キーーン!と、キミの好き
ピロリロ♪ ピロリロ♪
単調な入店音に迎えられ、僕たち二人はコンビニの中へ入った。店内の冷えた空調が、僕の火照った体からゆっくり熱を奪ってゆく。
「はぁ〜、極楽だねぇ。エマくん」
「うん。涼しい」
僕たちふたりは揃って両手を広げると、冷たい空気を全身に受けた。
サンキュー、エアコン! サンキュー、コンビニ!
……いや、和んでる場合じゃない! 彼女の仲間が店内に潜んでいるかもしれない!
そしてタイミングを見計らい、そいつは僕にこう声をかけてくるんだ!
『おう、にいちゃん! ワレ、わしの女と何イチャついとんのじゃ! おお!?』
僕の脳内は、スキンヘッドでサングラスをかけた強面の男に支配された。
首を振って店内を見渡す。役場の人であろうワイシャツ姿の男性がレジに、小学生の女の子ふたりが飲食スペースにいるだけだった。少しだけ安心した。
女の子ふたりは、彼女のゴスロリ姿を見て、わぁ、といった感じで胸の前で手を組み、目を輝かせている。彼女はその子たちの視線に気づくと小さく手を振って応えた。
「さっ、キミはあそこで待ってて」
彼女は僕にそう言うと、女の子たちが居る飲食スペースへ向かうように促す。僕は言われた通りに大人しく空いている席に腰掛けた。
「あの人、お人形みたいですっごく可愛いよね」
「お顔も綺麗やったよ。YouTuberさんかな?」
女の子二人の会話を聞きながら店内のガラス越しに外の空をぼんやりと眺める。
今頃父さんは怒っとるだろうな……
それにしても、彼女はあの服を着ることに抵抗はないんだろうか? 都会なら同じ趣味の仲間がいるかもしれないけれど、こんな田舎の島では、好奇の目に晒されるだけだ。
会計を済ませた男性が、彼女を物珍しげにチラチラと伺い、店を後にした。あの人は職場に戻り『さっきコンビニに凄い服装の女の子がいたよ』と同僚に話すだろうか? 話のネタにするのだろうか? そんなことを勝手に思い、少し嫌な気持ちになる。
僕は隣の女の子二人に目をやる。この子たちはまだ小さい。『自分だったら、あんな目立つ服を着て外には出れない』なんて考えもしない年齢だろう。
「おまたせ〜」
ピタッ
「ひやっ!」
突然、首筋に冷たい物が当てられ、変な声が出て肩をすくめた。振り返ると彼女がアイスを持って立っていた。さっきはそのアイスを僕の首に当てたんだ。
「あはは、ごめんごめん。ビックリさせちゃったね。ハイ、これはお礼の品だよ」
彼女が手渡してきたのはソーダ味の棒アイスだった。
「好きでしょ? ガリガリくん」
「あ、ありがとう……」
アイスを受け取ると、彼女は僕の隣に座り、レモンティーのペットボトルの蓋をひねる。口をつけて喉を鳴らす彼女の横顔を眺める。黄色いパッケージ越しに見える青空が緑に染まって見えた。
なんだろう。見覚えが……ある?
緑に囲われた……僕たちの秘密基地……
誰だ? 誰だった?
ふいに彼女と目が合った。慌てて視線を外す。
「そんな見られたら緊張しちゃうよ。てかさ、溶けるよ……それ」
僕の手の中にあるアイスが柔らかくなっていた。
「あぁ、ごめん! いただきます!」
袋を破り、棒を引き抜くとアイスを袋の中に置き去りにしてしまった。
「アレ? あれ?」
「あはは、もう〜、なにしてんのよ。ほら、溶けてるじゃん」
彼女は口を大きく開けて笑った。
「あの、お姉さん!」
隣に座る女の子が彼女に声をかけた。僕たち二人は顔を向ける。
「お姉さんは、いつもその可愛い服をきてるんですか?」
「その服どこで売ってるんですか? トーキョーですか?」
二人は立て続けに質問をして、純粋な好奇心を彼女に浴びせた。
「ふふ……可愛いて言ってくれてありがとう、嬉しいな。この服はね、ワタシが自分で作ったんだよ」
「ええ〜!」
「凄い!」
マジか!?
僕たち三人は一緒に驚いた。
「少しだけママに手伝ってもらったりしてるけど、基本的には自分でデザインして、生地を裁断して、ミシンで縫って……大変だけど楽しいんだ。あ、でもブーツとソックスは市販の物だよ」
「す、すごい……」
「なんでそんなことできるの?」
こ、この服を自分で……!?
あらためて彼女の姿を頭から足のつま先まで何度も見た。てっきり、そういった系の専門店で買った服だと思っていたからだ。
「なんでって……“好き”だから」
……好き
だから……
自信たっぷりに、そして真っ直ぐに女の子の質問に答える彼女を見た僕の心は、まるで大きな石を持たされたような重みを感じた。
「ワタシは、ワタシの“好き”って気持ちを裏切らないようにしてるんだ」
あれ? この言葉って……
コロンコロン♪ コロンコロン♪
僕のスマホが着信を告げた。ポケットから取り出して相手を確認する。父さんからだった。
僕は慌てて立ち上がり、袋に残されたままのアイスを一気に口に流し込む。
「ちょっと、大丈夫!?」
心配する彼女をよそに、シャリシャリと冷たいアイスを咀嚼する。こめかみがキーンと痛むのを堪えて飲み込んだ。
「ぷは! ごちそうさま! ごめん、もう帰らなきゃ!」
「あ、ちょっと……!」
彼女の言葉を背中に受け、僕は店を出た。自転車にまたがり一度だけ振り返ると、彼女は店内から優しい笑顔で手を振って何かを伝えている。その口は『またね』と動いた気がした。
僕は自転車を漕ぎしながらアイスで汚れた口元を手の甲で拭った。唇の冷たさを感じ取ると、また背中に汗をかいて家路を急いだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次回、学校に女の子の転校生が……一体何者なのでしょうか




