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第4話 反抗期・爆発

「ただいまー」


おそらく外出してから1時間は余裕で経過しているだろう。あまり時間を気にしてはいなかったが、さすがに9時を回っていたので自分でも驚く。


「兄さん。私の裸見て逃走するっていい度胸してるじゃん。」


 その悪魔の顔は、想像よりもはるかに子供向けではなかった。

「そんな顔見せたら幼児が泣きじゃくるぞ?」

「うるさい!そこに正座!」


リビングの地べたに座らされ、妹は椅子。まるで主従関係を体現したかのようなこの状況に、妹以外誰もが驚きを隠せていない。


「私、正座しておいてって言ったのに。コンビニ行ってきたの?」

 今まで感じたことのない殺意を全身に感じ取り、産毛までも怯えている。


「いやこれは、ちょっとお詫びというか。申し訳ないことしたなって思ってお前に買ってきたんだよ。」

「へぇ。なかなか気が利くんだね兄さん。なら私の裸を見たことは仕方がないから許してあげる。」


ホッと安心する。やはり智咲にとって全裸を見られること自体にはあまり怒ってはいなかったんだ。よかった。やはりあれだろうか、関わらないでといった矢先にこんなことをしてしまったからだろうか。それに関しては本当に申し訳ないと感じている。


「ありがとう!じゃあ許してくれるのか?」


そう問いかけたのは、やはり俺がダメ兄貴だったということを証明してしまう。


「私、まだおっぱいもんだことと、約束破って女と会ってたこと。許してないんだけど?」


 ぎ、ぎくっ!?今さっきの出来事をなぜを知っている。盗聴器などは仕込まれていないはずだ。父さんか義母さんの仕業?いやありえない。何も言わず家を出てきたはずだ。


「兄さんモテモテなんだね~。袋の中にみさきより、っていう人の電話番号書いてる紙入ってるけど。妹の約束破ってまで女求める出会い厨だとは思ってなかったなぁ」


 その発言を聞いてから、美咲にその紙を入れられていたことに初めて気づく。

「それは、たまたま帰り道に会って、少し話したんだ。紙が入ってたなんて気づかなかったよ。」


 俺は何も嘘をついてはいない。ただ言っていないことがあるだけだ。それは決して嘘ではなく、単なる隠し事。今時の高校生に隠し事の一個や二個くらい妹にしていても何もおかしくはないだろう。あぁそうだ。俺は何を言われてももう大丈夫だ!


「このジュース。随分ぬるいみたいだけど、どれだけ話してたの?兄さん。」


 感がいい女は嫌いだ。と言いたいところだが、妹にだけにはそんな言葉は言えない。言い訳も見つからず、ぼろが出る前にすべて話してしまった。


「三大美女ね~。さぞかしおっぱいも私よりでかくて?かわいい顔してたんでしょ~?ラッキーだったね兄さん?」

「そのごみを見る目はいったいいつ覚えたのか詳しく聞きたいんだが。」


 ここまで言われて黙っていられる兄貴がどこにいるか!そんなことになるのなら、ここで愛の告白をぶつけてしまってもいいんだな!そう心に決めて勇気を出したらよかったが、可愛い妹をいじる方がよっぽど楽しい。


「おまえ、関わらないでとか言いつつ、結局嫉妬してんじゃん。自立、できないじゃん。」


 世界で一番大好きといった兄に、ここまでツンデレする必要がどこにあるのだろうか。俺には全く理解できなかった。

「もう!部屋に来て!」


 両親に対してだろう。これ以上兄への言葉を聞かれたくはないのだ。年頃だからなのか、今更恥ずかしくなったのか。どちらにせよ矛盾している妹は世界で一番かわいい。


「もぉ兄さんってなんでそんなに美女からモテちゃうの!」


 頬を桃色にし、目線は俺を真っすぐ見ている。かわいらしいピンクのパジャマを着こなしている妹に俺はどれだけ愛を注げばいいのだろうか。


「さっきのことに関しては謝るが、金輪際関わらない俺の異性関係に首を突っ込んでくるのは智咲の宣言とは矛盾しているんじゃないか?」


 顎を軽く20度は上げて少しにやけながら問いかけた自覚はある。

「兄さんは私と関わっちゃいけないけど、他の女とも関わっちゃいけないの!」


 反抗期の女の子ってのはこうも絶え間なく矛盾を押し付けてくるものなのだろうか。幸せでたまらない。少し急いで乾かしたであろうぼさついた髪は、逆に可愛げが感じられる。唇を悔しいという感情が駄々洩れしているくらい噛みしめていた。


「そんな無茶言わないでくれよ。俺にだって事情があるんだ。」


 その言葉は最愛の妹を突き放すには十分すぎる言葉だったと、明日から後悔することになる。


「ならもういい。出て行って。」


 照れも悔しさも感じられない。無感情な台詞。少し開きっぱなしの扉を指さして、ただ立っているだけだった。それ以上、何も言わず。その妹の姿は、もう兄に頼り切らないという決意を表すようかのように淡々としていた。


 分かった。そんな返事するのが精いっぱいだった。先ほどまでの空気は凍り、自分の気持ちを吐いただけで息が詰まるような。そんな息苦しい空間になっていた。

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