二人乗りと、島風
僕の自転車は、緩やかな上り坂をゆっくりと進む。後ろに名前も知らないゴスロリファッションの女の子を乗せて……。
立ち漕ぎで酷使しているふくらはぎが、プルプルと悲鳴をあげる。めちゃくちゃしんどい。
「ふんふふ〜ん♪ ふっふ〜ん♪」
汗をかいた背中越しに、彼女の鼻歌を聞く。ずいぶん機嫌が良さそうだ。
「あの……あのさ! キミは、どこから来たの?」
女の子と話すのは得意じゃないけど、いつまでも受け身ではいられない。振り返らずに疑問をぶつけてみることにした。これだと目を見ないで済むからあまり緊張はしない?
「原宿とか新宿あたりじゃないかな〜」
「……? かな〜って、東京から来たの?」
曖昧すぎる返答に対して、息を切らせながら問いただす。
「まぁ、そこはこのファッション発祥の地なんだけどね」
あっけらかんとした、質問に答えてない回答だった。そんなことは聞いてねぇし……
「あ、そうだ。不良少年くんは、いつからタバコなんて吸ってるの〜? 健康に良くないよ。無駄に高いしさ」
「吸ってない! 吸ってない! あれは親に買ってこいってパシリにされたんよ……それに僕は不良じゃない」
「じゃあ、非不良少年くんなんだね〜あははは」
非? じゃあ不良って言わなくねぇか? なんだよソレ。ていうか、なんだよこの女の子?
坂の頂上まで登り切ると、ゆるやかなカーブを描く下り坂に差し掛かる。山側には小ぶりな実をつけたみかん畑が見える。
「やったね非不良少年くん。待望の下り坂タイムだ!」
足の筋肉から、すーっと力が抜けた。
「日傘、飛ばされんように持っててよ! それと、スカートが巻き込まれんようにね!」
「りょ〜かぁい」
しばらくペダルを漕ぐ必要はなさそうだ。
僕らを乗せた自転車は、滑らかに坂道をゆっくり降って行く。僕は途中で何度かブレーキをかけ、彼女を怖がらせないように速度を調整する。
「風が気持ちいいね! 景色もサイコー!」
彼女の日傘が風を受ける。バランスを崩さないようにハンドルを握る手と肩には、自然と力が入っていた。
坂を無事に降りると、後は平坦な道を走るだけだ。僕はふぅと胸を撫で下ろす。
「ねぇ、キミは高校で部活やってたりする? 体力あるから運動部かな?」
そう聞かれて、首を横に向けた。彼女の足元だけを見て、再び前を向く。
「いや、何も……」
見られてはいないだろうけど、僕は視線を泳がせた。彼女の期待に添えない回答だと思ったけれど、嘘はつけない。
「もう野球はやってないの?」
え……?
「やッ! やってない……今は、てか!? もうって! なんで!? 僕のことを知ってるの!?」
僕が野球をやっていたことを、なぜ知ってるんだ?
「むふふ〜、知ってるよぉ? キミが今うしろに乗せている可愛い子は、実は知り合いかもよ」
「えッ!? えぇ?」
後ろに座る彼女の表情は見えないけれど、その口調から、きっと意地悪そうな顔をしていることは簡単に想像できた。
「あ! アレかな? さっき言ってたコンビニは!?」
顔を上げ、青と白を基調としたコンビニを視界にとらえる。
彼女が小さく「変わっちゃったね……」と呟いた気がしたけど、風の音ではっきりとしなかった。
コンビニの駐輪場に自転車を止める。彼女の厚底ブーツはアスファルトを鳴らした。
「とうちゃ〜く」
日傘を畳む彼女の後ろ姿を見つめる。日の光に当てられた白髪はキラキラしていて、不自然なほど眩しい。あれはウィッグだろうか。
知り合いかもしれないって……
僕はこんな子に心当たりはない……はっ!
まさか! ……詐欺?
大人しそうな高校生を狙った詐欺なのではッ!?
店内に仲間がいるんじゃ……これは美人局かもしれない!
身の危険を感じ、早々に帰る意思を伝えようとした。
「じゃ、じゃあ僕はこれで帰……」
「待ちなよ! ここまで乗せてもらったんだ。お礼くらいさせなよ、エマくん」
ななッ! 名前まで知ってる!!
「さ、入ろっか。能智栄磨くん」
彼女は口元を緩め、僕のシャツのそで口を指でちょこんと摘む。そのまま引っ張るように僕をコンビニの中へ連れて行った。
ひぇぇぇぇ〜!!




