第3話 三大美女 その一角
チクタクチクタクと秒針が俺の脳を揺さぶる。
妹の罵声を目の当たりにし、その上金輪際関わらないと言ってきた妹の胸を2?いや3回は最低でも揉んでしまった。そんな地獄絵図を誰が望んだのか。いや望んでないと言えば噓になるが、決してあってはならない状況だった。
「私が風呂から出るまで正座して待ってて!」
そう言いつけられ今現在に至ります。
かつてはともに風呂に入る仲だったのに。最近になって異性を気にし出したのか、一緒に風呂には入ってくれなくなったはものの、裸を見ただけでビンタするというのは家族としてどうかと思う。
もちろんこれに関して両親はノーコメント。彼らは放任主義を貫き通すらしい。というか家訓にするらしい。意味が分からない。
まずだ。俺は毎日ラノベを読み漁っている。であれば俺の人生をラノベとして例えよう。そして日常に変化が起きた日を第一話とする。なら、今日はその第一話に相当するはずだ。ラブコメ作品を数十と読み漁っている俺からして、第一話で女の子の全裸と風呂場で遭遇するのは。
「ナッシングに決まっている!駄作決定じゃないか!それが妹でも!!!」
そうだ。決して妹でも、最初に物語に出てきた女の子は読者視点からするとヒロインである。そう感じてしまうのは聖なる物語を勝ち進んできた猛者たちならよくわかる。第一話でヒロインの全裸を出す作家がどこにいる!これはもう売れないエロ作家という二つ名を与えられたといっても過言ではない。それは物語の最もクライマックスなキスシーンよりも更にあとに出すものだろうがぁ。このまま突き進んでいけば俺の人生のジャンルは「義妹ラブコメ」から「義妹エロス」へと路線が変更してしまう。
これは何があってもラブコメを死守するしかない!
そうして俺は妹の説教から逃げるのであった。
「あざしたー」
ビニール袋を提げてコンビニを出る。アイスにスナック、智咲が好きな炭酸ジュースを二本。これは説教から逃げたとしても十分に許される余地はある。そう自負している。しかし、そこでアイスが溶けてしまえば意味がない。許してもらえるどころか、怒りが膨れ上がるだけだ。ならとっとと帰ってしまおう。そう考えていた矢先だった。
「あれ時臣くん?どうしたんですかこんなところで。」
俺が通う私立高校で三大美人といわれている美少女、神崎美咲さんだ。その人気度はこの金髪が影響している。誰もが一目見たら忘れられないほどに美しい。そして顔も体も美形ときた。少し丸顔のように見えるが髪を後ろで結んだ時に感じるあの男らしさは先週のバレー授業から忘れたことはない。バストもおそらくD以上E以下だろう。俺の目はごまかせない。
「時臣くん?どうしてそんなに私を見つめているんですか?」
「あ、いやこれは。いつもに増してきれいだったから、つい。」
「またそんなウソを。時臣くんって私に興味ないですよね」
神崎さんは微笑みながら言った。しかし、その言葉は自分の魅力を否定することになる。そんな言葉を否定できるわけがない。だけど、興味があると言ったらうそになる。ただ美人で尊敬しているという意味合いに近いのだろう。
「嘘ではないですよ。ただ、尊敬してるんです。その生き方に。」
「また、時臣くんは深いことを言いますね。ここであったのも何かの縁です。少し話していきませんか?」
三大美女と呼ばれる神崎さんと話す機会なんて滅多にない。それに少し聞きたいこともあったから、ちょうどいいかもしれない。
「じゃあ少しだけ。神崎さんって、付きまとってくる人たちのこと、どう考えているんですか?」
それは、あまりにも失礼な質問。彼女の周りにいる人間を否定することになる。しかし、実際そうだった。朝から授業終わり、放課後まで。神崎美咲という人間の周りにはいつも誰かが集っている。そんな人を見て、俺はかわいそうと思ってしまう。
「そうですね、正直面倒くさいときもありますけど。それもまたいい経験になると思っています。」
その強い言葉に、俺は少し心を許してしまった気がした。
「神崎さんはすごいですね。よかったらアイス、食べてください。」
「あ、ごめんなさい。アイス買ってたんですね。」
「いいですよ。たまたま気分で買っただけなんで。」
うそつきのプリンセスのように。その人は笑っていた。
「ありがとう」
彼女の初めての砕けた言葉が感謝の言葉なら、決して悪いことはない。
「ところで、時臣くんはどうしてこちらに?」
「あぁ、少し妹を怒らせてしまって。お詫びの品を供えるために。」
「そうだったんですね。時間は大丈夫ですか?」
「全然、気にしないでください。」
またフフッと笑う。誰にでも振る舞うその姿勢はきっと疲れの原因になる。だけど、ほとんど話したことのないような俺が、人の生き方を否定することなんてできっこない。
「せっかくですし、この際名前で呼び合いましょう!」
神崎さんは両手をたたき、まるでめでたいことのように言った。整えられた爪も、細い腕もすべてが際立って見える。そりゃ三大美女って言われることだけはある。
「じゃあ美咲さんで。」
「堅苦しいですよ華徒くん。美咲って呼んでください。」
「じゃあ美咲で。」
「それでよし!」
二回目の砕けた言葉は優しい許諾の言葉だった。その時は少し、妹以外に対しても心から笑えていたと思う。




