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エンジェルウォー・フロントライン  作者: Regulus
第一章 物語の始まり
14/33

大混乱の予兆

 住宅街が襲われ多数の被害者が出た戦闘からすでに三日が経とうとしていた。


 人馬型天機に登場していた天使0025番はミツキに敗れ、その身柄を捕虜として拘束されていた。手足を拘束され、携帯していた軽い武装すらその場にはなかった。

 そんな無防備な0025番に対し何者かがパイロットスーツを無理やり脱がせようとしていた。


「お兄様、全然あかないんですけど」

「ミユキ、ちょっとそこの隙間抑えておけ、無理やり開ける」

 独房の中、三角巾をまいた青年は、その妹らしき少女とともに0025番のヘルメットの隙間からそのフロントガラスを剥がそうとしていた。

 薄れゆく意識の中、0025番は自分のパイロットスーツが剥がされていく感覚を感じ、その意識をゆっくりと覚醒させる。

「何をしている」

「何って、見ればわかるだろ」

「あなたのこれを脱がせようとしているんです」

「無駄だ」

「どうしてそう言い切れるんだ?」

「これは元から脱げない仕組みになっている」

 そう口にすると0025番はヘルメットのバイザーを上にあげる。捕虜の様子を見に来た二人が何度も開けようとしたバイザーはいとも簡単に開いてしまった。

 すると目の前には、若い少年と顔のよく似た少女がいた。

「何者だ」

「何者だとは心外だな。俺はお前をここへ連れてきた」

「その声は、そうか死神とは別のあの兵器のパイロットか」

「やっぱり覚えてたか。その通りだ、俺の名前はトオルだ。そしてこいつが妹のカオル。お前は?」


 目の前で拘束されている0025番を険悪の眼で見つめるカオルは、0025番の前でしゃがんだトオルの肩を引っ張る。


「お兄様、こんな天使に名前など教える義理んてないです!」

「まあまあ、こいつはいいんだ。俺と一戦交えてわかったんだ、こいつは恐らく自分の大義を理解してる本当の戦士なんだ」

「ですが」

「兄貴のこと信じられないのか?」

 なだめるようにカオルの頭をたたくトオルを見た0025番の口元は少し緩んだように見えた。それと同時に自分の中に今までなかった感情が芽生えていた。

「仲がいいんだな」

「まあな、今まで双子やってたらいやでも仲良くなる。そういうお前はどうなんだ?えーっと…やっぱり名前がないと不便だな」



「俺に名前などない」



「そんなことないだろ、普段呼ばれてる名前あるだろ」

 少々鬱陶しいトオルに対し嫌気がさしていたが、自分の現状と目の前の二人との優位性を感じ取った0025番はすべてを諦めた。

「0025番だ。そう呼ばれたことしかない」

「0025番か、それじゃあもっと呼びずらくなったな」

 しばらく考えると何かをひらめいたようにトオルは、0025番の肩を叩いた。

「よし、お前はここにいる間【ニコ】だな」

「ふふ、安直なんだな」

「そんなものさ、人ってのはな」

 トオルはそんなニコの前に食事を出した。

「さあ食え。と言っても形成肉とスーブとパンしかないがな」

 見慣れない食事に戸惑うニコは恐る恐るその食事に手を伸ばし、パンを口元へ運ぶ。その口元へ広がるもそもそとした触感は体験したことが無かったため不思議な感覚にニコはおえついてしまった。

「どうした?口に合わなかったか?」

「いやそうではない。俺たちの食事の姿とは違うものでな、つい」

「普段どんなもの食ってるんだ?」

「そうだな…」


 ニコが話した天使の食事はこの世のものが食べるものとは考えられない内容だった。どろどろとした栄養価しか詰まっていないパウチや、ただの塊と化したたんぱく質や栄養価を溶かした水。


 天使と人類との生活の差にトオルは余計なことを考えてしまった。

「お前たちも大変なんだな」

「そんなことはないさ」

 ニコはすでに目の前の食事を済ませていた。


「さてお膳立てはこのぐらいにして、そろそろ本題に入ったらどうなんだ?俺たちの情報を聞き出しにきたんだろ?」

 トオルの表情は今までとは一変した。

「やはり気が付いていたか。その通りだ。俺たちはお前を取り押さえた時点でそうするつもりだ」

「で、何を聞きたいんだ?」

「まずはお前らの目論見からだ」

「構わないが、そこの女にはこの場から退席してもらいたい」

 そう言われるとカオルは血相を変えてニコを睨む。


「なんですかそれは。お兄様、こいつの言うことなど聞かなくていいです。そもそもお兄様と話すこと自体認めたくねーんだよ」


 不意のことにカオルの言葉遣いも荒くなってしまう。

「カオル、言葉遣い」

「すいません。ですが!」

 そう言うカオルに対してトオルはその片腕をかばいながら立ち上がりカオルの目の前に立ち、あたまを撫でた。


「まあそう言わさんな。俺からも頼む、ここは男だけにしてくれ。兄貴の頼み、聞いてくれないのか?」

「わ、分かりましたから、早くこの手を避けてください」

「お、おう」


 トオルが手を避けるとカオルの顔は少し赤くなっていた。

「くれぐれも、無茶だけはしないでください。ただでさえ怪我してるんですから」

「わかったからさっさと行った」

 そう言いカオルを独房の外に押し出すと、トオルは額ににじんだ汗をぬぐいつつニコのもとへ帰ってくる。

「いやー、待たせたな」

「いいのか?本当に」

「ああ、それがお前の望みだからな」

「変わってるんだな」

「お互いにな」

 トオルはおどけながらふざけながらニコに質問を始める。


「まず最初に。お前たちは人間か?」


「それは俺たちにもわからない。それがわかるのは王だけだ」

 質問の回答が来るもトオルは手を休めることはなかった。


「なぜ天使などと名乗る」

「それも王のみが知ることだ」

「なぜ俺たちの作戦を見破ることができたんだ?」


「それに関しては、お前が一番わかっているのだろう?俺たちも日々学習するんだ。お前たちのようなワンパターンな脳みそではないからな」


「お前たちはなぜ戦う」

「それは王の願いをかなえるためだ」

「さっきから気になってたんだがその王ってのは何者だ?」

「私たちの生みの親であり文明の創造主。お前たちの言うところの神様だ」

 トオルの質問は機関銃のごとく止まることを知らなかった。


 そこには誰も侵害することのできない空間ができていた。


 その空間があったからこそ現時点での二人の関係は、はたから見ても決して悪い関係ではなかったのかもわからない。

おそらく二人の関係を知らないものから見ればただの友人ともとれるほどには良好だった。


 しかし、トオルの最後の質問によりその関係は早々に崩れることとなる。

「さて、最後の質問だ。お前たちはなぜこんなにも俺たち人間を殺し続けるんだ?」

 その問いかけに対しニコはその表情を硬くした。


「お前たち人間は下等な生き物だ。それゆえに愚かでもある。私利私欲のために我らを軽蔑する。それを知り心を痛めた我らの王はお前たちが生きているこの地球へ制裁を加えることで争いからの解放を行おうとした」


「それで俺たちを殺そうとしたんだな」

「そうだ、しかしここで問題が起きた」

「なんだ?」


「お前たち人間が俺たちに対して抵抗を始めたんだ。そのせいで俺たちの仲間は何人も無残に殺されていった」

「それはお互い様だろ、お前たちは俺たちの仲間を何人も殺してきた、俺ら人間はそれ相応の報いを受けさせただけだ」

「何が報いだ、笑わせる。やはり人間はおろかだ」


 話を聞き続けたトオルの眼の色は変わりおもむろにニコの胸ぐらをつかんだ。


「確かに俺たち人間はお前ら天使に比べて愚かかもしれない。それに互いに互いを傷つけ、異形の存在を受けれられずにその存在を軽蔑するかもしれない。殺しあうかもしれない。だがな、俺たちはそこから成長するんだ。一分でも一秒でもその先へその先へと進化の足を止めることなく成長していくんだ。そしてそこから俺たちは手を取り合い進んできた。それはお前たちからしたら愚かかもわからない。だがな、俺からしたら、それを見抜くことのできなかったお前たちの王のほうがもっと愚かだ!」


 熱く語ったトオルがつかんでいたニコのパイロットスーツから手を離した。トオルが握っていたそれにはくっきりとトオルの手の跡が残っていた。

トオルの思いを聞きそれを見たニコは少し微笑んだ。

「わ、悪い。つい熱くなって」

「お前はきっといいやつなんだな」

「そんなことないさ」

「いいや十分だ。だがな、その優しさが命取りになるぞ」

「どういうことだ」


「そのうちわかるさ。ただなこれだけは忘れるな、これは戦争だ。誰が死のうが生き永らえようがそれは単なる結果でしかない、重要なのはその前の段階だ。お前にはそれが見極められるはずだ」


 そう言い残すとニコは再びヘルメットのバイザーを挙げ深い眠りについた。



 トオルの目の前で再び眠ってしまったニコを見届けると、トオルはその独房を後にした。

 最後にニコが放った一言はトオルの胸の内に深く残り続け、トオルは今まで戦ってきたことに対しての不安がこみ上げていた。

―いったい何を見極められるってんだ?ニコは俺にないを問いかけたかったんだ?

 下を向き考えふけるとおるの元にカオルが向かってきた。


「お兄様、無事でしたか」

「カオルか、無事なのか?まあ無事なんだろうな」

「どうされたのですか?」


「いや、もしも。もしもの話だが、俺たちが倒してきた天使全てに命があって、家庭があって、子供がいる。そんな連中をずっと殺してきたってなったらお前は立ち直れるか?」


 カオルはしばらく立ち止まり考えた。


「そうですね、きっと私なら立ち直れません」

「やっぱりそうだよな」

「しかし、」

 カオルは覚悟を決めた人間の眼、未来に何が起きようがすべてを受け入れていた眼をしていた。


「それは今更考えたとこでどうにもならないと思うんです。現に私は多くの天使を殺してきました。それはどうもしようがないんです。そこで私たちが落ち込んでも人類を救うことにはなりません。住宅街に暮らしている一般の方々か背負わない分の業は私たちが背負わなければいけないんです」


 いつの間にか自分よりも成長していた妹の姿にトオルは涙をこぼした。

 その姿を見たカオルは急に慌て始めた。


「ど、どうしたんですか!?」

「いや、何でもない。お前は自慢の妹だ、いざとなったら頼むよ」

「まったく本当にどうしたんですか」

「さあな、そんなことより飯食おうぜ、腹減った!」

「はい!」


 カオルの肩をつかみ食堂へと向かっていったトオルの背後には何者かが独房へと入っていく姿があった。


 扉の閉まる音を聞いた二人は後ろを振り返るともうそこにはその姿はなかった。

「なあ、今明らかにそこの扉開いたよな」

「びっくりさせないでくださいよ、しかし確かにドアの閉まる音は聞こえました」

「嫌な予感がする、行くぞ」

「はい!」

 二人は音のなった独房の扉まで歩いていく。

 誰もいないはずの独房への道を進み扉を開けようとすると扉には鍵がかけられていた。


「お兄様、鍵なんてかけましたか?」

「かけてないけが」

「つまり、誰かが入った?」

 その状況の危機感を感じ取ったトオルは急いでドアの手すりに手をかける。


「今すぐこの扉を開けるぞ!」

 二人は固い鉄の扉をこじ開けようとするも、その扉はびくともしなかった。

しかし、扉の隙間から中の様子がうかがえた。

 そこには黒いローブを纏った何者かが牢屋の扉を開けてニコを独房から出していた。

「くそっ!なんで開かないんだ!」


 扉を開けようと切磋琢磨する二人の元へ何者かが接近してくる。

「おい!なにやってるんだ?」

 いつの間にかその大柄な男は二人の背後に立っていた。

「おやっさん!」

 二人に話しかけたのは、その行動を不審に思いやってきたモリタだった。

「大変なんです!何者かが捕虜を逃がそうしてるんです!」

「おいおいそれは本当か!?」

「嘘ついてどうするんだよ!いいから早くこの扉を開けるの手伝ってくれ!」

「わかった」

 モリタ、カオル、トオルの三人は固く閉ざされたその堅牢な扉を精いっぱいの力を込めてこじ開ける。

「よし!開いた!」

 鉄でできたその扉が吹き飛ぶとトオルは真っ先にドアをよけ中へ入る。


 トオルが先導し薄暗い独房の中に入るも、そこにはすでにニコの姿はなく。独房の壁には大穴が開けられていた。

「くそ!」

 壁を叩いた音に驚き足元から小さな動物が飛び出してくる。

『びっくりしたー』

 飛び出してきたのはアテナだった。

「アテナ!こんなところで何してるの?」

「まさか、お前がニコを逃がしたんじゃないよな?」

「待ってよ、アテナがそんなことするわけないでしょ!」

『私はやっていません』

「何か知っているような口ぶりだが」

『説明もしたいので皆さんを集めてもらえますか?』

 アテナの言葉を聞き入れカオルは構内放送で天使殲滅策略本部に所属する全員を一か所に集めた。


「至急構内にいるものは講堂へ集まってください!」


 その放送は医務室以外のすべての施設に響き渡った。


「捕虜が何者かの手によって脱走しました!」


 そのことがミツキらに伝えられたのはそれから数分後だった


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