いつもの朝と、転校生
夢を見た。
子どもの頃の夢だった。みんなで秘密基地に集まり、好きな物を持ち寄り、お互いに発表をし合ったんだ。十人くらい集まってたかな? そして僕らは結成したんだ。
『しまなみっ子友の会』だったっけ?
それは、ある年の夏休みの間だけの、かげろうのような存在だったのかもしれない
「ほうじゃ! 隣のB組に大阪から転校生が来たんじゃと。女の子のな」
朝、教室に入るなり友人のヒサシが鼻息を荒くして僕にそう伝えてきた。坊主の頭皮にはうっすらと汗が滲んでいる。
僕はまだ自分の席に荷物を置いていないというのに……おはようの一言の前に、そんな事を真っ先に教えてくれるとは、コイツは意外とミーハーだな。
「なぁ、栄磨。今からB組覗きに行こうや」
僕はヒサシの両肩を正面から掴み、グイとその体を横に移動させた。
「どうせ今見に行ってもおらんよ。転校生ってのは、朝のホームルームで、担任がみんなの前で紹介するのが相場じゃろ?」
僕は自分の席に座り、バッグを机の横に掛けた。
「あぁ〜言われてみればほうじゃのう。流石は栄磨、冷静じゃわ。でものぅ、ちょっとは興味持てや。スカシとってもオモロないぞ」
「興味ないわけじゃないけど……」
僕は言いよどむ。そりゃあ女の子の転校生が来るなんて聞いたら、少しは浮き足立つ。けれどどうせ陽キャの一軍男子たちが、真っ先に声をかけるだろうと予想する。
それよりも、昨日会った彼女のインパクトが強すぎて、僕の興味は完全にそっちに惹かれてしまっている。
それに……あの子は
『またね』って言った……と、思う。
クラスメイトが次々と教室へ入ってくる。みんなそれぞれの友達と、決まった場所で雑談を交わしている。
昨日見た動画の話、彼氏彼女の話、部活の話、でかけた場所の話……教室を埋め尽くす青くて健全な会話は、僕の頭の中に入ってこない。まだ、ぼんやりと彼女のことを考えているからだ。
「お前、また親父さんとなんかあったんか?」
ヒサシが僕の顔を覗き込む。眉根を寄せて心配そうな顔をしていた。
「あ、いや。なんも」
また……か。小さい頃から僕の家庭の事情を知っているヒサシは、僕のことをいつも気にかけてくれている。ありがとう……
「大丈夫、大丈夫」
僕はニッと笑って見せた。
「おぉ〜い、噂の転校生を見てきたぞぉ!」
賑やかに教室に飛び込んできたのは、クラスいちのお調子者、曽我だ。
「えぇ!? どんな子やった? 可愛いん?」
女子たちがさっきまでの会話をやめて曽我の言葉に興味を示した。僕とヒサシも自然と曽我を見ていた。
「安心しろ! 我がクラスの女子ども! あの程度の見た目や雰囲気なら、君らが付き合ってる彼氏や、気になる男子が転校生にうつつを抜かすことはない! 多分な!」
曽我はガハハと笑い、それを聞いた女子たちは、嫌だぁ、とか、曽我って悪い奴だよねぇ、とか言ってニヤけている。
まだ見ぬ転校生の彼女を、早くも下に見て安心しているんだ。そんなやりとりを見て、あまりいい気はしなかった。僕の隣にいるヒサシも同じ気持ちのようだ。
「なんぞぉ曽我のヤツ。あんな言い方しおって」
僕は、一歩前へ踏み出そうとしたヒサシの肩を掴んだ。
「まぁ、気持ちはわかるけんど落ち着け」
知り合いでもない転校生のために怒れるヒサシを僕はなだめる。コイツが熱くなる時は、いつも誰かのためなんだよな……
キーンコーンカーンカーン♪
チャイムが鳴るとみんなは席についた。やがて担任が教室に入ると、簡単な出席確認を済ませ、もうすぐ始まる期末テストの話題を出すと朝のホームルームは終わった。僕らの一限目は化学。教科書一式を持って化学室へ移動する。
途中、B組の前を通るので、その教室の中へと目を向けた。見知った顔の中、明らかにウチの制服ではない女の子を発見する。彼女が例の転校生なのだろう。
眼鏡をかけたショートカットの女の子の横顔を一度だけ見ると、僕はヒサシと一緒に目的地を目指して廊下を歩いた。




