第11章 海へ
インフラゼロの山小屋に泊まった一同。
一流の職人さん達のお陰で快適に過ごした。
洗顔をしているとセラフィナが話しかけてきた。
「ハルト!インフラ無しでもこんなに快適なんて結の郷のメンバーは、本当にスゴイわね」
ハルトは、ちょっと戸惑って
「う、うん。それなりに生活スキルが必要なんだけどね。俺まだお湯しか沸かせないし」
「あら、だったらパンとスープでよくない?外でバーベキューしてもイイし」
真田が近寄ってきて
「バーベキューか!あったらイイだろうな。作るか!!」
「え?イイの?ありがとう真田さん!!」
「おう! 耐火レンガと窯の構造なら陶芸家の宮地さんがプロだし、土台は佐藤親子に手伝ってもらえばすぐだ。俺はBBQの鉄板や網、ピザ窯の鉄の扉とピッツァを差し込むスコップを作ってやるよ!」
後藤も楽しそうに笑いながら加わった。
「いいねぇ。屋根やテーブルは源さんたち宮大工チームに作ってもらえば、立派な屋外キッチンになるぞ。獲れたての野菜やハーブピザを焼いたら最高だな!」
「チーズはあるしね」
何故か?イヒヒという笑い声を出す後藤の声に源が来る。
「なんだ?悪だくみか?」
事情を話すと
「ピザかぁ、百合子が好きなんだよな!!よし次は、バーベキューとピザ窯用の東屋でも建てるか!!」
セラフィナは、やれやれという顔をして
「こうやって結の里が出来たのね!でもこういうの嫌いじゃないわ!!」
ハルトは、ニッコリしながら
「じゃ、源さんと真田さんにチームリーダーを任せるから、よろしくね。俺とセラフィナさんは港に行くから」
「おう!!」
百合子がからむ事で、源は上機嫌で引き受けてくれた。
朝食をとってから、山守の杉本以外の人は、皆それぞれ仕事の為に一旦全員で郷に戻る事にした。
♢
ハルト、クリス、後藤、セラフィナは港へと向かう。そこには漆黒のツヤを放つ美しい船と瀬戸親子が来ていた。
ツカツカとハルトは歩いて瀬戸に握手する。
「初めまして、トア・コーポレーション・ジャパン社長の天照陽人です」
「は、初めまして瀬戸賢三です」
「長男の武史です」
「次男の康二です」
「息子さん達もいて心強いです!!こちらは、相棒の後藤、クリスは知ってますね。それとトア・コーポレーション・カナダ代表のセラフィナさんです」
セラフィナは漆黒の船体を見上げて目を丸くした。
「ハルト、いつのまにこんな素晴らしい漁船を作ったの!? 海の要塞船と同じ船体?」
ハルトは誇らしげに船体を撫でた。
「これね、小出さんがアメリカでマイケルさんのチームに伝授した『鉄への漆焼き付け技術』と同じ方法で作られているんだよ。鉄を絶妙な温度で炙って漆をジュッと焼き付けてあるから、塩水にもサビない。100年持つ最強の船体なんだ」
賢三が日焼けした顔をほころばせ、しみじみと頷いた。
「ハルト社長、本当に大した船ですよ。小出さんの焼き付け漆のおかげで船体は頑丈そのものだし、ソーラー発電と静音モーター……さらには風を利用する大型の帆まで付いている。これなら静かにポイントへ寄れて、魚を散らさずに済む。まさに俺たち漁師にとっても理想の船です」
「喜んでもらえて良かったよ。さあ、さっそく試運転を兼ねて沖へ出ましょう!」
ハルトたちの掛け声で、一同は船に乗り込んだ。
長男の武史が操舵席に座り、滑らかな手つきで舵を握る。ソーラーバッテリーの静かなモーター音が微かに響き、漆黒の船体は、きらめく瀬戸内海へと滑るように躍り出た。
「すごい加速! なのに全然揺れないし、モーター音がすごく静かだわ!」
甲板で海風を受けるセラフィナが、目を輝かせて歓声を上げる。
「フフ、セラフィナさん、本番はこれからですよ。康二、例の魚探(魚群探知機)の反応はどうだ?」
次男の康二が、木と竹のケースで防水加工された特製の操作盤を覗き込んだ。
「親父、バッチリだ! 土のセラミックと天然水晶を使った超音波センサーがしっかり反応してる。200メートル先の落ち込みに、かなりの魚影が出てるぞ!」
「よし、網を入れるぞ! クリスさん、後藤さんも手伝ってくれ!」
「お任せください!」
賢三の指示のもと、武史が巧みに船のスピードを調整し、康二と後藤、クリスが息を合わせて仕掛け(網)を海へと投入していく。ハルトとセラフィナも真剣なまなざしで見守った。
「今の時期なら、引き締まったタイかサワラ、あるいはチヌ(クロダイ)が狙い目だな。この船の小回りなら、潮の流れに乗せて完璧に網を張れる……!」
しばらく帆と静音モーターで旋回しながら網を引き、タイミングを見計らって賢三が叫んだ。
「よし! 網を引き揚げるぞ! 巻揚機入れろ!」
ギュイーンという機械音とともに、海水に濡れた網がぐんぐんと引き揚げられてくる。
水面がバシャバシャと激しく泡立ち、銀色に輝く大きな魚影が何十匹も跳ね踊った。
「うわあぁぁ! すごい! 大漁だ!!」
ハルトが思わず声を上げると、甲板へ引き揚げられた網から、丸々と太った立派なマダイやスズキがドサドサと溢れ出した。
「見てハルト! このタイ、ピチピチ跳ねてるわ! こんなに活きのいい魚、見たことない!」
セラフィナも大興奮で、跳ねるタイを指差す。
「ハハハ! こいつは大漁だ! 船が静かだから魚に警戒されなかったんだな。ハルト社長、この船は本物ですよ! 最高の相棒になります!」
賢三は日焼けした手で、ハルトの手を固く握りしめた。
「やりましたね、瀬戸さん! これなら結の郷に、いつでも新鮮で最高の海の幸を届けることができますね」
「海の幸なら任せて下さい!」
賢三が嬉しそうに笑うと、小出の職人技が息づく漆黒の船は、白い波しぶきをあげて誇らしげに港へと引き返していった。
セラフィナが真剣な顔をしてハルトの腕に手をやる。
「ハルト、小出さん貸してくれないかしら?我がカナダも海の幸が豊富よ。漁船の設計図は、ハルトのお陰で共有されているから作れるけれど、漆の焼きつけは誰も出来ない」
「分かった。小出さんに話してみよう必要な材料とかあるだろうしね」
セラフィナが満面の笑みで
「ありがとうハルト!!」
「他の国で必要なようなら小出さんに世界旅行してもらうか!!」
ハルトがそう言うと
ハクション!!小出がくしゃみをした。
(何か嫌な予感がするな)
実際、小出はカナダ以外にも世界のトア•コーポレーションに招かれ技を伝授するのだがそれは、また別の話。
(第11章 完)




