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エンジェルウォー・フロントライン  作者: Regulus
第一章 物語の始まり
15/33

裏切りの果てに

 構内へアナウンスが通知され講堂へ天使殲滅策略本部局員や、オオツカやミサキらが集まる中、ミツキやアキ、ミユキはいまだその場へ到着していなかった。


 講堂へ集まった誰しもが手元の時計を気に掛ける中彼らはいまだ医務室にいた。


「私は行かないわ」

 椅子に座り机にもたれかかるアキは断固として講堂に向かう気がないことをミユキへ説明するとミユキは勢いよくその机を叩いた。

 ミツキがその場をなだめるもののミユキはその勢いを収めることはなかった。


「絶対にここから出ないんですか?」

「まあね、たとえ私が行ったところで状況はより一層ひどくなるだけだしね」

「だけど…それじゃあアキさんが疑われるだけです!」

「そうはいってもね…」


 ミユキがごね続けているとモリタが髪をかき乱した。


「な、何するんですか」

「なあ、お嬢ちゃん。あんたアキのことが大事なんだろ?」

「そうですよ!だからこそ無実を証明するために!」

 ミユキの反撃に驚いたモリタは手を離し真剣な表情でミユキの眼を見つめる。

「そりゃあ見当違いだ」

「どういうことですか?」

 ミユキはそっと手を避け、目を合わせてきたモリタの眼力から逃げるように、目を離し下を向いてしまう。

 モリタのその顔は何かを見通していた。というよりはわかっていた。


「お前はアキが行けば無実を証明できると思っているだろうが、それだとこいつは殺される」

「何でですか?」

「俺から言っていいのか?」

 アキはモリタに対して静かに頷く。

「昔…」

 煮え切らずにただただ長引いていく会話がミツキにとっては歯切れが悪く、じっとしていることができずにとうとう我慢が限界へ達した。


「モリタは言わなくていい。俺から話す」

 ミツキはそういうと、淡々とミユキをなだめるように話し始める。

「いいかミユキ、前も言ったようにアキは元天使だ。そして今回捕らえていた捕虜も天使だ。その脱走に加担したとなれば疑いようもなくそいつも天使ということになる。そいつがアキの姿を見たらどうなる?」


「それは…」

 

 ミユキは口を絞り身を乗り出した。

「それに関してはわかってるんだろ?アキは向こうからしたら裏切り者だ、俺たちも捕虜を逃がした犯人が出てきたらそいつを裏切り者として殺す。それと同様にたとえ向こうが名乗らなくてもその存在が明確になれば間違いなくアキは殺される」

「どうしてそんなことがわかるのさ」

「前例があるからだ」

「前例?」

 ミツキはミユキに昔あった出来事を話し始めた。


「実は俺は天地落としが起きたそのあと一人の男に保護されたんだ。その男は自分のことを【ワン】と名乗り俺を天使殲滅策略本部へ連れてきた。もちろんワンは自分の素性を明かさずにそこにいた。そんな時だった。軍内で情報が漏洩していることが発覚した。もちろん疑われるのは俺だ、外部から連れてこられて疑われないわけがない。しかしワンは自分がやったといって俺をかばったんだ」


「その人はどうなったの?」

 ミユキは興味本位で結果を聞いてしまった。


「殺されたさ、無残にね。軍はワンを荒野で一人歩かせてその背中を爆撃した。俺やアキはその光景を忘れることはない」

「どうして?」

「それは…」

 ミツキがその続きを話そうとするとアキは耳をふさぎその場に震えだしてしまった。それを見たモリタはそっと寄り添い震える肩を抱き寄せた。

 ミツキはその姿を見たが、今話さねばこれからも話すことがないと覚悟を決め、事の顛末を語った。


「それは、俺とアキの並んだ間にワンの右腕が落ちてきたんだ。それは見てわかるほど無残だったさ、袖はちぎれ、熱で血すら固まっていた」

 

「うそでしょ…」

「いいや。本当だ」

 近くにいたモリタはミユキに対してそう言った。

「今の時代人間は信用できない人間を殺すしかないんだ。悲しいくても辛くても我慢しなきゃいけない。それが戦争なんだ、それでもミユキはアキを連れて行くつもりか?」


 その話を聞いたミユキは自分が間違っていたのか何が正解なのかわからずに、ただただアキの顔を見つめていた。

 

 アキを見つめるその目は不安に駆られていた。


 その目を見たアキは多少落ち着いたのか、モリタの手を避け、深くため息をつきミユキをそっと抱きしめた。

「そんな不安な顔しないで。大丈夫、私がやってないことをわかってくれるだけでとっても嬉しいから」

「でも」

「ほらそんな顔しないの。そんな顔してたら私は不安で仕方なくなっちゃう」

 抱きしめられた手の温もりを感じつつ、ミユキは現実を理解した。


「わかりました…」

 アキの両手が離れて行ったミユキの顔に纏った雲は一向に晴れることはなく下を向き感情を閉ざしてしまう。

 そう下を向き落ち込んでいると懐かしい両手がミユキの頬をやさしく押さえた。

「そんなことないように俺が何とかする。お前は気にしなくていいから前を向け!俺がついてる!きっと大丈夫!って言っても俺は一応記憶喪失設定だから…ってどうしたんだよ」

 ミユキは顔を赤らめミツキの顔を見つめていた。ミツキはその顔を見るとそっと顔から手を除けるとその目からはそっと涙が出た。

「い、いや。なんだか昔を思い出して」

「なんの話だ?」

「覚えてない?私がみんなにいじめられてた時のこと」


 そういうとミユキはおもむろに昔話をし始めた。


「昔、私は体も弱くて頭もさほど良くなくて、クラスの笑いものになってみんなにいじめられてた時。今と同じようにミツキは私に俺がついてるって言ってくれて私すっごくうれしかった。でもそのせいでいじめはミツキが標的になっちゃって」

「なんだ、そんなことか。お前まだ気にしてたのか」

「そんなことって何よ」

「そういえばミユキはそのあとの話を知らなかったな」

「そのあと?」

「そう、そのあと」

 そういうとミツキは何かをぐっとこらえて笑顔でミユキの顔を見た。


「あの後ミユキは転校しちゃってからも俺へのいじめは続いてた。それもミユキがいたころとは比べ物にならないくらいに。高校に入った時、いい加減俺も腹が立ってその場に落ちてた鉄パイプ拾い上げてぶん殴っちまったんだ。そのあとはもちろん退学。いじめていたあいつらは意識不明になって病院送り。親にも見放されて家を追い出された」


 ミツキのあまりに壮絶な結末を聞きさらにミユキの顔は再び暗くなってしまう。

「そんなことがあったんだ。やっぱり私のせいで」


「いやいいんだ。俺が正しいと思ってやっただけだから。おそらくその時から人間は自分とは異なるものを排除する片鱗が芽生えていたのかもな」


 二人が思い出にふけっているとモリタが時計を指さし二人を呼び止める。

「二人で話すのもいいんだがいい加減いかなくてもいいのか?」

 二人はモリタが来てからすでに十分ほどが経過しているのを確認するとあわてて医務室から飛び出していった。

 

 二人が廊下を駆け回る中ミユキは疑問に思ったことを問いかけた。

「ねえ、ミツキ」

「なんだ?」

「ミツキには犯人がわかってるんでしょ?」

 その質問に対しミツキはゆっくりと足を止める。

「今回ばっかりは俺も確証が持てない」

「じゃあ…」

「だけど、ただ言えることがある」

 足を止めたミツキの顔には窓から差し込んだ日差しが覆いかぶさり、その顔は明るく照らされた。その表情は何かを決意した男の表情だった。


「現場に行けば俺はアキの無実を証明できる証人がいる」


 ミユキはその言葉を信じ二人は講堂へ急いだ。



 ミユキらが講堂へ到着するとすでにその場に館内の人間が全員集まていた。


「遅い!」

「すいません」

 カオルはひどく待ちくたびれた顔をしながら二人の元へ駆け寄ってくる。

「まあ落ち着け」

「何よ、ミツキも同罪だからね!」

 そう言いミツキの顔の目の前に指をさすとカオルの後ろからトオルが手を伸ばしツインテールを引っ張り後ろへ下がらせる。

「すまないなミツキ。カオルはこっちで何とかする」


 カオルが後ろへ下げられるとミツキのもとにアテナが寄ってくる。


『ミツキ様、これにて一名を除き全員集まりました』


 そう言いアテナはミツキの横へ座った。

「おい。どういうことか説明しろ」

「そうだ、なんでこんなところに全員集めたんだ!」


 その場に集まった兵士や従業員の不満はつもり、ミツキへ空き缶や工具が投げられる。ミツキは気にせずそれをかわすも整備兵が投げたスパナがミツキの額へ直撃する。


「ミツキ!」

 ミユキがミツキの元へ駆け寄るとその額からは血が流れていた。

「誰だ!」

 それを見たトオルが後ろを振り返りその場にいた全員の顔を見渡すと。後ろのほうに一人、目をそらしその場から立ち去ろうとする整備兵の姿があった。


 それを見つけたトオルは混乱する兵士の壁をかき分けその兵士の元へ急いだ。しかしそのことに気が付いた整備兵は急いでその場から逃げ出そうとするもその場で転んでしまい、案の定トオルに捕まってしまう。


「お前か?」

「な、何のことだ」 

「ミツキにスパナを投げたのはお前かって聞いてるんだ!」

 そう言いトオルは整備兵めがけて拳を構える。


「やめろ!トオル!」


 トオルが整備兵の顔の手前まで拳を振りかざしたところで、遠くからミツキの荒ぶった声がトオルの元へ届きその拳は寸手のところで止まった。


「なぜ止める!」


 トオルがミツキのほうを振り返るとそこにいたのは頭から流れる血を抑えながらミユキの肩を借りかろうじてその場に立つミツキの姿があった。


「今はそんなことをしている暇はない」

「だがよ!」

「いいんだ」

 トオルはその行き場の無くなった荒ぶる拳を床へと逃がすも、微かに整備兵の頬を掠りその頬はすっぱりと切れた。

「ひいいい!」

 驚いた整備兵は、思わず失禁していた。


「おとなしく戻ってこい」

 そういうとミツキはふらつきその場に倒れてしまう。

「ミツキ!」

 倒れたミツキの体を按じミユキは目線を合わせるもミツキはその顔の前に掌をかかげその手助けを断った。


「大丈夫だ、自分で立てる」

 ミツキがその場から立ち上がろうとすると、構内に怒号と共に大きな地響きが響き渡る。

「まったく、次から次へとなんなのよ!」

 この状況に我慢しきれなかったカオルは窓の外を眺めると建物から出た黒煙が窓を覆い隠している。カオルは黒煙が漂うその隙間から見たその先には無数の天機が待ち構えていた。

「こんな時に!」


 その姿を見たトオルは急いでオオツカの元へ駆け寄る。

「早く出動許可を!」

「仕方がない。総員戦闘配備!直ちに目の前の天機を殲滅してこい!」

「司令!」

 そういったオオツカに対しミサキは叫ぶ。

「いいんだ。だろ?ミツキ」

「ああ、今は内輪で争うよりも、目の前の敵のほうが優先だ。話は帰ってからでもできる」

「おいおい、それじゃあ絶対に生きて帰ってくるみたいだな」


「勿論だ」


 そういうとミツキはふらつく体を庇い格納庫へと足を運んだ。

「ミツキばっかりにいい顔させてられるか!行くぞお前ら!」

「私たちも後れを取るわけにはいきませんわ。みなさんいきますよ!」

 不安が募ったその場は二人が声をかけたことにより再び団結を取り戻した。



 体をふらつかせながら格納庫へと向かうミツキは壁にもたれかかりながら歩くのがやっとな状況だった。

「クッソ、いいのもらっちまったな」


 ミツキのふらつく体は、その場で地面へと落ちそうになる。


「まったく無茶しないでよ」

 再度倒れかかるミツキの肩にミユキは手を伸ばし支えていた。

「ミユキ…」

「まったく無茶しないでよ、ミツキが倒れたら誰がアキさんの無実を証明するのさ」

「すまないな。こんなことに巻き込んで」

 ミユキはつい弱音を吐いてしまったミツキの肩をやさしくつかみ、ほほ笑んだ。


「ミツキは休んでて、ここは私が何とかするから」

「でも…」

「でもも何もない、前も言ったでしょ、私だけは信じてって。それに今の私にはあの子がいるみたいだから」

 ミユキが指をさしたその先には、一羽の鷲が二人めがけて飛んできていた。


『お待たせいたしました姫』

「お前は?」

 こちらへ向かってきた鷲はミユキの肩へと留まった。

『私の名前はロビン。姫の眼となるものです』


 アモンが話した、ミユキの専属ABだということは初めに見てから理解していた。


「まあ、そういうことみたいだから、ここで休んでて」

「でも一人で行ったらミユキは」

「なに、もうあのころとは違うのよ。私だって成長してるんだから。きっと帰ってきたら驚くよ。だから今は休んでて」

 ミユキはそういいミツキの体を横にさせると格納庫へ走っていった。


 ミツキはおぼろな意識の中ミユキの姿が遠ざかっていくのを見届けその場で気を失ってしまった。


 いつの間にか自分の背中を追い越していくミユキに姿がミツキの目の裏に焼き付いた。

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