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ゴシック&ロリータは、はばからないっ!?  作者: ねず ただひま


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8/17

落ち込む友と、嫌な会話

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る寸前、僕はギリギリで教室に戻った。ヒサシはすでに教室に戻っているがなにやら顔色がすぐれない。監督と何かあったのだろうか?


 五限目、六限目を終えて放課後を迎えると、ヒサシはフラフラしながら僕の席までやってきた。


「なぁ、栄磨《えま》……」

 

 覇気のない声で名前を呼ばれると、コッチまで肩が沈みそうだ。


「どうしたんヒサシ?」


「夏の予選のレギュラー……落ちた。市内の本校の一年生に奪われた」


 ヒサシは、頭頂部を僕に向け、分かりやすくうなだれる。

 そういえば、ヒサシは去年の県大会予選は一年にしてレギュラーで出場していたな。堅実な守備を買われ、セカンドを任されていた。打つ方も、わりと成績を残していたはずだけど……仕方ない。コイツを一発で元気にさせる魔法の言葉を唱えるか。


「そうか、それで昼間呼ばれとったんやな。悔しいな……」


「悔しいが、これが下からの突き上げっちゅーやつかのぅ。ワシの時代は、たったの一年で終わったんじゃ」


「まぁ、すぐに元気出せとは言えんけどさ、今週末に凛の奴が島に帰るって連絡あったけん、そん時は三人でパーッとやろう!」


 凛の名前を聞いたヒサシは、ガバッと顔を上げ、僕の肩を掴んで満面の笑みを向けた。


「凛、帰ってくるんか!?」

「う、うん」

「ほぉかほぉか……じゃあそれまでにまた散髪しとくかのぉ」

「ヒサシ、先月行ったばっかりやん」


 ヒサシは自分の坊主頭をぞりぞり撫でる。実はコイツは、昔から凛のことが好きなんだ。今は野球に集中したいという理由で、その思いはまだ凛に伝えていない。

 それにしても、凛に会えるとわかればすぐに立ち直ると思っていたが……あまりにも『こうかはばつぐんだ』すぎるぞ。ヒサシ。


「さて! ワシはまだレギュラー諦めてないぞ! 奪い返すためには練習や! 練習ッ! じゃあまたな、栄磨《えま》!」


 “凛”というワードで、奈落の底にあったメンタルを一気に立て直すとは。さて、僕も帰るか。


 背筋を伸ばしたヒサシを見送ると、僕はバッグを肩にかけた。ふと窓の外に目をやると灰色の雲が島の空を覆っていた。

 自転車置き場へ向かう途中、昼間に会った河口さんが女子二人と歩いているのを見かけた。楽しそうに会話をしている様子が伺える。いじめられて大事な物を隠されたのかもしれない。という、昼間の僕の妄想は杞憂だといいのだけれど。


 ──帰り道、僕は島で一番大きな神社に立ち寄った。鳥居の前で礼をして、総門をくぐり抜けて境内奥へと足を運ぶ。周りの木々が、低気圧が運ぶ風に遊ばれて囁く。

 特段信仰があるわけじゃないし、何か悩みがあるから来たわけじゃない。それでも僕は、ゆっくりと歩みを進める。樹齢三千年と云われている巨大な楠が見えた。その前のベンチに腰掛け、お茶の入ったペットボトルのフタを捻る。歪に湾曲する巨木の根っこを見つめると、不思議と気持ちが落ち着いてくる。ここは生まれる前からある場所だ。穏やかな境内の雰囲気に包まれ、僕の心は平穏を取り戻した。

 バッグから図書室で借りてきた文庫本を取り出して開く。僕にとって本は、活字を脳に送るだけで時間を早送りしてくれる便利なツールにすぎない。


 しおりを挟んでいたページを開いてすぐだった。建物の裏手から女の子たちの会話が聞こえてきた。風に乗って“転校生”のワードが耳に届く。僕の意識は自然にそちらへと向かい、聞き耳を立てていた。


「こないだ来たばっかのくせに、授業中に先生に意見するとか、なんなんよアイツ」

「ホンマよ! しかも普通に島崎くんに話しかけよるし」

「空気読めんのんよ。休み時間に鼻歌歌いながら裁縫しよるし、なんかキモいわ」

「そー言えば今日、あの子、縫ってたリボンめっちゃ探しよったらしいよ」

「あははは、私がさっき橋の上から川に投げ捨てたヤツじゃろ、今頃海に浮かんどんちゃう? あはは」

「ウケる〜、あはははは」


 …………


 少し強く風が吹き、木々のさざめきが彼女たちの会話を遮った。僕はそっと文庫本を閉じ、お茶を飲み干す。空のペットボトルをバッグの中へ落とし込んで立ち上がる。

 

 さてと……まだ日は高くて明るい。季節が夏で良かった。この時期なら、川に入っても変に思われないだろう。


 僕は学校のすぐそばを流れる川を目指して神社を後にした。


 


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― 新着の感想 ―
瀬戸内海の地域が舞台とのことで、田舎のノスタルジックな空気と安心感がよく描写されていて感心しました! 私もゴスロリ大好きです。やっぱりゴスロリは可愛いですよね。夏でもしっかり着こなしているあたり女の子…
読了しました!! ヒサシ好きだなぁ! 凛って子が今後登場してくるのが楽しみになりました!! そして、転校生の落とし物は投げ捨てられてたか……! 主人公優しすぎる、さらっと探しにいった!! これはまた…
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