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【没作品】ヤクザ転移2

 勇者は死んでいた。


 この事実は王国にとって相当堪えたらしい。召喚の儀が終わり、とりあえず大広間に場所を移した後も、エミーリア達は一様に暗い顔をしている。


「エセカンカンカンカン──」


「五月蝿い! 黙れオヤジ!!」


【勇者ゾンビ】こと新政龍司、つまりウチのオヤジは完全にアンデッドになっていて、行動は無茶苦茶だ。突然奇声を上げたり転げ回ったりする。


 息子のことは辛うじて認識しているらしく、他の人が注意しても梨の礫だが、俺が叱ると一旦静かになる。


 普通に死んでいたなら俺も悲しいのだろうが、ゾンビ化してエキセントリックな動きを繰り返すので、泣いている余裕がない。というか、そんな気分になれない。


「エミーリア。残念ながら目当ての勇者はこの有様だ。何か目的があって召喚魔法を使ったのだろうが、それは失敗した。俺達を元の世界に戻してくれないか?」


 努めて冷静に語りかける。喧嘩腰に言って拒否されたら元も子もない。なるべく真摯にお願いする。


「ごめんなさい。それは出来ません……」


「あん……!? 何て言った!!」


 鮫島が勢いよく立ち上がり、豪奢なテーブルを叩きながら言った。


「出来ない……といいました。異世界転移の魔法を発動させるには巨大な魔石が要ります。それが今はありません」


 苦悶の表情を浮かべている。本人としても不本意なのだろう。


「エミーリア。お前は王族なんだろ? 用意出来ないのか?」


「お金では何ともならないのです。今回の儀式で使用した魔石は、百年前に魔王を倒した時にドロップしたもの──」


「つまり、魔王を倒さないと元の世界には戻れないと……?」


「はい。そうなります」


「なんだとぅ……!?」


 鮫島の怒りはもっともだ。俺だって早く地球に戻って女の子を口説かなくてはならない。


「本当に他に手はないのか?」


「残念ながら……」


 エミーリアは顔を伏しながら答えた。


「坊ちゃん、どうしましょう。親分はあんなですし……」


 緒方の視線の先には、でんぐり返りを何度も繰り返すオヤジの姿がある。あっ、壁にぶつかった。自分で頭を撫でている。


「とりあえず食い扶持を見つけて生活しないとなぁ」


「そうですねぇ」


「あの……」


 俺と緒方の会話に、エミーリアが混ざろうとする。何か気不味いようで、なかなか次の句が出ない。


「なんだ? はっきり言ってくれ」


「ごめんなさい……。実は明日、王国民への勇者のお披露目パレードが予定されていまして……」


「えっ、勇者はあの状態だけど! あれをパレードで人前に晒すの!?」


「はい。そうしないと、王家の威信が失墜します」


 いや、知ったこっちゃない。


「エミーリア。それはお前達の都合だろ? それに、勇者ゾンビを人前に出す方が問題だ。適当に代役を立てればいい」


「我が国には……勇者しか触れることの出来ない聖剣があります。パレードでは勇者がその剣を掲げる予定だったのです。それが出来ないと、貴族や王国民に怪しまれます……」


 なんとも面倒臭い状況だ。鮫島も緒方も眉間に皺を寄せている。


 とりあえず金を引き出すために協力するか……。無一文では若衆達にメシも食わせられない。


「しっかり礼はもらうからな。とりあえずその聖剣とやらを見せてくれ」


「はい……。案内します」


 エミーリアは追い詰められた表情で立ち上がった。



#



 王城の地下は、ひんやりとした空気が満ちていた。息が白く、とまではいかないが、体感で外より二、三度は低い。


 ここに来たのは俺とオヤジ、若頭の鮫島と事務局長の緒方。そして王国側はエミーリアとデュダ、護衛の騎士が三人だ。


 鮫島が【大罪人】の称号を持つので警戒されているのだろう。


 ちなみに俺の称号は【勇者の息子】、緒方の称号は【メタボ】という身も蓋もないものだった。


「この扉の向こうに聖剣が安置されています」


 エミーリアが緊張した面持ちで言った。それはそうだろう。もしオヤジが聖剣に触れられなければ、パレードは完全に失敗する。王家は何をしているのかと、貴族や王国民に突き上げられるらしい。


「開けるぞ?」


 俺の言葉にエミーリアとデュダは頷く。


「マンマンガー!!」


 突然、オヤジが聖剣の部屋の扉を蹴り飛ばした。勢いよく開き、中が顕になる。


「あれが……」

「聖剣……!?」


 鮫島と緒方の凸凹コンビが呟く。


 部屋の中央には、地面に垂直に突き立てられた剣がある。まるで生きているように青白い光を纏い、点滅している。


「鮫島、試しに触ってみろ」


 しょうがねぇなぁ。と鮫島は吐き捨て、大股で歩き出す。踵を鳴らして聖剣の前に立ち、手を伸ばすと──


「痛ッ!!」


 ──光が強くなり、バチンと音がして弾かれる。まぁ、当然か。【大罪人】が聖剣を握れたら、何でもありになってしまう。


「もしかしたら【勇者の息子】であるキョウジさんなら、触れるかもしれません」


 エミーリアが祈るように言った。


 無理だと思うが、試さないと先に進まない。鮫島の横を通り過ぎ、無造作に聖剣を掴む。


 ──バチンッ! とやはり弾かれる。エミーリアが泣きそうになる。虐めたくなる顔だ。


「おい、オヤジ! この剣を取ってみろ!」


 壁に何度も額を打ちつけていたオヤジがくるりとこちらを向いた。そしてツカツカとやってくる。


「メソメソソード!!」


 訳の分からない奇声を発しながら手を伸ばす。すると、聖剣の光がオヤジの身体を包みこんだ。今までとは明らかに反応が違う。


「やはり、勇者ですね!」


 台座から聖剣を引き抜いたオヤジをキラキラした瞳で見つめるエミーリア。デュダもほっと息をついている。


 オヤジは聖剣を気に入ったのか、ブンブン振り回して遊んでいる。かなり危ない。


「恭司さん! 必ずお礼はするので明日のパレード、協力お願いします!」


 鮫島と緒方を見ると、「仕方ないっすねぇ」という表情をしている。とりあえず若衆達に飯を食わさなければならない。ここは協力して援助を引き出すのがベターか……。


「分かった。とりあえずパレードを乗り越えよう」


 オヤジは聖剣を大上段に構えて緒方を追い回し始めた。これ、大丈夫か? パレード乗り越えられる?


 とても心配になってきた……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] しっかり死んでて笑っちゃうwwwwwwwwwww オ、オヤジイイィィィ!!!! どうなるんだこれから……なんにも想像つかん(褒めてる) [一言] めちゃくちゃ面白いです! 墓場行きと言わ…
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