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研究日誌07:おかえりなさい

 風が強くて辟易するけれど、この砂漠は歩きやすい。

 ()漠といっても、足元は細かな礫で、ところどころに大きな岩が転がっている。

 空の青と、岩のオレンジのコントラストが目に痛い。


「……ここ、前の砂漠とは違いますね」


「うん。ここは、あっちより内陸だからね」


 平然としている。

 でも、彼女の視線はせわしなく動く。


 風の向き、砂の流れ、匂い。


 そのすべてを、無意識のうちに読み取っている。


 話題は自然とアレイスタのことになる。


 あの一件以来、彼女は部屋に引きこもったまま。

 扉を叩いても返事はない。

 食事だけが静かに消える。


「メルクさんはどう思います」


「いつものこと」


 仲がいいのか悪いのか。

 未だに分からない。


 メルクが異常者、

 失礼

 異常に強いことは確か。


 アレイスタもそれに匹敵するだけの力が、あるのだろうか?


 分からないことばかりで、僕の日記も分厚くなる。


 メルクが指を差す。

 目的地が見えてきた。

 乾ききった赤茶けた砂漠の中央に、不自然なほど濃い緑が浮かんでいる。


 ――異変は、突然だった。


 視界の端で何かが跳ねた。


「……え?」


 反射的に足を引く。


 透き通った小さな塊。

 スライム。


 あの巨大なスライムの光景が一瞬フラッシュバックして、心拍数を跳ね上げる。


 いち、に、さん……

 ゆっくりと息を吐き、呼吸を落ち着かせる。


 スライムが、


 一体、二体……、十、廿にじゅう


 次々と現れてこっちに向かってくる。

 僕は思わず身を硬くする。

 

 スライムは僕達を素通りしていった。


「大量」


 メルクの声が低くなる。

 オアシスからスライムが離れていく。

 湖が生きているみたいで、ゾワゾワする。


 突如として【矢】が5本、矢筒から飛び出した。

 メルクの周りに整列する。


 メルクは、驚いているのだろうか?

 表情からは分からない。


 水辺の向こう。

 そこに、特異点。


 あまりに黒くて、脳が”無い”と判断するくらい黒い。


 それは巨大な黒龍。

 身を低くして鎮座していた。


 翼をたたみ、首を折り、眠っている。


 口元に光る、銀色で棒状の物体。

 特異点の中の特異点。


 僕の足は竦んで動かない。

 アレイスタに教えて貰った呼吸法で、必死に冷静さを保つ。


 でも、メルクが構わず前に出る。


「危ない」


 とは言えなかった。


 黒龍がメルクに気づいたのかゆっくりと頭を動かした。

 黄金色の瞳が、まっすぐ彼女を捉えた。


 

 アレイスタに貰ったナイフを構える。

 メルクの前に立ち塞がる。

――想像をした。


 体が動かない。

 動いたところで瞬殺だろう。


 黒龍は頭を一旦持ち上げ、メルクに向かって振り下ろした。

――衝撃に備え、僕は歯を噛みしめる。


 けれども、響いたのは破壊音ではなかった。

 咥えていた銀色の棒――矢を、地面に落とした。


 乾いた音が砂漠に響いた。


 メルクが矢を拾う。

 黒龍に近づく。

 躊躇なく。


 もう僕は圧倒的に傍観者。


 彼女は、黒龍の鼻先に手を伸ばし

――優しく、撫でた。

 

 黒龍は一度だけ、低く咆哮。


 それは挨拶のように聞こえた。


 翼が大きく広がる。

 砂が巻き上がる。

 

 空に、


 舞い上がる。


 強風が頬を打ち、視界が白く染まる。

 僕は吹き飛ばされないように必死に地面にしがみつく。


 静寂が戻る。


 メルクは、矢を抱きしめてぽつりと言った。


「お帰り【クサヴァー】」


追記

黒龍:シンギュラリティブラックドラゴン

鱗の超微細構造により脅威の光吸収率99.6%を誇る。

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