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【没作品】ヤクザの組ごと異世界転移

 端的に伝えると、俺はイラついていた。


 だってそうだろ? やっと口説き落とした女の子との初デートを邪魔されたのだ。怒って当然である。


 人気のラム焼肉の店を予約したのは三週間前だ。まだその時には女の子から返事はもらっていなかったが、「予約取れたから一緒に行かない?」作戦を実行し、上手くいったのだ。


 ついさっきまでその店で柔らかいラム肉を食っていた。美味かった。楽しかった。可愛かった。


 二軒目に行く話も出ていた。


 もうこの時点でセックスは始まっていたと言っても過言ではない。だって二人で焼肉だよ? しかもラム! 凄くエロいじゃん。普通の焼肉が少年雑誌のグラビアなら、ラム焼肉は海外にサーバーがある無修正エロサイト。


 もうね、見えちゃってたわけよ! 完全に丸見えでした!! なのに──


 俺は今、県内で一番大きな病院の夜間通用口を通り抜けようとしていた。


「新政龍司に面会!」


 そう言葉を叩きつけ、警備員室の前を通り過ぎる。警備員のおっさんが何か言っていたが関係ない。俺は怒っているのだ! リュックに入れた買ったばかりのコンドームに謝って欲しい。いや、謝れ! 今すぐ謝れ!!


 誰が謝るのか……!? それは決まっている。こんな大事な日に襲撃され、危篤状態になったオヤジだ!!


「集中治療室どこですか!?」


 俺の大声にびくりと振り返る男の看護師。


「な、7階ですが……」


「ありがとうございます!」


 エレベーターなんて待ってられない。とにかく文句を言わないと気が済まない。


 階段を三段飛ばしで駆け上がり、ようやく「7」の数字が目に入る。


 ギイと扉を開けてリノリウムの床に飛び出すと、風体の悪い集団がぼんやりと佇んでいた。


「役立たずの根性なしの雑魚共が! 邪魔だ!!」


 組員である。俺のオヤジが組長をやっている盟同會の構成員だ。オヤジも含め、全員が全員、社会のクズだ。


 ウンコ垂れだ。ICUの前で糞を漏らし惚けた顔をするどうしようもない奴らだ。


「……坊ちゃん。お久しぶりです」


 事務局長の緒方が覇気のない声をだす。相変わらずデブだ。スキンヘッド肥満中年だ。メタボの権化だ。


「恭司か。遅かったな」


 若頭の鮫島が不機嫌そうに俺の名前を呼んだ。前と変わらず、ポマードでオールバックに撫で付けた髪が臭い。


「オヤジは何処だ!?」


「あの集中治療室です」


 緒方がガラス張りの部屋を指差す。あそこか。


「一発ぶん殴る!」


「坊ちゃん! やめて下さい!」


「やめるわけねえだろ! これで三回目だぞ! 襲われてICUに入るの! 俺が中学の時に一回、高校でも一回、そして今、大学で青春を謳歌しているタイミングで!! どんだけ空気読めないオヤジだ! 鉄拳で分からせてやる!!」


「お前ら、坊ちゃんを止めろ!」


 掴みかかってくる若衆共の手を掻い潜り、勢いよく床を蹴って駆け出す。思い切り扉を開くと、全身に管を差した情けないオヤジの姿。


「天誅!!」


 右腕を引き、振り下ろそうとする俺を誰かが羽交い締めにする。汚ねえ手で人の身体に触りやがって、本当に許せねぇ。


「邪魔すんじゃねぇ!」


 ICUに組員達が押し寄せ、俺を取り囲む。


「坊ちゃん! 落ち着いてください! 親分は本当に命が危ないんです!!」


「知るか! 俺のセックスを返せ!!」


 その時、辺りが急に暗くなった。停電だろうか? 病院なら非常電源がある筈だが……。


 落ち着きのない若衆達が騒ぎ出す。ヤクザ者の癖に照明ぐらいでガタガタ抜かしやがって、しょうもない奴らだ。死に値する。


「な、なんだ……!!」


 鮫島が驚きの声と共に天井を見上げた。紫色の円柱状の光がオヤジに向かって降りてきているのだ。


 それはオヤジの身体に触れると、一気に広がりICU全体を包み込む。


 身体が浮き上がるような感覚。


 若衆達は悲鳴を上げて逃げ出そうとするが、もう足は床から離れて自由が効かない。


「おぉぉぉぉおお!!」


 全身に力を込めて足掻くが、身体は中空に浮かんだままだ。一体、なんだっていうんだ!?



 ──ヒュン。と玉が縮み上がるような感覚のあと、俺は意識を失った。



#



 背中が硬く冷たい。氷の上に寝ているようだ。


 ブルリと身を震わして目を覚ますと、灰色の天井が見える。とりあえず生きているらしい。


「お前ら、何処の組のモンだ!?」


 怒鳴り声のした方を見ると、若頭の鮫島だ。ローブを着た白人男性に掴みかかっている。


「お、落ち着いて下さい!!」


「なんだこのアマ! カシラに命令してんじゃねぇ!」


 若頭補佐の神取が、綺麗な格好をした白人の女──二十歳ぐらいだろうか──に向かって凄む。一体、どんな状況なんだ?


「ひっ! ご、ごめんなさい!!」


 女がビクリと怯えると、周囲から剣呑な雰囲気が漂った。


「鮫島。手を離せ。そして周りをよく見ろ。どう考えても、こいつらヤクザじゃないだろ」


 起き上がり、男を掴んだままの鮫島を諌める。ギョロ目をぐるりと動かし、ようやく周囲の状況を把握したようだ。


 俺達は石造りの大広間の中心にいて、周囲を鎧を姿の男達に囲まれている。腰には帯剣していて今にも抜きそうな気配すらある。


「ふぅ……。やっと話を聞いてもらえそうですね」


 女は俺を交渉相手と認めたようで、蒼い瞳をこちらに向けた。


「……ここは、どこだ? お前達は何者だ……!?」


 女は軽く息を吸った。


「ここは、ガドル王国。私は第一王女のエミーリアです」


「聞いたことのない国だな」


「ここはあなた達の暮らしていたところとは異なる世界です」


「異世界?」


 俺の言葉に若衆達が騒めく。何人かが「異世界転移きたー!!」とはしゃぎ始めた。


「ええ、そうです。私が魔法によって召喚しました。異世界の勇者を。まさか、こんなにも多くの人が巻き込まれるとは予想外だったですけど……」


 勇者を召喚……!? こいつら、ヤクザだぞ……!?


「本当に勇者を召喚したのか? 残念だが、ここにいるのは俺以外、社会のクズだぞ?」


 今度は俺達を囲む鎧姿の男達が騒つく。


「……そんな筈ないです! 私が王家の威信を掛けて行った召喚の儀! この世界を救ってくれる清い心を持った勇者が絶対にいる筈でしゅ!」


 噛んだ……。どうやら、めちゃくちゃ焦っているようだ。こいつ、やっちまったな。残念だが、俺を含めて清い心を持ったやつなんていやしないぞ。


「勇者かどうかをどうやって判断するんだ?」


「鑑定の魔道具で【称号】を見れば一発です! デュダ、出してください!!」


 はい! と返事をして、鮫島に胸ぐらを掴まれていた男が懐から水晶のようなものを取り出す。


「それが魔道具?」


「そうです! この水晶を通して貴方達のステータスを覗くことが出来ます!」


 鮫島と緒方を見る。流石に二人とも馬鹿じゃない。警戒している。


「おい、神取。お前から見てもらえ」

 

「お、俺ですか……。分かりました」


 金髪の神取が一歩前に出た。デュダと呼ばれた男が水晶を掲げる。そして──


「申し上げます。この方の称号は【ならず者】です」


 ──静寂。


 それはそうだろう。神取はバリバリの武闘派で何人殺してるか分からないようなクズだ。【ならず者】で間違いない。


「た、たまたまこの方が【ならず者】だっただけですよ! 次の方、鑑定させて下さい」


 神取に指名された若衆が前に出た。また水晶が掲げられる。そして──


「申し上げます。この方の称号は【ならず者】です」


 ──ざわめき。鎧を着た男達がエミーリアの方を見ながらコソコソと何か話している。きっと、「エミーリア様、やらかしちゃったな〜」みたいな内容だろう。


「そんな筈はありません! デュダ、次の人を鑑定して!」


 デュダは若衆を次々と鑑定していくが、悉く結果は【ならず者】だ。


「こ、こんなことが……」


 項垂れるエミーリア。いい表情だ。虐めたくなる。


「姫様、まだ残っております!」


「そうね! 長身のあなた、鑑定させてもらいます!」


 デュダがオールバックでギョロ目の鮫島に強気にでた。


「ふん。好きにしろ」


 あっ、こいつ。自分が【勇者】と鑑定されると思っているな……。なんとなく頬が弛んでいるから分かる。これは期待している時の顔だ。


「では……!」


 デュダが水晶を掲げる。鮫島は更に瞳を見開く。興奮しているようだ。


「申し上げます! この方の称号は【大罪人】です!!」


 大罪人……!? こいつどれだけの悪事を働いて──


「坊ちゃん! 親分が息してません!!」


 あっ……!! 完全に忘れてた!! オヤジの存在を。


「おい! エミーリア! 魔法で何とかならないのか……!? ウチのオヤジが死にそうなんだ! もしかしたら勇者かもしれんぞ!!」


「えっ、あっ、この人がですか……!? とりあえず【リバイブ!!】」


 エミーリアの身体が青白く光り、それが床に寝たままのオヤジを包む。そしてスッと消えた。


「助かったのか……!?」


 緒方が心配そうにオヤジの横にどかっと座り、真剣な眼差しを向ける。


 ──ピクリ。


 ずっと瞑っていた瞼が動く。


 誰もが息を呑んだ。


「……鑑定を」


 はい。と静かに返事をして、デュダは水晶をオヤジの顔の前に置いた。


「申し上げます! この方の称号は【勇者ゾンビ】です!!」


 死んでるじゃん!!


「おい! ちゃんと生き返えらせろよ!!」


「すみません……。遅かったようです……」


 オヤジは血の気が引き生気がない。そしてエミーリアの顔も真っ青だった。

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