ロゼットと、悩みのタネ
僕は、河口ふみが探していたであろうロゼットを家に持ち帰った。洗面台で軽く汚れを洗い流し、水気を切ってタオルでくるんだ。
そして今、一人で簡単な夕食を食べながら何度もそれに目を向けている。
さてさて、困ったぞ。
どうやってコレを本人に返そうか?
道に落ちてたよ……か?
学校の廊下で拾ったよ……か?
川に流されていたよ……か?
本人の机の中にそっと戻しておく……か?
不信感を与えず、さらにキモがられずに本人へ渡す方法を思案する。
道や廊下で拾ったと言ったら、いつ? どこで? と詰め寄られても困る。
川で拾ったと言ったら、流されているのにわざわざ拾ったの? と驚かれそうだ。
こっそり机に戻すなんて、誰かに見られようものなら、学校に通えなくなってしまう。よしんば上手くいっても怖がらせるだけだ。
「ちょっとマジで悩むぞ、これは」
タオルを広げてロゼットを手に取る。あちこちに泥やシミが残ってしまっているのが気になる。
汚れてしまっているので、もしかすると返されても困るのかもしれない。
「ふぅ〜……、どうしたらええかな? 母さん」
微笑みを浮かべる写真の中の母親へ、ため息混じりの悩みをぶつけた。僕は、返るはずのない返事を、頬杖をつきながら待つ。聞こえてくるのは外の雨の音だけだった。
──翌朝。目の下にクマを作った僕を見て、ヒサシが笑った。コイツに相談しても良かったのだけれど、河口さんがクラスに馴染めずに、イジメられていることが知られてしまう。なんとなくそれは避けたい。
二限目の休憩時間、廊下でマスクを付けてる河口さんを見かけた。一緒にいる女子はアカリ、新田アカリだ。二人は仲良さそうに笑い合っている。不良っぽい雰囲気のアカリと、真面目な感じの河口さん。ちょっと意外な組み合わせに思えた。
転校生初日、自転車置き場でアカリが河口さんを睨んでいたと小耳に挟んだ。だから河口さんがロゼットを無くしたと聞いた時、盗んだのはアカリなのかと、ちょっとだけ疑っていた。でも、昨日神社の裏で聞いた声は、アカリとは別人の声だった。その時、内心ホッとしていた。やっぱりアカリは陰湿なことはしない奴なんだと。
つーか、二人めっちゃ仲良さそうなんじゃけど。
河口さんは目を細めて笑っている。
あ、そうだ! ロゼットはアカリから河口さんへ渡してもらおうじゃないか!
ナイスなアイデアが浮かぶと同時に、尿意を思い出した僕の足取りは軽く、そのまま男子トイレへと向かった。




