【没作品】悪役転生13
『遂にやっちまったな』
暗闇の中から声がする。明かりをつけようと手を伸ばすが、虚空を掴むだけだ。
『もう、後戻りは出来ないぞ。お前は人殺しだ』
俺を責めるわけでもなく、ただ嬉しそうだ。
『殺し、奪い、支配するんだ。お前は俺だ』
急に息が苦しくなる。何が始まった?
『止まるんじゃないぞ。停滞は死を招く』
「くっ、くるしい……」
不味い……! 一体どうなって──。
急に目の前が明るくなり、自分の荒い呼吸が耳につく。
ニコニコと笑う少女のような顔。アルチナが覗き込むように俺を見ている。ここは、ダムドの拠点。俺のベッドの上のようだ。
「デイブ起きて! 朝だよ!」
「アルチナ。起こす時は首を絞めないでくれ」
「なんで?」
なんでって……。全く無茶苦茶だな。
「首締めはどちらかというと、眠らせる行為だ。俺に起きて欲しいんだろ?」
「うん!」
「なら、首から手をどけてくれ」
やっと理解したのか、ほっそりとした冷たい手が俺の首から離れた。
「ねえ、デイブ。今日は何するの?」
ベッドに腰掛ける俺のまえで、アルチナは仁王立ちだ。黒いノースリーブのワンピースから伸びる華奢な腕が腰に添えられている。
「今日は新しい拠点に行く。そこでブリネッタと会議だ」
新しい拠点──旧フェンリルの拠点──はやっと清掃が終わったらしい。モンティが昨日、悪態をつきながら報告してきた。「一番大変だったのは兄貴がやったカッサーノの後始末ですよ! 血は落とすの大変なんすから、もうちょっと気を使って人を殺して下さい!」と。
「会議?」
「あぁ、そうだ。これからどうやって勢力を伸ばすかについて」
「悪いことするの?」
「するだろうな」
アルチナは倒れるように俺にしなだれかかり、「楽しそう。いっぱい殺そうね」と呟いた。
この世界にはまともな奴は一人もいないようだ。
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スラムの露店で串焼き──何の肉かは不明──を買い、頬張りながら歩くと新しい拠点が見えてきた。入り口には顔に包帯を巻いた男が二人、立っている。二人ともスキンヘッドだ。
「「おはようございます!」」
旧フェンリルの構成員だ。元々は百人ほどいた筈だが、ダムドの配下に加わったのは三十人といったところ。あとは死んだか逃げ出したか、僕の命を狙っているかだろう。
「似合ってるいるな」
「「は、はい!」」
旧フェンリルの構成員は分かりやすく全員スキンヘッドだ。手柄を立て、階級が上がったものだけが髪を伸ばせるシステムを導入した。
「ブリネッタはいるか?」
「えっ、あっ……はぃ……」
見張りの一人が気まずそうにする。
「なんだ? いないのか?」
「い、いらっしゃいます! ただ、お一人ではなく……」
一人ではない? 誰か客か? まぁいい。
戸惑う二人の見張りの間を割って新拠点に入る。つい先日大立ち回りを演じたフロアに血の跡はない。すっかり綺麗になってソファが並べられていた。
「兄貴ィィ! はやいっすね!」
モンティが立ち上がり、声を張る。そのモヒカン頭はダムド幹部の印だ。三人の部下がモンティに遅れ、慌てて立ち上がる。
「「「おはよう御座います!」」」
もちろんスキンヘッドだ。
「ブリネッタは?」
「三階にいやす!! でも……!!」
モンティまで気まずそうにする。一体、何事だ? 気になって足早に階段を登ると、アルチナがパタパタと付いてくる。
そして三階。扉の前だが──。
「デイブ。パティと同じ匂いがする」
元娼婦のアルチナが売春宿の名前を出す。
「声も聞こえる」
確かに聞こえる。嬌声が。それはどんどん大きくなり、たまに男の声も混ざる。
「あっ、終わった」
アルチナが飛び出し、遠慮なくドアノブを回す。そして扉の向こうには──。
「おっ、ボスか。一発どうだい?」
裸の勇者トリスタンが手を挙げる。そして豪奢なデスクの上には今回の目的、ブリネッタが胸元をはだけさせ、放心状態でいるのだった。




