地下螺旋収容塔の朝
翌朝。
クズオは、薄暗い牢の中で目を覚ました。
背中が痛い。床は硬く、寝具らしいものもない。昨夜の光景が脳裏によみがえり、胃の奥がきゅっと縮んだ。
――あの化け物は、いったい何なんだよ……。
血に染まった白いエプロン。巨大な肉切り包丁。そして、悲鳴を上げる囚人を、まるで食材でも扱うかのように解体していった光景。
思い出しただけで吐き気がこみ上げる。
『おはよう、囚人の諸君』
不意に、天井の拡声器から陽気な声が響いた。
『昨夜はよく眠れたかな? 今夜も午後八時に魔力徴収をさせてもらうから、楽しみにしてくれよ?』
プツン。
それだけ言うと、アナウンスは途切れた。
「……ふざけんなよ」
クズオは、思わず悪態をついた。
楽しみにしろだと? 冗談じゃない。昨夜は、あの化け物のせいで一睡もできなかったも同然だ。
クズオは扉に目を向けた。
鍵穴の横に埋め込まれた、細長いガラス製の魔力ゲージ。
内部に浮かぶ緑色の光は、今にも消えそうなほど小さくなっていた。
「お、おい……嘘だろ? もう、こんなに減ってるのかよ!」
昨夜、必死に魔力を注ぎ込んだはずだった。
しかし、ゲージの残量は、ちょうど尽きかけている。
このままでは、今夜もまた魔力を徴収される。
いや、それ以前に――。
クズオは、昨夜の惨劇を思い出して身震いした。
あのゲージが空になれば、どうなるのか。
考えたくもなかった。
カチャ。
「え?」
突然、牢の扉が開いた。
クズオは反射的に身を引いた。
しかし、看守長が現れたわけではない。
カチャ、カチャ、カチャ、カチャ……。
螺旋状に連なる無数の牢で、次々と鍵の外れる音が響いた。
やがて、収容塔の壁面を埋め尽くす扉が、ほぼ一斉に開いていく。
「おい、朝だぞ!」
「腹が減った! 飯はどこだ!」
「昨日の仕事、まだ募集してるか?」
囚人たちがぞろぞろと牢から出てきた。
昨夜の惨劇など、最初からなかったかのように、彼らは慣れた様子で動き始める。
階段を下りる者。
隣の囚人に声をかける者。
壁際に座り込み、何かを待っている者。
その光景に、クズオは呆然とした。
「な、何なんだよ……こいつら」
すると、少し離れた場所で、ひとりの囚人が奇妙な行動を始めた。
彼は、どこから取り出したのか、古びた布を床に広げた。続いて、小さな木箱を置き、その中からパンやら何やらを取り出して並べていく。
あっという間に、即席の露店が完成した。
「おい、パンを二個くれ」
別の囚人が声をかける。
「2ドル30セントだ」
「はいよ」
客の囚人は、懐から紙切れと小さな円形の板を取り出し、店主に手渡した。
店主はその数を確かめると、パンを2個、紙袋に入れて渡す。
実に手慣れたやり取りだった。
「…………は?」
クズオは、思わず口を開けた。
「お、おい。あれって……」
クズオが隣にいた中年の囚人に尋ねると、男は露店を一瞥して、あっさり答えた。
「ああ。旧文明で使われていた紙幣と硬貨だ」
「旧文明?」
「そうだ。この時代じゃ、ほとんど見かけない代物だな。だが、ここじゃ今でも使える」
中年の囚人は、懐から擦り切れた財布を取り出した。
中には、何枚かの紙幣と硬貨が入っている。
「な、なんで囚人同士で商売してるんだよ!」
クズオが声を荒らげると、男は鼻で笑った。
「新入りなら、知らなくても無理はない。ここじゃ、金がなけりゃ食い物も買えないし、まともな寝床だって確保できない。怪我をしたときの薬も、他人に頼み事をするときの謝礼も、全部金だ」
「はあ!?」
クズオは目を見開いた。
「お、おい、待てよ! 囚人には食事くらい支給されるんじゃないのか!?」
「最低限の配給ならあるさ。生きていられる程度にはな」
男は、ひどく乾いた声で言った。
「だが、それで満足できるなら、好きにすればいい。もっとマシなものが欲しけりゃ、自分で稼ぐしかない」
「稼ぐって……どうやって?」
中年の囚人は、収容塔の下層へ続く階段を親指で示した。
「地下水路のスライム駆除だ。簡単な仕事だぞ?」
「ス、スライム?」
「ああ。地下水路に湧く雑魚モンスターだ。駆除すりゃ報酬が出る。武器や道具は貸し出してくれるし、初めてでも何とかなる」
「……何とかなる?」
「そうだ。少なくとも、ここで何もしないよりはマシだな」
男は財布をしまい、歩き出そうとした。
「俺も稼ぎに行くが、お前も来るか?」
「…………」
クズオは、男の背中と、遠くに見える露店とを交互に見た。
昨夜、目の前で囚人が解体された。
今夜も魔力ゲージを満たさなければ、あの看守長がやってくる。
そして、生き残ったとしても、ここで暮らすには金がいる。
――ふざけるな。
俺はキモオジ家の人間だぞ。
こんなところで、スライム退治だと?
下級の冒険者でもあるまいし、なぜ俺がそんなことをしなければならない!
そう叫びたかった。
だが、クズオは昨夜の光景を思い出し、喉の奥で言葉を飲み込んだ。
ここでは、家柄も地位も通用しない。
少なくとも、今の自分には。
「……わ、分かったよ。行けばいいんだろ」
クズオは、不満を押し殺して答えた。
中年の囚人は、口元をわずかに歪めた。
「そうか。なら、ついてこい。仕事場に着いたら、まず説明してやる」
男は階段を下り始めた。
クズオも、慌ててその後を追う。
螺旋状の通路には、今日も囚人たちの声が響いていた。
露店の店主が値段を叫ぶ。
仕事仲間を探す者たちが声をかけ合う。
誰かが笑い、誰かが怒鳴り、誰かが金を数える。
そこには、奇妙なほど活気のある日常があった。
ただし、その誰もが知っている。
午後八時になれば、魔力徴収が始まる。
そして、午後十時になれば――。
あの看守長が、やってくるのだ。
*****
地下螺旋収容塔、地下水路。
石造りの壁には、ところどころ緑色の苔が生えていた。天井からは水滴が落ち、足元を流れる汚水からは、鼻をつくような悪臭が漂っている。
「おい、足元に気をつけろよ。」
先を歩く中年の囚人が、手にした粗末な棍棒を肩に担ぎながら言った。
「うるさい! そんなこと、言われなくても分かってる!」
クズオは顔をしかめ、鼻をつまんだ。
どうして自分が、こんな汚らしい場所で働かなければならないのか。
キモオジ家の人間である自分が、薄汚れた囚人たちと一緒になって、スライム退治などという雑用をさせられている。
屈辱以外の何物でもなかった。
「だったら、もう少し静かに歩け。魔物が寄ってくるぞ」
「はあ? スライムなんて、雑魚だろうが!」
「……そう思うなら、試しに一匹倒してみろよ」
中年の囚人は、呆れたように肩をすくめた。
そのときだった。
ぴちゃり。
足元の汚水が、不自然に盛り上がった。
「ひっ!?」
青白く透き通った粘液の塊が、水路から這い上がってくる。中央には、赤い点のような核が浮かんでいた。
「出たぞ。スライムだ!」
「わ、分かってるよ!」
クズオは慌てて貸与された短剣を抜いた。
スライムが、ゆっくりとこちらに向かってくる。
「く、来るな! この野郎!」
クズオは短剣を振り下ろした。
べちゃっ!
「うわあっ!?」
刃が粘液に埋まり、短剣が抜けなくなった。
スライムは、そんなクズオの抵抗など意に介さず、じわじわと刃を包み込んでいく。
「お、おい! どうすりゃいいんだよ、これ!」
「核を狙え! そこを潰せば倒せる!」
「最初からそう言えよ!」
クズオは半泣きになりながら短剣を引き抜き、今度は赤い核を目がけて突き刺した。
ぐしゃり。
核が潰れた瞬間、スライムの体が崩れ、ただの粘液となって水路に流れ込んだ。
「はあっ、はあっ……!」
クズオは肩で息をしながら、短剣を見下ろした。
「な、なんだよ。大したことないじゃないか……」
「そうかい。じゃあ、あと十匹くらい頼むわ」
「ふざけんなあああっ!」
クズオの悲鳴が、地下水路にこだました。
◇
しばらく作業を続けるうちに、クズオは地下水路の奥で、別の囚人たちが魔物と戦っていることに気づいた。
水路の広い空間では、数人の囚人が連携しながら、二足歩行のトカゲのような魔物と戦っている。
リザードマンだ。
粗末な武器を手にしているにもかかわらず、彼らの動きには無駄がなかった。
「右から来るぞ!」
「分かってる!」
水色のボブヘアを揺らした、少年のような格好の囚人が、リザードマンの攻撃を盾で受け止める。
「僕が押さえる。ヤン、今だ!」
「うんっ! お姉ちゃんの邪魔をする悪いトカゲさんは、みーんな、あたしがやっつけてあげる!」
ピンク色のツインテールを揺らした少女が、目を輝かせながら側面に回り込む。
その一撃が、リザードマンの脇腹に深々と突き刺さった。
「ギャアアッ!」
リザードマンが悲鳴を上げ、膝をつく。
最後に2人の背後からひとりの女性が歩み出た。
銀色の長い髪。青い瞳。囚人服を着ていても隠しきれない、気品ある立ち居振る舞い。
彼女は無駄のない動きで剣を振るい、リザードマンの首元に一撃を加えた。
魔物は、どさりと倒れた。
他の囚人たちは、その戦いを眺めていた。
「あいつら、強えな、おい。」
スキンヘッドの大男が呟くと、
「お前知らないのかよ。ここらじゃ有名な囚人パーティだぞ。青髪がクー・デレで、ピンク髪がヤン・デレで、それから...」
小柄でひょろっとした別の囚人が、指をさして説明をしていた。
「これで終わりね。二人とも、怪我はない?」
「うん。問題ないよ、ミオナ」
「えへへ、あたしも大丈夫! ミオナ様が心配してくれるなんて、あたし、幸せすぎて死んじゃいそう!」
「ヤン。冗談でも、そういうことは言わないで」
「はぁい!」
その光景を見たクズオは目を見開いた。
「……は?」
何度も瞬きをするが、見間違いではない。
ミオナ・メスガキ。
かつて、メスガキ家を率いていた女当主。
なぜかは知らないが、今は地下螺旋収容塔に収監されている。
だが、そんなことはクズオにとってはどうでも良かった。
そこにいたのは、かつて自分を見下し、社交の場で恥をかかせた女だった。
「ミ、ミオナ……!」
クズオの顔が、見る見るうちに歪んだ。
そして、次の瞬間。
「おい、ミオナァッ!」
地下水路に響き渡るほどの大声を上げた。
ミオナたちが振り返る。
「あら……クズオ・キモオジ?」
ミオナは、驚いた様子もなく彼を見つめた。
「久しぶりね。まさか、こんなところで会うなんて」
「き、貴様……!よくも、そんな涼しい顔をしていられるな!」
クズオは短剣を握りしめ、ずかずかと歩み寄った。
「全部、貴様のせいだぞ!貴様の家が俺を散々コケにしたから、こんなことになったんだ!そもそも、貴様が商売に失敗したのが悪いんだろうが!」
「……わたくしの事業の失敗と、あなたが収容塔にいることに、どんな関係があるのかしら?」
「う、うるさい!貴様が俺を見下したことを忘れたとは言わせんぞ!」
ミオナは、冷ややかな目でクズオを見た。
「わたくしがあなたを見下した?それは、あなた自身がわたくしに見下されるような振る舞いをしていたからではなくて?」
「なっ……!」
「それに、わたくしは事業の失敗を他人のせいにするつもりはないわ。あなたも、少しは自分の行いを振り返ったらどうかしら」
「き、貴様ァ……!」
クズオの顔が真っ赤になった。
反論したい。
何か言い返して、こいつを黙らせたい。
しかし、ミオナの言葉には、簡単に切り返せない正論が混じっていた。
そのとき、水色の髪の少女が一歩前に出た。
「ねえ。さっきから聞いていれば、君は何を言ってるんだ?」
彼女は冷静な目でクズオを見据えた。
「ミオナは自分の失敗を認めている。それなのに、君は自分の責任を全部ミオナに押しつけているだけじゃないか」
「な、なんだと!?」
「君がどうしてここにいるのか、僕は知らない。だけど、少なくとも今の話を聞く限り、君は自分の立場が悪くなったから、誰かを悪者にしたいだけに見えるよ」
「こ、このガキ……!」
クズオがクー・デレに怒鳴ろうとした瞬間、ピンク色のツインテールの少女が、にこにこと笑いながら口を開いた。
「ねえねえ、おじさん。もしかして、自分が悪いことをしたって認めるのが怖いの?」
「はあ!?」
「だって、そうでしょ? 自分が失敗したら他人のせい。自分が捕まっても他人のせい。自分が困っても他人のせい。……おじさんって、ずーっと誰かのせいにして生きてるんだね!」
ヤン・デレは、無邪気な笑みを浮かべたまま首を傾げた。
「そんな生き方、疲れない?」
「き、貴様ら……!」
クズオは歯を食いしばった。
言い返せない。
目の前の女と少女に、次々と正論を突きつけられている。
しかも、周囲の囚人たちまで、こちらを見ているではないか。
このままでは、また恥をかかされる。
かつての社交界で味わった屈辱が、脳裏によみがえった。
――ふざけるな。
――俺は、選ばれた人間なんだぞ!
クズオは、とっさに声を張り上げた。
「お、お前ら! こいつが誰だか知っているのか!?」
周囲の囚人たちが、何事かと顔を向ける。
「こいつはな、メスガキ家の元当主だった女だ!」
クズオは、ミオナを指さした。
「かつては大勢の人間を見下して、偉そうにふんぞり返っていた女だぞ! 商売で失敗して、債権者に迷惑をかけて、それで今度は自分だけ被害者面しているんだ!」
「……クズオ」
ミオナの声が、わずかに低くなった。
しかし、クズオは止まらなかった。
「こいつのせいで、どれだけの人間が損をしたと思っている!俺だって、こいつには散々恥をかかされたんだ!こんな女を信用するなよ!」
その言葉を聞いた囚人たちの表情が変わった。
さっきまで魔物の死骸を片づけていた男が、手を止める。
武器の手入れをしていた囚人が、隣の男に顔を寄せた。
「……おい。今の話、聞いたか?」
「ああ。メスガキ家って、あの魔力供給事業に手を出していた一族か?」
「そうだよ。俺はあいつらの事業に関連する取引に魔力を突っ込んでな……結局、回収できなかったんだ」
「俺もだ。建設が遅れたとか、いろいろ理由を並べられてな。最後は債権者の責任だとでも言いたげな態度だった」
「俺の商売だって、あいつらの計画が狂ったせいで大損だ。家族まで巻き込んじまった……」
ひそひそと、囚人たちの声が広がっていく。
ひとりがミオナを見た。
別のひとりも、顔をしかめた。
やがて、周囲の視線は、露骨な疑念と嫌悪を帯び始めた。
「……あの女が、メスガキ家の当主だったのか」
「俺たちがここで苦労している間、あいつらは贅沢三昧していたってわけか」
「まあ、こいつも落ちぶれたってことだろうが……」
「でも、だからって、こっちが受けた損まで消えるわけじゃねえ」
囚人たちの声は、決して大きくはなかった。
だが、ミオナの耳には、ひとつひとつがはっきりと届いていた。
彼女は、何も言わなかった。
かつての自分なら、こんな連中の言葉など歯牙にもかけなかっただろう。
事業にはリスクがある。
投資には損失がつきものだ。
契約に従っている以上、責任はそれぞれが負うべきものだ。
そう言って、切り捨てていたかもしれない。
だが、今の自分は違う。
ここでは、家柄も財産も意味をなさない。
自分が築き上げてきた地位は、すでに失われた。
そして、かつて自分が見下していた人々と、同じ囚人服を着ている。
「……ふん! どうだ、思い知ったか!」
クズオは、周囲の反応を見て、ようやく溜飲を下げたように笑った。
「俺に逆らうから、こうなるんだ! 貴様らも覚えておけよ! 俺は、こんなところで終わる人間じゃないんだからな!」
「……君、本当に救いようがないね」
クーが、冷ややかに言った。
その表情からは、先ほどまでの冷静さとは違う、明確な嫌悪がにじんでいた。
「自分の立場を守るために、他人を悪者にする。しかも、周りを煽って、ひとりの人間に敵意を向けさせる。そんなことをして、何が楽しいんだ?」
「う、うるさい!」
「うるさいのは君だよ」
クーは淡々と返した。
「ミオナの事業が失敗したことと、君がここで偉そうにしていいことは、何の関係もない」
「この……!」
クズオが一歩踏み出しかけた、そのときだった。
ヤンが、ミオナの腕にそっと触れた。
「ミオナ様。ここは、もう行きましょう?」
「ヤン?」
「だって、なんだか嫌な雰囲気になってきたもの。あの人、みんなを煽ってるし……このままいたら、面倒なことになるかもしれないよ?」
ヤンは笑顔を崩さなかった。
だが、そのピンク色の瞳には、周囲の囚人たちを警戒する鋭い光が宿っていた。
クーも頷く。
「僕も同意見だ。今は場所を変えたほうがいい。余計な争いに巻き込まれる必要はないからね」
ミオナは、周囲を見回した。
何人かの囚人が、まだこちらを睨んでいる。
中には、何か言いたげに拳を握りしめている者もいた。
彼女は小さく息を吐いた。
「……そうね。分かったわ」
そして、クズオに向き直った。
「クズオ。あなたがわたくしを恨んでいることは、よく分かったわ。けれど、ここで何を言い募ったところで、あなたの境遇が変わるわけではないでしょう」
「な、なんだと……!」
「わたくしも、あなたも、今は囚人よ。せめて、自分の置かれた状況くらいは理解したらどうかしら」
ミオナはそれだけ言うと、クーとヤンを伴い、その場を離れた。
「ミオナ、こっちだよ」
「うんっ! あたし、ミオナ様の荷物も持つね!」
「大丈夫よ、ヤン。自分で持てるわ」
「でも、あたしが持ちたいの!」
「……好きにしなさい」
そんなやり取りを交わしながら、三人は地下水路の奥へと歩いていく。
その背中を、クズオは勝ち誇った顔で見送った。
「ふん!ざまあみろ!俺に逆らうから、こうなるんだよ!」
しかし、三人の姿が見えなくなると、周囲の囚人たちもまた、それぞれの作業に戻り始めた。
誰も、クズオを称賛しなかった。
誰も、彼を仲間として迎え入れようとはしなかった。
彼に向けられていたのは、せいぜい「騒がしい新人だ」という、冷めた視線だけだった。
「……なんだよ」
クズオは不満そうに鼻を鳴らした。
「どいつもこいつも、見る目がないな!」
そう吐き捨て、短剣を握り直す。
足元の水路では、新たなスライムが、ぷるぷると体を震わせていた。
「くそっ! なんで俺が、こんな仕事を……!」
クズオの怒鳴り声が、再び地下水路に響き渡った。




