや。これはニコの乗ってたやつだろ?」

「いいや違う。モリタ、クレーン上げてくれ」

 人馬型の天機の奥にいたモリタが静かにクレーンの上昇スイッチを上げる。モーター音と共に巻き取られていくワイヤーが天機の装甲を剥がしていく。


 装甲と装甲の隙間から見える銀色の光は、自分自身に失望していたトオルにとって天から落ちてきた蜘蛛の糸のように見えた。


「これは!?」

「どうするトオル。死神と相乗りする勇気君にはあるかい?」

 そういいトオルに手を差し伸べるミツキはしたり顔をしていた。


「乗ってやろうじゃねーか!」


 トオルは力強くその手を握り返した。



 天使殲滅策略本部の目の前で繰り広げられる天使による奇襲作戦によりそこは戦場と化していた。多くのポーン兵が戦場に出る中、隊長機であるカオルのヴィーナスの目の前にはオーディンが立ちはだかっていた。


「お兄様のオーディンを強奪したのはあなたね!」

「その声、あの双子の片割れか」

 オーディンから聞こえてきたのはニコの声だったが、本物のカオルはその声を聞いたことはなくなぜ自分のことを知っているのか不振に感じていたが目の前の敵を殲滅する事を専決とし臨戦態勢に入る。


「何者かは知らないけどその機体お兄様に返してもらうわよ!」

 ヴィーナスは背中の槍を二本手に取りオーディンに向け構える。

「0025番、あいつを殺しなさい」

 セカンドの声はニコの耳に響くとその意識は遠のきニコからは感情と共に眼の光が失われた。

「了解…」

 オーディンは両方のサイドアーマーに収められていた剣を手に取る。


 カオルが臨戦態勢に入ったオーディンに向けて槍を放つも、その場にはすでにオーディンの姿はなかった。


『カオル!後ろです!』

 アテナの警告もむなしくヴィーナスの背後に回ったオーディンにより多くの槍をマウントしていたサブアームが切り取られる。

「うああああああああ!」

 ヴィーナスのコックピット内に激しい揺れが響く。

「全く!何なのよ!って」

 カオルがその場に止まったオーディンを見るとその腕から火花を散らし片腕が爆発したがその攻撃の手を休めはしなかった。


 オーディンからの猛攻を受けながらもその都度反撃するヴィーナスの装甲が徐々に剥がされていく。剥がされた装甲から火花を散らしつつもオーディンからの攻撃をいなすヴィーナスは、切り落とされたサブアームにマウントされていた槍をオーディン向けて放つも、ことごとく避けられる。


一本


二本


三本


四本—


 ヴィーナスはその場に倒れる天機の持っていた槍すら使うもオーディンにあたることはなくことごとくその槍をへし折られていく。

「なんで当たらないのよ!」

 とうとうヴィーナスはそのすべての槍を使い果たしてしまう。


「もうこうなったら!」

 カオルはアテナの表示されたパネルの表示を変更し、能力開放の画面を出す。

『待ってください!今それを使ったら間違いなくヴィーナスは持たない。それにここで使ったらあなたは!』

 アテナの忠告を聞きカオルはぐっと手を握りしめその画面を閉じた。

「背に腹は代えられないわね。でもどうしたら…」


 八方ふさがりになり打つ手の無くなったカオルが頭を抱える勢いで悩んでいると、天使殲滅策略本部の方角からこちらへ向けて駆けてくる馬のような足音が近づいてくる。


 その近づいてくる足音の先には白銀に光るもう一体のオーディンの姿によく似た人馬がそこにいた。

「またオーディン!?」

「カオル!そこを避けろ!」

 トオルの声が聞こえるその人馬はさらにスピードを上げヴィーナスの先に佇むオーディンめがけて腕に装備されているボウガンを放つ。

 オーディンは放たれたその矢をかわそうとその場を走り抜けるも、自動ホーミング機能の付いたその矢はその右足を打ち抜く。


「当たった!」


 カオルが声を荒げるとさらにその足が爆発する。

「カオル!無事か!?」

 人馬がヴィーナスへ近づいてくる。

「その声やっぱりお兄様?」

「そうに決まってるだろ」

「だとしてもその機体は何なの?」

 白銀に煌めくその人馬はどこかオーディンに類似した見た目をしていたが、胴体から伸びたその馬の下半身や、片腕に装備されたボウガンを見るとそれはオーディンとはまた違う機体に見えた。


「どうやらこれはオーディンの後継機らしいんだが名前がないみたいなんだ。フレームはオーディンのものと人馬型の天機が合わさったものらしい」

「なるほど、それだとさながらオーディンMK2ってところかしらね」

「その安直なネーミングセンス嫌いじゃないぜ!」

 ミシマ兄妹が話している後ろでは片足の無くなったオーディンが背中にマウントした大剣を使いその場に立っていた。


「それにしてもあのオーディンは何なの?」

「あれはどうやら、この間の戦闘で大破したミユキのポーンらしい」

「だとしてもあの動きただものじゃないわね」

 カオルが半壊したオーディンの姿を見ると爆発した脚部に無理やり剣を溶接し、その場に直立していた。

 オーディンMK2がそれを見、臨戦態勢に入ろうとするも武器はボウガンしかついておらず、その弾もすでにあと2発。近接武器などもなくあるのは鉄板を何重にも重ねた大きな盾のみだった。

「参ったな武器がないなんてな」

「お兄様!これを!」


 ミユキから投げられたのは恐らく隊長機の持っていた大型の槍だった。


「さっき倒した天機が持っていたものだけど無いよりはマシでしょ?」

「サンキューカオル」

 オーディンMK2はその槍を受け取ると、オーディンだったものへ構えた。


 それを見たオーディンは剣を溶接した足を引きずりながらトオルめがけて走ってくる。


「かかってこい!ニコ!」

「……」

 ニコからの返事はなかったもののその声に反応し、オーディンは本気の構えになった。

「お兄様、油断しないで」

「分かってるよ」

 お互いを見つめあい対峙する二体のオーディンは同タイミングで動き始めた。


 一方で大剣を構え、もう一方では盾と槍を構える。そのどこか逆転した見た目の二体は徐々に速度を上げ戦場を駆け回る。


「ちょこまかと!」

 トオルがフットペダルを強く踏み込みオーディンMK2の速度を上げると、ニコの乗っているオーディンは両手で大剣を構えその攻撃を受けて立つ態勢をとる。


 そこめがけて突進するオーディンMK2とその攻撃を受けるオーディンは剣と槍を交えその場に金属音が響き渡り、一瞬のうちに二体は背中を合わせていた。


「うぐっ!」

 先に倒れたのはニコの乗ったオーディンだった。

「俺は一体?」

「よう!ニコ。調子はどうだ?」

 ニコがコックピットをこじ開け上を見上げるとそこにはトオルの姿があった。

「なんだ貴様か。俺は一体何をしていたんだ。貴様と別れてからの記憶がない」

「それは…」


 トオルがニコと話そうとするとその場にスモークがたかれ二人はお互いの姿が見えなくなった。


「残念だけどお話はここで終わり。0025番には悪いけど眠ってもらうわ」

 うっすらと見えていたニコが煙の中へと消えていく。

「待て!」

 トオルが煙をかき分けそこへ手を伸ばすもすでにニコの姿はそこにはなかった。


「無駄よ。すでに0025番はそこにはいないわ。もちろん私もね」

「逃げるのか!」

「いいえ違うわ。ほしかった情報も手に入ったし、これ以上こちらとしても戦力は減らしたくないから、戦略的撤退をするだけ」

「おい待て!」

 トオルが声の聞こえるほうへ向かうもセカンドの声は徐々に煙の中へと溶けて行った。


「お姉さま、トオル隊長。短い間だったけど楽しかったわ。次あうときはお互い敵として会えることをふつふつと願っているわ。それじゃあまたね」


 そう言い残し、煙が晴れるとそこにはABFの残骸以外何も残されていなかった。


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