噂話と、お弁当
六限目のチャイムが校内に鳴り響き、クラスメイトたちが虚脱感を声に出し始める。僕が通う高校は放課後を迎えた。
「あぁ〜疲れた」
「帰りにアイス食おうや」
「夜、LINEするね」
──部活動に励む人。教室に残って雑談をする人。家に帰る人。さっきまで同じ教室にいたクラスメイトたちは、思い思いの活動をはじめた。
「ん〜……じゃあ、ワシは部活行くわ」
椅子に座ったまま伸びをすると、ヒサシは立ち上がり、バッグを担いだ。
「あぁ、頑張って」
軽く手を上げて彼を見送ると、教室から出る間際に声を掛けられた。
「なぁ栄磨、野球部は人数少ないんじゃ。いつでも来いよ、待っとるで」
僕は苦笑いだけを返した。
さて、僕も帰ろう。父さんは今日から仕事で、しばらくは家には帰ってこない。家の中は僕ひとりだけになる。料理、洗濯、掃除……やることはいっぱいある。まずは帰りにスーパーに寄って帰ろう。
教室を出て、他の生徒たちと廊下ですれ違う中、ふとB組の教室を覗いてみる。朝見かけた転校生の姿はそこにはなかった。
自転車置き場に着くと、僕の自転車の近くで二人の女子生徒が立ち話をしていた。
「……がさ、昼休みになんか作っとるなぁ思って声かけたら、ロゼント? ロザリオ? とかなんとかを作っとる言いよったよ」
「へぇ? 転校生の趣味なんかな?」
あの転校生の話か? ひとりはB組の女子なのだろう。噂好きだなぁ
「でさ、島崎くんが、その子の作っとる物を見て、綺麗だとか、凄いねとか声かけたよ、そしたら離れた所でアカリがめっちゃ睨んどったんよね」
「うわ、こっわ……島崎くんってあのボート部のイケメンやろ? たしかアカリさんって島崎くんに告って振られたんじゃ……」
おいおい、マジか? 女子の嫉妬って怖いな……てか、新田アカリはそんなヤツだったか? 確かに目つきは悪くて少しヤンキーっぽい雰囲気だけど……
僕は自転車の錠を解除すると、前カゴにバッグを放り込み、これ以上噂話が耳に届かないように足早に自転車置き場を後にした。
──目的地のスーパーは、島で一番大きな神社を通り過ぎたすぐそばにある。店内に入り、カゴを腕に通すと明日からの食材を放り込む。最後に惣菜コーナーで夕飯のお弁当を手に取ってレジに並んだ。
「昨日えらい可愛らしい女の子を見たわ〜」
僕の前でレジを通してもらっているオバサンが店員さんに話しかけた。気さくに声をかけられるのは、この店が地域密着型だからだ。
「可愛いらしい子ってどんなん?」
「一言で言うたら、フランス人形みたいやったわぁ、ワタシも後十年若かったら着てみたいわぁ」
「十年前のアンタは五十じゃ。ただのオバチャン人形やん。あははは」
「いやじゃねぇ、十六よ! アンタ計算できんのかいねぇ、あはは!」
オバサンたちの日常トークの中に、あの子の姿を垣間見た。島は狭い。彼女の噂はすぐに広まっていた。
昨日の出来事は、変わり映えしない毎日を送っていた僕にとって、どこか非現実的なところがあった。だから、僕以外にも彼女を見かけた人がいると分かると、不思議とまた彼女に会ってみたい気持ちが込み上げてきた。
『またね』と動いた彼女の口から、次は『また会ったね』という言葉を聞けるだろうか?
こんな所にいるはずもないのに、ついキョロキョロと店内を見渡してしまう。
「はい、次、お兄ちゃんどうぞ〜」
「あぁ! はい……」
我にかえり、僕はカゴの中のお弁当が崩れないようにそっとレジ台へ乗せた。




