恥2
二千百十一年十一月十一日午前十一時一分二十三秒
インターホンの音がした。「ツンポーン」とも聞こえないでもない音が聞こえる。「ピンポン」なのだろうが、もはや「ツンポン」にしか聞こえなくなった。ゲシュタルト崩壊ってやつか? いや、ゲシュタルト崩壊は「ぷ。」で人がボーリングして見えるやつか。なんて言うんだろうか。
「慎治。はやく」
ドアの向こうから彼女の声がする。
「おは……おはよう……」
「あがるわよ。時間よ」
彼女はまたも仮装している。今度は猫だ。白猫。白い髪の毛に白い猫耳が隠れてしまっている。今日は風が強かったのでそのせいもあるだろう。無言で彼女の髪を直す。
「……ありがと。でも時間よ」
「やけに時間にこだわるな?」
二千百十一年十一月十一日午前十一時七分五十三秒
「慎治、早く。デジタル時計、電波時計」
「へいへい」
俺は猫にデジタル時計を渡す。まだ十一時八分。
「慎治」
今度はなんだ、と振り向くとすぐ前に彼女の顔があった。俺は驚いて飛び退く。対して彼女は頬を膨らめて「なによ」と言った。びっくりしただけです、はい。
「あと、少し」
「ああ」
「……洋子さんは?」
洋子とは、俺の母親だ。本名は横田巡子だが彼女は洋子さんと呼んでいる。漢字の違いは昨日話した時に聞いた。
「……旅行だよ、まだ」
そう、今日は一人きりだ。今日も一人きりだ。そう思うと、なんだか悲しくなってきた。自分が大切にされていないようじゃないか。
「そう……あと二分よ」
「ポッ○ー、あるけど」
「……いらないわ、特別だから」
「?」
二千百十一年十一月十一日午前十一時十一分二秒
「さん、よん、ごー、ろく、なな、はち」
「カウントダウンじゃねぇのか……っ」
突っ込んだら口をふさがれた。強くつかみ過ぎだ、唇が痛い。
「十、十一……」
「十一……」
十一秒になった。特別が何かは全く分からなかったが、いつもと変化はなく時間は過ぎていた。
「私、十一秒から勇気をもらったわ」
「……? お、おう」
「慎治……す――」
二千百十一年十一月十一日午前十一時四十五分三十二秒
「……慎治、これ疲れるわ」
「お前が、やりたいって言ったじゃねぇか」
俺は今滑り台の近くにいる。もっと言えば俺の家の隣にある公園にいる。カン、カンとリズムを刻みながら彼女が滑り台に上る。
「……慎治は、運動不足ね」
「お前が運動不足なんだろ」
「口ごたえしない」
「お前がな」
特別が「滑り台したい」だったときは唐突過ぎてびっくりした。ちなみに彼女の今の格好は俺のジャージだ。
「行くわよ」
「どうぞ」
「……早く、滑り台の下行って」
どうやら滑り終わりの地点に行けということらしい。なぜだろうか。
「いいから、今日は特別よ」
でた、特別。もしかしてそれで俺を利用しているのだろうか。脅しか?
「早く」
「はいはい、わかりましたよ」
どんな魂胆があるかわからないが、頼まれるのは悪くない。俺は滑り台の下に移動する。果たしてそこを滑り台の下というのかはわからないが。
「行くわよ」
下から彼女を見ると、手が袖から出ていないのが分かる。裾も長すぎだ。
「どうぞ」
そういうと彼女が滑ってきた。そして、止まった。
「終わりだな」
「終わりじゃないわ、私、あなたの彼女になりたいわ」
「それはよかったな……は?」




