第11話 泣かせてしまった。
「では行きましょうか。」
放課後になり俺たちは校門前に集合した。
軽いノリで言った『デート』という発言が、緊急イベント『ダブルデート』への進化を引き起こした。
今日は四人共予定が入っていなかった。とはいいつつ、渡辺と卓也は部活生だが、俺と美咲は帰宅部なので基本いつでも暇だ。三大美女と唄われている割には特に放課後の予定は入っていないらしい。
「まさかこの四人でショピングモールに行くなんてな。」
俺がまだ予想外の展開に現実味を感じていない中、渡辺は一人奇妙なくらい機嫌がよさそうだった。
「おっでかけ~おっでかけ~!」
ツインテールが今朝にも増して踊っていた。
これには浅い気持ちが関わっている。憧れの卓也と、憧れの神崎さん。男女全員の中で一番と言っていい人間二人とお出かけなんだ。それはテンションが上がるはず。しかし、俺に対しての態度が少々気になる。
「何見てんのよ。」
美咲の右腕にしがみつきながらこちらを睨んでいた。
「いやぁ、幸せそうだなって。」
「なに、神崎さんは時臣になんて渡さないんだから!」
「別にほしいとも言ってないだろうが!」
呆れた。この子はどこまで物欲があるのだろうか。
「私、華徒くんにフラれちゃいましたね。今まで一度もフラれたことなかったのに。」
「それは言い方悪くないですか神崎さん!?」
「とうとう名前ですら読んでくれないようになっちゃったんですか、」
あ~もう。呆れる人間ばっかりだ。渡辺はもともとこういう性格だから仕方ないと割り切れる。しかし、美咲に関しては全くの別物だ。呼吸、言葉遣い、タイミング。すべてにおいて本気を感じさせる話し方。偽りだと理解していてもこの人のペースには追い付けやしない。
「勘弁してくれよ。」
「まぁいいです。華徒くんにタメ語も馴染んできたようですし、今の段階では大満足してます!」
「それはなにより。もうちょっと俺が立派になってから告白してくれ。じゃないと釣り合わない。」
「っ」
その発言は、次の美咲の発言をひとつ、止めてしまった気がした。
気がつけば目的地のショッピングモールに到着していた。服から食材、ブランド物がざらりと並ぶ一方で映画館やゲームセンターなどの学生にも良心的な娯楽施設として年齢問わず人気を浴びている。
「よっし!じゃあ着いたしゲーセン行きますか!」
卓也の一声で話はまとまった。
「UFOキャッチャーですか?」
ゲームセンターに着いた時、美咲が驚いたように立ち止まった。ブランド物のテナントがずらりと並んでいる通路では何も気にしなかったのに、ゲームセンターをいざ目の前にしたとき、彼女はつい立ち止まってしまった。
「あれ、見たことなかったか?」
「えぇ、映像の中だけのものでしたから。」
「そういう制限とかが家の方針であったりするのか?」
「そうですね、父が少し厳しくて。この間のコンビニも、実は抜け出してたんですよ?」
「そりゃ驚きだ。怒られなかったのか?」
「その日父は遅くまでオンラインで会議をしていましたから余裕でしたっ!」
「笑っていいやつなのかそれ、」
俺たちがUFOキャッチャーに気を取られていると、卓也渡辺ペアは既に姿を消していた。見渡す限りどこにも見当たらずこの広い中探すのは少し困難、そう思っていた。
「おっしぃぃぃ!!!」
俺たちのすぐ近くでツインテールの大声が聞こえてきた。
「あら、もうあっちは盛り上がってるみたいですね~」
美咲はこっちも張り合うくらいの気持ちでいたらしく、手首を強く握ってきた。
「私も何か獲ってみたいです!」
大きな瞳からあふれ出すキラキラを見せつけて懇願してきた。
「しょうがない獲りに行こう。」
「やったぁ!」
小さくガッツポーズをとる彼女に少し見とれてしまったのだろうか。なぜか安心と心地よさを感じた。
「あのくまさん!私ほしいです!」
三十センチにも及ぶ大きなクマのぬいぐるみを指さして言った。握った俺の手首はそのまま拘束され、ぬいぐるみの台まで引きずられるように連れていかれる。
「よし!掴んだ!そのまま落ちてくださいっ!」
元気よく、両手を合わせて神頼みになっていた。しかし、ゴトンというゲットした音は鳴らず持ち上げた地点で垂直に落下してしまう。愕然とした美咲は今にも生気が飛んでいきそうだった。その場でしゃがみ込み、うつむいた少女を俺はその場で見たままにはできなかった。
「こんなの獲れっこないじゃんっ」
ピロン!台に硬貨が入った音と同時に美咲は顔を上げた。そこに見えたものは悲しくも取れなかった熊ではなく、視界の上部端に映ったたくましい男の手だった。
「俺が獲ってやるから。」
しゃがみこんだ美咲の頭にポンと手を置き、「悲しむな」と言わんばかりの勇気づいた言葉。彼が見つめるのはたった一点で、一切の迷いはない。何を狙い、何を得るのか。彼のその瞳は美少女の瞳よりもとても大きく感じる。
「ここだな」
少しニヤっと笑っただろうか。声には出さないものの、なんとなく雰囲気で感じ取れていた。
(華徒くん、こんな風にも笑うんだ。)
いつもの気遣った笑顔でもなく、息苦しそうな笑顔でもない。コンビニで会った日のように作り笑顔でもなかった。これが素の彼なのだと、少し気持ちが高まった。
「ほら、獲れたよ。」
気がつけばハッとなって台を見る。そこにはさっきのぬいぐるみの姿はなく、すでに彼の手の上にあった。
「あり、がとうございます。」
なぜだろう。悲しいことなんて何もないのにポロリと一摘涙が垂れてきた。
「ごめん。っもしかして自分で獲りたかったとかだたか?なら悪いことをしたな。」
「いやそんなんじゃないです。とても、とてもうれしいです。だからかな、なんでか涙が止まらなくて。」
ポロリと垂れたはずの涙は止まることなく次から次へと流れてきた。
「そ、それならよかったけど。本当に大丈夫なのか?」
「ほんとに大丈夫です。ありがとうございます。」
「ならよかった。まぁ昼に席を譲ってくれたお礼だ。」
「そんなっ、だめですよ。お金は返します!」
「って言っても百円だぞ?そのくらい返さなくてもいいから。」
俺は押し出すように美咲の財布をしまわせた。
「本当に、ありがとう。」
少し鼻をすすりながら言っった。
「あぁ」
青色の潤った瞳が真っすぐ俺を見つめる。クマのぬいぐるみを抱きかかえた小さい背丈の女の子。その子はこの世界で二番目に可愛い上目遣いをした。




