スニーカーと、フラペチーノ
僕らは大勢の人で賑わう休日のショッピングモール内を歩き回った。
雑貨屋でかわいい小物を手に取り、お互いにサングラスを試着して笑いあったり、本屋で新刊の小説を選んだり、お昼にフードコートでハンバーガーを食べたりした。
ふと靴屋の前を通った時、凛に足元を指摘された。
「ねぇ、栄磨。その靴、めっちゃ窮屈そうに見えるよ。汚れとるし……ちょっと見て行こうよ」
言われて僕は視線を落とす。確かにこの靴は一年以上履いている。元々真っ白だったスニーカーはヨレてくすんでおり、ピカピカに磨かれたモールの床は、靴の汚れを目立たせていた。それにサイズも合わなくてなった気がする。
「そういえば、ちょっとこまなった気がする」
「アホか、ちいさくなるわけないやん。アンタが大きなったんよ。さ、中入ろう」
店に入ると、凛はすぐにお手頃な価格のスニーカーを見つけ、手に取った。
「これはどんな? このメーカーの靴がセールになっとんの珍しいんよ」
凛が選んでくれた靴を受け取る。どんな服装にも合わせやすい白のスニーカーだ。
「コレええね、さすがは凛。センスあるわ」
「ほうじゃろ? もっとわたしを褒めてもええんよ」
凛は胸に手を当て、ドヤ顔で口のはしを持ち上げた。
「せっかく市内まで来たんやし、これ買おかな」
「ではではお客様、こちらに座って履いてみてくださ〜い」
凛は店員さんになりきり、僕を椅子に座らせた。凛が選んだスニーカーに足を通そうとしたが、小さくて足が入らなかった。
「あれ待って、栄磨ってこんなに足大きかったん?」
「身長のわりに、足はデカいんよ。たぶん、二十八センチが丁度かも」
「わかった、ちょっと待っとって」
──凛は、僕の足に合うサイズのスニーカーを持ってきてくれた。足を通して立ち上がる。その場で足踏みしたり、軽くジャンプをした。足の裏全体に馴染みのない中敷の感触が伝わり、それがくすぐったくて、思わず口元が緩んでしまった。そんな僕を、凛は隣でじっと見ていた。
「これ、丁度かも。カッコいいし、凛が選んでくれたけん買うわ」
凛と僕は、あまり身長に差はない。少しだけ僕の方が高いくらいだけど、凛の視線は僕の頭上に向いていた。
「足の大きい人ってさ、あとからめっちゃ身長伸びるらしいよ」
「え、そうなん? だと嬉しいな。僕は平均よりやや背が低いけん、高身長にちょっと憧れてるんよ。カッコよく見えるしね」
「……わたしは、気にせんけど……」
「え?」
ほんの少し見つめ合うと、凛は突然うつむき、僕の背中をバシバシと叩いた。
「ほら、買っといで。まだ次に行きたいところあるんやけんね。それと、エコバッグ。袋はタダじゃないんじゃけん断るんよ」
僕は小さく畳んであるエコバッグを受け取る。凛は背を向けてそそくさと店を出て行ってしまった。
会計を済ませ、箱と袋を断り、新しいスニーカーをエコバッグに入れた。店の外で待たせていた凛に、ありがとうと声を掛ける。すると、凛は視線を合わせずに僕に手を差し出した。
「ま、迷子になったらいかんけん……」
「あ、うん」
僕らは互いの目を見ないまま手を繋ぎ、歩き出した。
「じゃあ、最後に甘いもの買って帰ろう」
凛に手を引かれてたどり着いた場所は、コーヒーショップだった。どうやらこの店のフラペチーノが食べたいらしい。店内に足を一歩踏み入れると、コーヒーの香りが鼻の奥をくすぐった。
列に並んで順番を待つ間、メニュー表に目をやる……サイズ感がまったくわからん。SとかMじゃないんか? それにまぁまぁ値段が張る。
「栄磨、これを使うよ」
凛は財布からこのお店のクーポン券を二枚取り出した。
「五百円分の割引クーポン。じつは期限が今日までだったんよ」
「おぉ、これでお安くコーヒーが飲めるわ。それにしても、しっかりしとるね、凛は」
「当たり前じゃ」
凛はニッと笑った。僕らの順番になると、カウンター越しに若い男性店員が話しかけてきた。
「いらっしゃいませ……あれ? 凛ちゃん?」
「こんにちは、新田先輩」
凛は笑顔で挨拶をする。新田先輩と呼ばれた男性は、ゆるめのパーマがかかったマッシュヘアのイケメンだった。どこかのアイドルグループのメンバーだと言われても疑わないほど整った顔をしている。
「来てくれたんだね……ええと」
先輩は凛の隣にいる僕を見た。なんだか少し顔をひきつらせている気がする。
「先輩からいただいたクーポン。二人でありがたく使わせていただきますね。じゃあ私は白桃のフラペチーノをトールでください。栄磨はどうする?」
凛は僕に肩を寄せて聞いた。
「アイスコーヒーを……僕もトールで」
「か、かしこまりました」
先輩はにこりと笑ったが、心なしか顔色が悪いような……元からこんな人なのだろうか?
僕らは、なんだか元気のない新田先輩から商品を受け取ると、それを手に店の外のバス停を目指した。




