魔力量Dの水魔道士は、人体の60%を支配する
注意
直接的な暴力はありませんが、生理的苦痛に関する表現があります。
アレイスタの能力に関する重大なネタバレがあります。
本編の1年後という設定です
アレイスタ=クロウ。
それが私の名前。
将来、水の大魔道士になる女の名前よ。覚えておいて。
この世界は本来、もっと美しいはず。いえ、美しくなければならない。
私はいつか、この歪な世界が対称であることを証明してみせる!
それはさておき……現実は非情。
「あ、暑い……」
砂漠の熱と太陽、そして乾燥が私の肌を変質させていく。
不快だ。万死に値する。
そして、目の前には、絵に描いたような世紀末の悪役が少年を人質に取っている。
「た、たすけてくださーい、また、つかまっちゃいましたぁ」
恐らく、あの成金貴族の差し金だ。
勇者記念パーティーでの「軽い冗談」をまだ根に持っているらしい。
「くそが……」
この様子だと、メルク——あの外見だけ可憐な、動作原理不明のポンコツの方にも刺客が向かっているはずだ。
心配だな。
敵が。
ひどい目にあっていなければいいが。
「おいおい、余裕だな……アスレイタ……アレイ……アレイスアさんよ!」
名前ぐらい覚えておけよ。タコ。
「アレイスタよ」
「……まんまと、こんな場所におびき出されるなんてよ」
火魔法使いの男が、指先に矮小な火球を灯す。
「ルブラン様から聞いてるぜ。お前、『D』なんだってな?」
「……っ! い、いやらしい!」
「ちがうわ! 魔力量の話だ! 誰がお前のその……薄っぺらな身体の話をした!」
失礼な。私の身体は黄金比に基づいた計算通りの構成だ。
「お前の魔法はせいぜい5回しか撃てないって聞いてるぜ」
ルブランの野郎、私の個人情報をべらべらと。
「この砂漠で水魔法? 出したそばから蒸発させてやるよ!」
私は溜息をついた。
「……情報の精度が低いわね……4回よ」
「なんだと?」
「5回じゃなくて、私が撃てる魔法は高々4回よ!」
火球が私の顔スレスレを通って、後方に飛んでいった。
大きな砂煙が上がる。
ふーん、性格は直情的、魔法の威力と魔力量はありそう。
「あなたに悪いことと、良いことを教えてあげる」
ここで人差し指を立てて決めポーズ。
「宣言するわ、4回目にあなたは、地面とキスしている!」
「ファイヤー、うォォォォォォォル」
咆哮と共に巨大な火柱が迫る。
予想通り、鶏冠にきたな。
敵の言う通り、私の魔力量はD……11ぐらい。
ふふ、素数
だからといって戦えないわけじゃない。
私は、敵の炎を見ない、敵の水を《《観る》》。
急性閉塞隅角
炎の向こう、男の眼球の水を歪める。
目の中で圧力が一瞬だけ跳ね上がる。
水が、視神経を圧迫する。
「ぎ、あああああッ!? 目が、俺の目がぁ!」
疝痛
「じゃあ、良いことね」
私はVサインを作る。
「私の魔法は、水をほんの少しだけ動かすことよ、どう?勝てそうでしょう」
私は、次に狙う場所をイメージする。
人体の水分はだいたい60%。
水の無い砂漠の中のサンドバックね。
腎臓の石にそっと攻撃。
さしこみ、またの名を、疝痛。
男は腹を押さえ思わず少年を手放した。
「ゆ、ゆるさねぇ、ファイアーボール!」
凝集された執念の炎が指先にともる。
その指は私……ではなく、少年を向いている。
計算を間違えた。
それは想定にない。
心臓が破裂しそう。
良性発作性頭位めまい
私は、チッと舌打ちして、慌てて狙いをつける。
落ち着きなさい、アレイスタ。
そこは幾度も狙った場所、間違いない場所。私のとっておき。
空間に波が伝わり、壁に当たる。
耳の奥に棲む三半規管を揺らす。
男は声にならない悲鳴を上げて、顔から地面に突っ込んだ。
指先の炎が花火の様に打ち上がった。
嗚呼、
「……美しくない戦い方だわ」
少年を立ち上がらせ、服についた砂を払い落とす。
はるか上空で、光が反射した。
刹那、轟音が砂漠に鳴り響く。
「派手にやっているみたいね」
私の横で、少年が震えていた。
おわり




