研究日誌02:「反雷」に関する考察
「誰なんですか! あなたたち」
「私は、アレイスタ。アレイスタ=クロウ。水属性。そっちのポンコツは、メルク」
「エルメーテ=メルクリウス。メルクと呼んで欲しい。土属性。」
美少女と美女とに両手を掴まれ、引き回されている。
「離して……」
「逃亡の恐れ」「逃げるでしょ」
左が弓使い。右が魔法使い。
仲が良い。
殺し合っていたとは思えない。
「ゲオルグ=オーム。雷です」
属性紹介はここの習慣。
朝のことを思うと声も小さくなる。
けれど、二人が僕を、ひねったり、つねったり、つついたり。
僕の耳は熱くなる。
「あの……どうして、あんなことに?」
足が止まる。
「それは――」「そもそも――」
睨み合い。
空気が震える。
”黒”がまた広がって来る気がした。
「い、いえ……聞かなくても」
「いいえ、聞きなさい」
アレイスタが僕の手を離す。
前に立ち、大袈裟に、手を広げる。
「魔法の火、風、水、土。これらは手で触ることができる。つまり“物質”
でも、光、闇は違う。触れないし、形もない。だから、これは”性質”」
それは魔法の常識。
アレイスタは鋭い目で僕に問う
「じゃあ、雷は?」
「えーと、性質」
「いいわね。
世界はね、対になっているの。
男と女。火と水。土と風。光と闇
一つ一つが、きれいに釣り合っている」
言われてみると、確かにそうだ。
「でも、雷だけが違う。
対になる魔法がない」
アレイスタは確信に満ちた声で主張する。
「欠けている。歪んでいる。
だけど、世界はもっと美しいはず。
だから、”雷”には“反対の性質を持った雷”が有るはずなのよ!」
「訂正を要求」
今度はメルクが僕の手を離す。
前に立ち、大袈裟に、手を広げる。
「雷魔法は触るとビリっとするから“物質”。
光も手で遮ることができるから”物質”
闇は、判らない。触ったことがない、でも」
メルクは確信に満ちた声で主張する。
「もし世界が対称というのなら、光も闇も雷も”物質“でないとおかしい」
「光が物なんて、傲慢だわ!」
「反雷が在ると決めつけるのも、傲慢!」
「決めつけていないわ。ただ、”無いとおかしい”と言ってるだけ」
「同じこと。雷が“性質”だというのも、決めつけ」
二人がまた睨み合う。
二人の言葉が正面衝突している。
正面衝突?
これは本当に正面衝突なのか?
――整理すれば
「あの、ちょっと、書いてもいいですか」
地面に落ちていた枝を拾い、砂の上に線を引く。
「物質と、性質は長いので、物と……あ、すみません」
顔が熱くなる。
「“性”は……その……“質”にしましょう」
「おこちゃま」
「なに照れてんのよー。早く書きなさいよー」
慌てて書き直す。
「つまり、お二人の立場は、こうですよね」
【アレイスタ】
物:火↔水、風↔土
↕
質:光↔闇、雷↔反雷
【メルク】
物:火、水、土、風、光、闇?、雷、反雷?
↕
質:なし
「記号を見てください。
アレイスタさんは横の対”↔”を問題にしている。
メルクさんは”物”か”質”か、縦の対”↕”を問題にしている。
だから、戦っている軸が違うんです」
「なるほどね。ところで反雷って?」
「”反対の性質を持った雷”が長いので、縮めましたけど、だめですか?」
「いや、いい、すごくいい。センス有るわよ、あなた」
アレイスタが頭をワシャワシャする。
「……いい」
メルクが、笑っている。
アレイスタも、腕を組んだまま頷いている。
「これ、活かしなさいよ」
胸の奥が、少しだけ温かくなった。
朝、才能がないと言われたばかりなのに。
今は、違う言葉を向けられている。
この人たちともっと話したい。
本当にそう思えた。
それにしても、反雷ってなんだろう。
地面から空に昇る雷?
それとも黒い雷?
僕らがその真実を知るのは、ずっと後のことになる。
「何してんの、置いていくわよ!」
アレイスタが手招きする。
「あの、僕はこれからどうなるんです?」
美少女と美女に両手をがっちり掴まれた。
「実験体」「実験体よ」
「離して……」
「逃さないわよ」
アレイスタとメルクが笑った。




