ラムネと、レモン
駅前のターミナルからバスを乗り継ぎ、僕らはショッピングモールへ到着した。そこは小高い丘の上にあり、隣にはプロサッカークラブが経営するスタジアムがあった。今日は午後から試合があるらしく、ユニフォーム姿のファンがスタジアム周辺に集まっていた。
モール内に入ると、真新しいピカピカのフロアを大勢の人が行き交っていた。通路に設置されたフロアマップに目をやった。三階建てのこのモールには、別館もあり、数えきれないほどの店舗が構えられていた。
「うわぁ〜ここ、めっちゃ広いし、なんでもあるね」
「ほうじゃね。この中を歩くだけでも楽しいんよ。じゃ、行こっか」
「一緒に見てもらいたい物って、ここにあるん?」
「そ。行くよ」
凛が僕の手を掴んだ。モール内は冷房が効いた快適な温度だが、凛の手は温かい。そのぬくもりが、まるで火のついた導火線のように僕の血管を巡り、ついには頭に着火して、僕の顔は一気に熱を持った。
「迷子になったら困るけんね」
振り返ってそう言った凛の顔も、少し赤くなっていた。
そういえば凛と手を繋ぐなんていつぶりだろう? 幼稚園以来かな?
僕は凛に引っ張られる形でモールの中を歩いた。建物の中は、家族連れ、カップル、友達同士の団体などで賑わっている。時折り、すれ違う男性からの視線を感じた。
『あの冴えない男が、なぜあんな美人と手を繋いで歩いているんだ』どうせそう思っているのだろう。
「着いたよ」
僕が連れてこられたのは、レディースファッションショップだった。可愛らしい店構えの前には、着飾ったマネキンが立っており、まるで僕の入店を拒むように見下ろしていた。
「さぁ、入った入った」
店舗内に踏み込む覚悟を決める前に、僕は凛に背中を押されて入店した。
「いらっしゃいませぇ〜店内夏物30%オフです。どうぞご覧くださいませ〜」
女性店員さんの声が聞こえる中、凛は「よかった、まだあった」と安堵した声を漏らし、二着のワンピースを手に取った。
「ねぇ栄磨、どっちがいいと思う?」
凛は同じ形のワンピースを、自分の体の前で交互に当てがう。その違いは、水色か淡い黄色かだけだ。ただ、それだけの違い。おそらく僕は、無意識のうちに眉をひそめていたのだろう。
「ちゃんと考えてほしいんやけどなぁ」
凛は少し頬を膨らませていた。
「ああ、ごめん。考えるよ……」
島の夏空に似た水色は、大人っぽく整った凛の顔によく似合いそうだ。黄色は可愛らしさを強調しているが、子どもっぽさを感じさせない淡い色合いだ。
というより、おそらく凛はどちらを着ても似合うだろう。そして、どっちも見てみたいと思っている自分がいる。
顎に手を当てたまま唸っていると、凛が嬉しそうにずいっと体を近づけてきた。
「ねぇ? どっちが似合うと思う? 栄磨の好きな色でもええよ」
その距離の近さに思わず身を引いてしまう。
「う〜ん、甲乙決めがたい……けど、あえていえば……僕なら水色……かな?」
僕は反応をうかがいながら答えた。すると凛はニコリと微笑む。
「わかった。じゃあこっちにする」
凛は嬉しそうに水色のワンピースをレジへ持って行った。僕は店から出て、フロア通路に設置されたベンチに腰掛けた。会計をしている凛をぼんやり眺める。
小さい頃。みちくさ屋でお菓子を選ぶのに迷っていた凛を思い出し、僕は目を細めていた。
──「ねぇ栄磨、ラムネ味とレモン味、どっちがええと思う?」
──「え〜それで悩んどんの? 僕ならラムネ味かな」
──「わかった。んじゃ、レモン味にするわ」
──「えぇ〜、なんで聞いたんよ」
──「あはははは」
「栄磨?」
「……あ!?」
凛が僕の顔を覗きこんでいた。
「なんか考えごとしとった?」
困り眉でそう聞かれた僕は、すっと立ち上がった。
「違うよ。凛が黄色のワンピース買っとったら面白かったかなぁて、思っただけ」
凛はキョトンとした顔をしてから、プッと吹き出した。
「あははっ、ガキじゃないんやけん、そんなんせんよ」
「持つよ」
僕は凛に手を差し伸べた。
「当たり前じゃ」
ワンピースが入った紙袋を凛から預かると、二人でモール内を散策した。




