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研究日誌14:アレイスタインスティテュート

「オーム、今からあなたに私の魔法をぶちこむ」


 アレイスタが振り向いて僕に言う。


「覚悟しなさい」


 背後でミノタウロスが膝から崩れ落ちた。


 なんでこんなことに。


 アレイスタの瞳が青色に輝いている。

 その圧倒的な威圧感に気圧されながら、僕は数日前の彼女とのやり取りを思い出していた。



 *****



「うん、おいしい」


 青い草のような爽やかな香りにアレイスタの顔がぱっと明るくなった。

 子供のようにサブレに手を伸ばす。


「これメルクさんから貰った緑茶です」


 三日前、僕は大量のお菓子を買ってアレイスタの家を訪ねた。

 アレイスタはずっと部屋に籠もって研究を続けている。

 ただ、あの日泣いていた彼女とは違って、ギラギラとした目の輝きが戻っていた。


「ふーん、そう、まあまあね」


 コップの中の翠が揺れた。


「写真の研究は進みました?」


「そうねえ、魔法陣に共通する構造があることは分かったわ」


 アレイスタは目だけ僕に向けて、コップを弄んでいる。


「データ不足で正直、手詰まりね。で、」


 アレイスタが身を乗り出してきた。


「反雷についてだけど」


 僕はメルクに説明したこと

 ――魔法が回転して水になったことを説明した。


「回転? それはどっち向き?」


「右です。右回転」


「私たちが会った時も?」


「そうです、右回転でした」


「面白いわね……」


 アレイスタはサブレをもぐもぐしながら考えこんでいる。


「メルクさんも同じ事を言ってました。分からないけど、面白いって」


「メルクらしいわね」


 そう言うとアレイスタは机の上のコインを二枚手に取った。


「これは、同じコインよね」


「ええ、1マルカスコインですね」


「これは区別できない、でも」


 コインを指で弾く。

 駒のように回転する。

 一枚は右に回転。

 もう一枚は左に回転。


「この二枚は区別できる。回転が同じコインを二つに分ける。それは面白い」


「メルクさんも、似たようなことを」


「聞かせて」


「右回りがあるなら、左回りもある。でも、左回りは見つかってない。何かに似てないかって」


「それが反雷? 左回りの雷が反雷?」


 コインがシャラシャラと音をたててふらつき始めた。


「お二人は似てますね」


「メルクと私が?」


「ええ、お二人とも魔法が水に変わったことよりも、回転の方に興味があって」


 パタ。パタ。

 二枚のコインがほとんど同時に倒れた。


「オーム」


「な、何でしょう」


「私はメルクのこと、嫌いじゃないのよ」


「え、いつも喧嘩してるから仲が悪いのかと」


「仲は悪いわよ。メルクは魔工学的現実主義者(リアリスト)私は魔法理論家(ロマンチスト)だから対立はする。対立はするけど、尊敬もしているわ」


「へー」


「意外そうね。たぶんあのポンコツも、同じじゃない?」


「化物って言ってました」


 アレイスタの顔が一瞬ぐしゃっとなって、それから、大きな声で笑った。


 そして、コインをもう一度拾い上げた。


「そうね、私たちは似ている。でも明確に違っている。このコインの裏と表みたいにね」


 親指で弾いて左手の上で受け止めた


「裏」


 右手をゆっくり開く。


「残念、表ね。さっきの話だけど、私は左回りの雷が反雷だとは思えないわ」


「どうしてです?」


「反雷が見ない原因が”左回り”だとするわね」


「ええ」


「火に対応するのは?」


「水です」


 僕はコップの中の翠を飲み干した。

 苦い。でも後から甘みを感じた。

 メルクはいつも変わったお茶をくれる。


「ああそうか、水が”左回りの火”じゃあ、お茶も飲めない」


「美しくない。これは私の直感だけど、土も風も反雷も”右回り”だと思うわ」


「……アレイスタさんは言い切るんですね。メルクさんは有るのか無いのか曖昧なのに」


「そうね、私はロマンチストだから。まず美しいルールを考える。正しいと仮定する。

 オームだって、間違ってるかもって思いながら全力は出せないでしょ」


「そ、そうですね」


「メルクは逆。結果からルールを作る。だから断定しない」


「まったく違うんですね」


「だから、オーム。私たちににはあなたが必要なんだと思う」


 アレイスタにまっすぐ見つめられ、僕の精神は彼女の黒い瞳に吸い込まれた。


「私とメルクは表と裏」


 アレイスタの顔が近付いてくる。


「コインの回転方向は、私たちには分からない」


 瞳孔に僕の顔が映っている。


「だから、方向を示してくれる目が必要」


 胸を指で軽く突かれた。

 ああ、そういうこと…


「何?不満そうね」


「いえ、そんなことないです」


 僕は頭の中の映像を消したくて、慌てて話題を変えた。


「そういえば、その後の、とんでもないことになったんです」


「ふーん、どんな?」


「実は、再現性とかいって……」


 僕はアレイスタにメルクの魔法実験の内容を詳しく話した。

 変魔圧器トランスとかいう、魔力を下げる装置の話になると、アレイスタの姿勢がみるみる前のめりになっていった。


「――というわけで、僕は命からがら爆発から逃げ出して……どうしたんですか」


「魔力が魔流と魔圧の積」


 と言ったまま、暫く固まってしまった。


「あの、アレイスタさん?」



「クソ。クソクソクソ!」


 突然で止められない。

 アレイスタが頭をテーブルにガンガン打ち付ける。


「やめてください、アレイスタさん」


 アレイスタが立ち上がり、僕の肩を強く掴む。

 顔が近い。


「反雷の魔法陣じゃ無かった。あれは変容の魔法陣」


 今度はブーツで床をガツガツ蹴りつけ始める。


「理論で辿り着くはずだったのに、あいつの実験が先行するなんて……!」


 やっぱりこの二人は仲が悪いんじゃ無いだろうか。


「尊敬はどこに」


「尊敬してたって、悔しいのは、悔しいのよ!」


 台所から出て行こうとするアレイスタを慌てて呼び止める。


「あ、アレイスタさん、どこいくんです!」


「ギルド! 悔しいから何かぶっ飛ばしたい気分」


「それなら、これ」


 僕はポケットの中のしわくちゃな依頼票をアレイスタに差し出した。


「助けてください」


「テロメア遺跡……あそこか。ミノタウロス、S級」


 クエストの依頼票に目を通しながら、アレイスタが僕に尋ねる。


「こいつの属性は?」


「闇属性らしいです」


「闇か。いいわよ」


「メルクさんには、王都に行くからって、断られました。もう、アレイスタさんに頼るしか」

「だから、受けるわよ」


「え、本当ですか!」


「ただし」


 アレイスタがソードベルトを腰に巻きつける。

 僕を見つめ、真剣な口調で言う。


「あんたも、戦うのよ」


 アレイスタの瞳が青色に輝いた。


「メルクだけずるいわ。私も再現実験よ」


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