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エンジェルウォー・フロントライン  作者: Regulus
第一章 物語の始まり
16/33

裏切りの道化師

 ミツキを床に寝かせた後ミユキは一足先に格納庫へと来ていた。

 格納庫のシャッターを手動で開けようとシャッターへ手をかけると、シャッターは轟音と共にひとりでに空き始めた。


「何!?」


 シャッターが半分ほど開いたところで格納庫に何者かの足元が見えた。

「誰かいるの?」

 シャッターの奥の足が徐々に近づいてくるのが見えたミユキは太もものホルダーに装着していたハンドガンを構え戦闘態勢に入る。

 グリップを握るその震えた手を必死で抑え込み銃口をその先へ向け、ミユキは照準を合わせた。

「なんでこんなにもシャッター開くの遅いのよ!」

『私がこの奥を見てきましょうか?』

 肩に乗っていたロビンはハンドガンを構えるミユキの腕にとまり、鋭い眼光でミユキを見つめる。

「大丈夫なの?」

『姫のご命令とあれば私は何なりとこなしてみせます』

 紳士のようなお辞儀をするロビンは、やけに自信があるようだ。

「見つかったらどうするのよ」

『その点はご安心ください』


 そういうと、ロビンは自分の姿を消した。


「それって」

 ミユキは腕に残るロビンの足跡があるのを確認するとそれに覚えがあることを思い出した。

「アモンの光学迷彩?」

『左様でございます。ほかにもアテナ殿やジーク殿の能力も使えます』

「ロビンはすべての能力が使えるって訳ね」

『実はそうではなんです』

「どういうこと?」


 ミユキがロビンに対して問いかけると、身にまとっていた光学迷彩が剥がれ頭の先と、爪の先からその姿を現した。


『このように、彼らのように常時使えるわけではないのです。使用時間は三十秒ほど、使用回数は三回と限られているのです』

「つまりチャンスはあと二回」

 チャンスを多めに取ったロビンは、ミユキの予想を即座に撤回した。

『いいえ、一回で済みます』


 ミユキはその自信に満ちた目に圧倒され、ロビンを降ろす。

「ま、まあ、頼んだわ」

 自信に満ちていたロビンもミユキの表情を見て不安になったのか、毛づくろいを始める。


『しかし何かあった時のためにこれを着用しておいてください』

 ロビンは羽の内側からインカムを取り出しミユキへ渡す。

「これは?」

『これはアモン殿から連絡手段は常に用意しておけと渡されたものです。これがあれば直接姫に近況をお伝えすることができます』


 ミユキは言われた通りにインカムを耳に装着すると、ロビンの声がインカムに流れ出す。口を開いて話しているのかと思いロビンの口元を見るもその口は動いていなかった。

「どうやってしゃべってるの?」

『私たちはあくまで機械です。口元など動かさずともデバイスを通せば簡単に連絡はできます。では、私は行ってまいります』

「どうか無茶だけはしないで」

『心配してくださりありがとうございます。私にとって今回のようなこと、余裕です。姫はゲームでもして待っててください』


 そういうとロビンは光学迷彩を纏いほぼ止まったシャッターの下から格納庫へと入っていった。



 ロビンが背景へ溶け込み格納庫内へ侵入すると電気はついておらず、暗闇の中にシャッターの隙間から差し込む光がその者の足元を照らしていた。

 変身と光学迷彩を駆使しロビンは格納庫の梁へ止まり様子をうかがった。

 暗闇の中何も見えないロビンはコウモリへと変化し、その者の姿を確認すると。見慣れないパイロットスーツを着用していた。


 その姿を確認しているとロビンの元へミユキから通信が入る。

「そっちの様子はどう?」

『ただいま監視中です。背丈は男のようですがどうも異様な見た目をしています』

「無茶しないで…」

 ロビンが話し終わった途端その通信は切れてしまう。

『姫!姫!』


 ロビンのシャッターを挟んだ反対側ではミユキが何者かに遭遇していた。


「ロビン!?聞こえてるの!?ねえ!ロビン!?」

「はあーい、もうおしまい。まさか、こんなに早く居場所がばれるなんてね」

「何者だ?」

 ミユキが後ろを振り返ろうとすると、後頭部に銃口があてられる。

「振り返らないほうがいいよ。私は君の頭をぶち抜くことに何の抵抗もないから」

 変成器を使い自分の正体を隠すその者は、その銃口をミユキの後頭部に強く押し付け、その場で跪かせる。

「いったい誰?」

「そうだね、私は君の敵かな?」

「そういうことを聞いているんじゃないの。あなたが何者は聞いてるの」

 そう言いミユキがその顔を拝もうと振り返ろうとすると、再度深く銃口を突き立てる。

「はい、動かない。次動いたら頭ぶち抜くからね」

「そのしゃべり方、女か」

 ミユキは再度振り返ろうとしてしまう。

「動くなって言ったはずだけど。まあ、いいわ。武器を捨ててそこに伏せなさい」


 ミユキはその指示に従うしかなくハンドガンを下に置き、深く頭を下げる。その姿を見た女はケタケタと、ミユキをあざ笑う。


「あー、可笑し。ほんと滑稽ね、何が人類を守るよ。大それた目標立てちゃって」

「何の話よ?」

「あなたは気にしなくていいわこっちの話だから。それよりも聞こえてるんでしょ? 小鳥さん」


 女はミユキの着けていたインカムを奪いロビンに対して話しかける。ロビンは最初返事をしなかったが、それに対して女がミユキの足元を打ち抜く音を聞かせると慌てて対話に応じた。


『何用だ』

「早くこっちへ戻ってこないとあなたのご主人様の頭打ち抜いちゃうから。あなたたち人工知能は何が大事かぐらいわかるはずよね?」

『やめろ!わかった今すぐ戻る』

 ロビンは今最も重要視すべきはシャッターの向こう側にいる人物が何者かよりも、ミユキの命のほうが重要だと判断し、おとなしく地上へ飛び降りようとする。

 しかし、シャッターへ向かおうとするロビンの元へ手が伸び首元をつかまれる。

『何をする!』

「お前か、俺を見張っていたのは」

『だとしたらなんだ』

「お前の大義はそれで終わりか?」

『何を言っている! 私はミユキ様を守り抜くことを使命としている』

 その返事を聞いた男は、呆れたようにため息を吐く。

「はぁ、そうか。ならば命を捨てるようなことだけはするな。わかったらさっさと行け」

 そういうと男は手を放し暗闇の中へ消えていく。


 男は格納庫内にある見覚えのあるABF。オーディンのコックピットに乗り込む。

 オーディンに乗った男は、その機体を強引に起動させ繋がっているケーブルを引っ張りつつ出口のシャッターをこじ開けた。


「まったく何やってるのあのバカは。まあいいわ。さっさと私を連れて逃げなさい0025番」

 その名前を聞いたミユキは女が何者なのか大体の察しがついた。

「あんたが犯人だったのね」

「だったら何よ。あんたはいま絶体絶命なのよ?わかってるの?」

「ふっ。それは…」

 背後からもう1人男の声が聞こえた。


「わからないね」

 

 ミユキが鼻で笑うと女の背後から迫っていたミツキが女へ殴り掛かる。

「そこだ!」

「奇襲に声を挙げたらだめですよ」

 しかしミツキの決死の奇襲もむなしくかわされてしまう。


「あんたはあの時倒れたんじゃないの?」

「残念だがそんなに軟にできていないでな」

「あー、もう全く本当に腹立つわね! 0025番! 早く私を連れてこの場から脱出させなさい!」

 女が怒鳴るとABFの大きな手がシャッターをこじ開け、女を連れ去っていく。


「待て!」

 ミツキはそれを追おうとするが再びふらつき壁にもたれかかってしまう。

「いずれまた会うことでしょう。私の名前は【セカンド】あなた方の心の解放を手伝わせてもらうものです。そうですね、そこの少年」

 ミツキはおもむろに指をさされる。



「私達は裏切り者のワンを許しはしなかったです。そしていずれ私は、ワンに肩入れをしていたあなたは大切なものを奪うでしょう。王はいつでもあなたたちを監視していますからね。せいぜい守れるものは守るように精進しなさい。では」



 サーカスの幕引きのようなお辞儀をした後外から入ってくる強風によりそのフードが剥がされ、そこからは道化師の面が露わになった。


「くそっ! ミユキあの仮面打ち抜けるか?」

 ミツキは振り返りがてらにミユキに指示をするとすでにミユキはすでにハンドガンを構えていた。

「はなからそのつもりよ!」


<バン!>


 ミユキがトリガーを引くとその銃口からは鈍い銃声と共に銃弾が銃身の溝に沿って回転しながら放たれる。

 銃弾は少々の曲線を描きながらセカンドの仮面をかすめ取る。その銃弾は仮面をかすめ取った後ニコが強奪したオーディンのボディへと埋め込まれた。

「外した!」

「いやいいんだ。よく見ろ」

 ミツキが指をさしたその先ではセカンドの仮面にひびが入り左目が露出する。


 

そこからは見覚えのある瞳があった。

「ねえミツキ。あの目って」


「間違いない。ミサキに似ているがが、なぜだか本人よりも身長が低い」


「それって?」

「わからない。だが、このままオーディンが強奪されたままにしてはいられない。ミユキ今から追うことはできるか?」

「ちょっと待って、なんだか腰を抜かしちゃったみたいで」

 ミユキは立ち上がることができなかった。かといってミツキも歩くだけでやっとのこと。

 

そんな状況の中逃げていくオーディンを追いかけようとするもすでに二人は意気消沈し、追いかけることができなかった。



 ミツキが壁にもたれかかりミシマ兄妹が来るのを待っていると、ミユキが自分の姿勢を持ち直しミツキに銃口を向けた。


「答えて、あれは本当にミサキさんだったの?」

「おいおい、こっちは怪我人だ。そんな手荒な真似はよしてくれ」

 ミツキが口ごたえしようものならばすかさずミユキはその銃口を近づける。


「口答えはいい、それでどっちなの?」

「さあ? 俺は銃口を向けられてはいはいって答えるほどメンタルはやられてないんでな」


 話をそらし何かをごまかすミツキに対して向けたハンドガンのトリガーを引こうとすると、廊下の先から走ってきたトオルが、ミユキの手をはじきそのハンドガンを落とさせる。


「おい、何やってんだ! よりによってお前がなんでミツキにそんなもん向けるんだ!」

 熱くなりミユキの胸ぐらをつかみ投げ飛ばし、ミツキの襟をつかんだ。


「それにミツキもだ。ササキが銃口を向けたのはお前にも非があるんだろ? いったい何があったんだ」

「それは言えない」

「何を隠してる」

「さあな」

 そういうとミツキはトオルの手を振りほどき格納庫へと向かった。


「おい待てよ!」

 トオルはその後を追い格納庫に入るとそこに何かしらの違和感があり、普段の風景を思い出し今のこの状態と見比べる。

 数分もしないうちにトオルはその異変に気が付いた。


「なあ、ミツキ。俺のオーディンはどこにある」


 後から来たカオルはトオルが焦っているのを見て急いで格納庫内のオーディンの格納ベースを呼び出す。

 大きなモーター音と共にやってきたのは無残にも破壊された格納スペースだった。

「嘘でしょ…」

 格納ベースは無理やり外されたケーブルから火花を散らし、フレームはひん曲がっていた。そこから明らかに強奪されたということは見てわかるほどに。


「なあ! ミツキ。何があったんだ」

「説明してよ! ミツキ」

 ミシマ兄妹の威圧に圧倒されたミツキは目の前であった事をすべて話さざるを得なかった。


「わかった、目の前で起きたことすべてを話そう」

「あの道化師のことも話して」

 投げ飛ばされていたミユキが起き上がり三人の元へ歩いてきた。

「ああ、勿論だ」

 トオルはすんなりと会話に混じるミユキの胸ぐらを掴む。


「お前何しに来た」

「トオルさん。さっきはすいませんでした私もついカッとなって」

「謝るのは俺じゃなくてミツキだ」

 一拍おいてミユキはミツキに指をさす。

「この馬鹿が知っていることをすべて話せば謝ります」

「だそうだ。手っ取り早く話してくれ」

「わかった」

 そういいミツキは今まで目の前で起きていたことを淡々と話し始めた。シャッターの奥に潜むニコの話や、脱獄に加担した正体が道化師【セカンド】だということ。

 そしてオーディンがニコにより強奪されたということ。

 しかし話を聞いていく中でミシマ兄妹は道化師セカンドの話が腑に落ちなかった。


「オーディンが強奪された話は分かったがその道化師とやらは何者なんだ?」

「その目はミサキに酷似してたって言ったけど。ミサキではないのよね」

「ミサ姉の訳がない。なんせ俺らと一緒にいただろ」

 状況がつかめない二人はミツキを質問攻めにした。

 質問が一息つくと格納庫の入り口に一人兵士が遅れてやってきた。


「すいません!遅くなりました!」


 そこに立っていたのはミユキの同期である新兵のリサだった。


「ちょっと遅い!何やってたのよ!」

「すいませんお姉さま。ちょっと道に迷ってて」

 リサは肩に乗る三つ網を首の後ろへもっていき眼鏡を直そうとする。彼女は眼鏡を直そうとそれを手にしたが手を滑らせてしまい眼鏡を下へ落してしまった。


 リサが眼鏡を拾おうとかがむと前髪で隠れた額から一滴血がしたたり落ちた。


「ミユキ、道化師の正体が知りたかったよな」

「まあ」

「じゃあ、本人に話してもらおうか」

「どういうこと?」


「お前がセカンドなんだろ?カミサカリサ。いいやサエジマリサコ」


 その名字を聞きその場の全員がリサのほうを見る。

 注目されたリサはその原因となったミツキを鋭い眼光でにらみつけていた。


 その瞬間の静寂は天使殲滅策略本部の固定砲台の音を深く響かせた。



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