第10話 イチャイチャ展開
四限目の授業も終わり、窓から日が差し込んでくる午後一時。この日本一金持ちと呼ばれる学園の食堂は異常なまでの人気を誇っていた。十種類の店舗を構え、学園直営の店から某有名レストランまで揃っている。それぞれの店舗に並ぶ長蛇の列は、授業が長引いた日にはそこが袋小路のような感覚になる。
「あちゃー、こりゃまいったな。」
卓也は片手でおでこに手を当てた。
五分の出遅れは昼休みのうちに食べきれるかどうかを保証してくれない。クーラーがガンガンに聞いているだろうこの大きなホール内で、この列の周りだけは熱気に包まれている。
「こりゃ日替わり定食だな」
弁当を持ってくる生徒も多いが、この学園はそもそも私立では生徒数が都内一位を誇る名門高だ。食堂で済ませる生徒は毎日1000人を上回るという。2700という異常の生徒数を誇る本学園において、この食堂も大きな利益に直結しているのだとか。
学園直営の食堂では比較的良心的な価格で提供が行われている。逆にセレブのための食堂もあり、月額10万円のサブスクリプション制となっているらしい。うちはそこまで裕福な家庭でもないので、弁当がない日には直営の学食を購入している。
「安いし早いからな。俺は元々そうしようと思ってたが、卓也みたいな金持ちには口に合わないんじゃないか?」
箕島卓也。普段はこんなに軽く話せている相手だが、実際は大手金融機関のお坊ちゃん。学園とのかかわりも深いようで、よく学園長と面談したりしている。趣味は部活のサッカー。全国でもトップの実力を誇るこの学園のサッカー部はその全員がスポーツ推薦で各地から選出されたエリート達。卓也はそのトップの実力者中でも一年生ではずば抜けているらしい。クラスの女子も騒いでいたから、さぞ上手いのだろう。そんなエリートが俺の友人なのは今でも不思議でしょうがない。
「俺を一般人としては扱ってくれないのか?」
肩をくすめて笑いながら言った。
「そりゃ大企業の跡継ぎ様が500円の定食は食べないだろ?」
当然のことのように言い返す。
「家は基本放任主義だからな。俺は食いたいものを食うし、やりたいことをやる。サッカーだって趣味だし、お前と絡むのも好きでやってることだ。」
「なに照れ臭いこと言ってんだよ」
「あ、時臣おまえ照れやがったな?さては中学ろくな友達がいなかっただろ?」
深いため息をつく。卓也の観察力ど思考力の高さは才能だ。
「あぁいなかったよ。大正解だ。」
ボソッと呆れながら出た言葉を卓也は聞き逃すわけもなく、的中したことに小さくガッツポーズをした。
「日替わり定食ふたつで。」
食堂のおばちゃんに注文をする。その時に卓也から五百円玉を受け取り、俺が既に会計をしていた。気を使うこともなく、会話もない。空いている席は当然のように見当たらなく、空いてもすぐに取られる始末。教室で弁当を食べている奴らが羨ましい。
と、その時小さく耳に届いた声は最近聞き慣れてきた声だった。
「華徒くーん!こっちですー!」
立ち尽くすだけだった俺たちを見た美咲は10メートルほど先で席から立ち上がり、大きく手を振ってい同席している渡辺も淑女のその大胆な行いに少々慌てている様子。
無視する必要もなく、声の元へと向かった。道中で背後から卓也の冷やかしが何回か聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろう。席に着くと、たまたま4人席を二人で使っていた生徒が優しく招き入れてくれた。一人はそうじゃないっぽいが。そして卓也は渡辺の、俺は美咲の隣に座った。
「ありがとう美咲。ちょうど席がなくて困ってたんだ。」
「いえいえ、食事する人数は多ければ多いほど盛り上がりますからね。華徒くん?」
「「じーーーー」」
睨みつける際の効果音が彼らの口から出てしまっていた。
「なんだよおまえまで」
卓也に問いかけたが、渡辺と意気投合して聞く耳持たずの状態だった。しかし、渡辺には少しぎこちなさを感じる。
「意気投合ですね日和さん。今朝は箕島君を敵対視していたようですけど、やはり気があったのですね?」
「きゅ、急になんてことを言うんですか神崎さん!」
その美咲の大胆な宣言に渡辺は頬を赤く染め上げた。
その恥ずかしがった様子に卓也は微かな笑みを浮かべるが、俺はそうはしなかった。
「渡辺って卓也に気が合ったのか。なら俺に相談してくれればよかったのになー?」
満点の煽りを込めて卓也を横目に見つめながら言った。
その時だった。
「日和ちゃんをいじめないであげろよ時臣」
卓也の口から聞く予定のなかった言葉がさらりと発せられた。特徴、声量、声質。すべてにおいて俺と話す時とは異なっていた。面と向かって話したことのない相手が自分に気があると知って速攻で名前呼び。女子からすればきっとキュンと来ている状況のはずだ。つまり。
こいつ、この女を落とすつもりなのか!?
学年中から入学一週間という短期間で何回も告白されてきたこの箕島というアイドル級のイケメンが、第一印象最悪のはずだった女を落とすつもりらしい。
「あらまぁ、二人とも大胆ですね。」
「ほんとに。放下後デートでもいってきたら?」
俺と美咲のからかいは渡辺だけに効果あり。
「ちょっとやめてください!」
今まで以上に頬と、さらに耳も真っ赤になっていた。
しかしそこに美咲の真剣な声が渡辺のそれを止めた。
「いいですねデート。皆さんが暇なら、放課後ダブルデートしましょうか。」
予想外の発言に皆が唖然とし、食事が止まるのだった。




