第2話
気づいたのは、画面の光だった。眠っていたはずなのに、スマートフォンがぼんやりと明るい。澪はゆっくりと目を開ける。頭はまだ重く、思考ははっきりしない。
アカウントに残っていた、その女性だと思わしきトーク欄に文字を打ち込む。
「こんばんは、すみません。聞きたいことがあります。」
送信してしまった。天井がぐるぐるとまわるようだ。
それでも、画面に表示された通知だけは、はっきりと認識できた。
——メッセージがあります。
一瞬で、眠気が引いた。
トークを開く。そこには、確かに返信があった。「どなたですか?ここは也と私だけのアカウントなのですが」澪の指先が止まる。やはり、存在していた。過去ではなく、“今も繋がっている相手”として。ほんの少しだけ、呼吸が浅くなる。それでも、澪は打ち込んだ。
「也に教えてもらいました」
嘘だった。送信したあと、数秒の沈黙。やがて、また画面が動く。「そうなんですね」短い一文のあと、続けて表示される。「それで、何の用ですか?」丁寧な言葉なのに、距離があった。
澪は、少しだけ言葉を選ぶ。「お二人は、どんな関係だったんですか?」一拍置いてから、さらに続ける。「付き合っていたのは分かりましたが、身体の関係は責任を取れる歳になってからの方がいいと思いますよ」「也は、貴方に誘われて困っていたみたいなので。断ったようですが……」
色々、つい送ってしまった。
打ち終えたあと、自分でも息を止めていたことに気づく。返事は、すぐには来なかった。時間だけが、ゆっくり過ぎていく。やがて、通知が鳴る。
「……貴方、何も知らないんですね」
その一文だけで、空気が変わった。続けて、メッセージが届く。「それなら、交換条件にしますか。どうして急に連絡してきたのか、あと、私の名前は知ってますよね?なら、貴方の名前も教えてください」「平等でしょう?」「その二つを答えてくれたら、正直に話しますよ」少し間を置いて、さらに続く。
「覚悟が必要かもしれないですが。」
澪は、画面を見つめたまま動けなかった。喉が乾く。それでも、逃げるという選択はなかった。指が動く。
「偶然、ログインできてしまったんです」「也からは、あなたとは友達同士で遊びだったと聞いていました」「でも、ここに残っているものを見て、そうじゃないと分かりました」
一度、指が止まる。それでも、打ち込む。「私は、澪です」
送信したあと、しばらく画面は動かなかった。沈黙。やがて、相手から返信が来る。「分かりました」「正直に話しますね」
その一文のあと、しばらく何も来なかった。待っている間に、意識が少しずつ遠のいていく。眠剤の影響が、また戻ってきていた。気づけば、澪はそのまま眠ってしまっていた。
どれくらい時間が経ったのか分からない。目を覚まし、すぐにスマートフォンを手に取る。トーク画面を開いた瞬間、息が止まった。画面いっぱいに、文章が並んでいた。スクロールしても、終わらない。長く、細かく、丁寧に書かれた言葉。目を覆いたくなるような内容。それでも、澪は目を逸らさなかった。本当は、分かっていた。こうなることを、どこかで予感していた。けれど、それでも、あまりにも重かった。
隣では、也が何も知らない顔で眠っている。その寝顔を見ながら、澪はただ画面を見つめ続けていた。朝日が、部屋を照らしていた。何も知らないまま、すべてを照らすように。




