恥1
よろしくお願いします。
「トリックorトリート」
「……おはよう」
ここは俺の家。玄関前。時刻は十一時。祝日(お犬様の日。二〇四五年に制定された)の十一時はまだおはようと言えるだろう。
「……お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞー」
「……棒読みだな」
俺の目の前には女の子がいる。仮装している。魔女だ。ただし箒は百均の手箒だ。緑色の持ち手が全体のバランスを見事に崩している。服は黒、箒は緑、髪は白。緑さえなければよかったのに、台無しだ。
「……お菓子」
少しからかってみることにしよう。
「……いたずらだったら、何するの?」
「……えーっと、いろいろ?」
彼女はそういうと右手に持った手箒を魔法の杖のように使い「えい」と声を出し(棒読みである)こちらに向けた。
「……じゃあ、一つ聞いていいか?」
俺が言うと、彼女は小首をかしげて「なぁに?」と言った。
「ここまで、その格好で来たのか?」
「うん」
彼女の家は俺の家から踏切を二つ通らなければならない。時間にして二十分くらいだろうか。
「恥ずかしくないのか? ここら辺人多いけど」
「? 恥ずかしくなんて、ないわ。ハロウィンだもの」
ハロウィンなのかハロウィーンなのかは今考えないでおこう。ただ、彼女は大きな間違いを犯している。
「今日、十一月一日だぞ」
「……なの?」
「だぞ」
気が付いていなかったようだ。左手を顎に持って行って、しきりに考えている。
「つまり、慎治は」
「うん?」
「今日は、ポッ○ーの日だと言いたいのね」
違うのだが。全然違うのだが。俺はハロウィン(又はハロウィーン。どっちなんだ、一体)はもう過ぎたと伝えたいのだが。それをいきなり『ポッ○ーの日』と解釈するとは思わなかった。
「慎治は、私と二一一一年十一月一日、午前十一時十一分十一秒を見たいのね?」
わざわざ恥を知らせることもないかな……。彼女がいいなら、それでいいか。
「ああ、見た……」
「でも、だったら二一一一年十一月十一日、午前十一時十一分十一秒の方がいいわ。そうしましょう」
まあ、そちらの方がいいが、せっかく来てくれたのならば今日も見ていけばいいのに。
「見ていかないのか? 別に二回見たっていいだろ」
俺はすでに背中を向けている彼女にそう言った。彼女はこちらに向きなおると
「一回の方が、特別よ」
と言って、去っていった。
二一一一年十一月十一日、午前十一時十一分十一秒 俺の家
「見れたな」
「見れたわ」
「よかったな」
「よかったわ」
「……」
「特別よ」




