【没作品】悪役転生12
フェンリルのボス、カッサーノは慎重で、自分の身に危険が迫るとすぐに逃げ出す。
この性質がある為、カッサーノを倒すに大人数が必要だと言われていた。
正面からフェンリルの拠点に攻め入る部隊と、その周辺に潜んで逃げたカッサーノを抑える部隊。最低でも二十人程度の手勢が必要になる。と。
しかし、そのセオリーを覆した男がいた。その名はペタマックス氏。人気ゲーム実況者だ。
彼はカッサーノが好んで取る出前に注目する。出前の料理にデバフアイテムを仕込めば、カッサーノを簡単に倒すことが出来るのではないかと。
彼は自身の実況動画の中で様々な薬物を出前の料理──オーク肉の煮込み──に仕込み、カッサーノに挑んだ。
しかし、勘の鋭いカッサーノには見破られてしまう。やはり、セオリー通りに攻略するしかないのか……? そんな諦めムードの中、ペタマックス氏は「最後の一手」としてあるアイテムを試した。
『耳無し草』
これはデバフアイテムではない。バンシー等、アンデッドが行う「叫び」攻撃を無効化するためのバフアイテムだ。耳無し草を使用するとしばらくの間、耳が音を受け付けなくなる。
ペタマックス氏はこの耳無し草をオーク肉の煮込みに仕込んだのだ。そして、少数精鋭でフェンリルの拠点に攻め込み、見事カッサーノを討ち取った。
このペタマックス式は氏の名声を高めると共に、『ロード・オブ・カオス』の自由度の高さを世に知らしめることとなった。そして以降、如何に狡賢く『ロード・オブ・カオス』をプレイするかが実況者達の間で競われるようになる。
僕はこのペタマックス式でカッサーノを倒す。
「トリスタン、奴を逃すな!」
「分かってるよ。ボス」
カッサーノが窓にむかって走り出すのを、トリスタンが光魔法で牽制する。
退路を絶たれ、苦しげな表情のカッサーノ。逃げ出すのを諦めたのか、壁にかけられたハンドアックスを手に取り構える。
「ふん。やる気か? 降伏すれば命だけは助けてやるぞ?」
「おい! 口をパクパクさせてないで何か言いやがれ!」
苛立つカッサーノ。まだ耳は聞こえていないようだ。
「兄貴ィィ。カッサーノの野郎、様子が変ですぜ」
「作戦通りだ」
「なんで聞こえねえんだっ……!!」
ハンドアックスを振り上げ、カッサーノが飛び込んでくる。さすがに鋭い。しかし躱せない程ではない。
斧が床板を爆散させた。つまり、僕達は無傷だ。
状況は四対一。いくらカッサーノが強いといっても、四方向からの攻撃を躱すのは難しい。
モンティの鎖が飛び、カッサーノがハンドアックスで弾く。
トリスタンのショートソードを籠手で受け流す。
首を反らして死神の大鎌を躱し──。
僕の影縫いのナイフが背中を突いた。
「う、動かねえ……!?」
「もう一度言う。降伏すれば、命だけは助けるぞ?」
「だから! 聞こえねえんだよぉぉ!!」
カッサーノが青筋を立てて怒鳴った。
「そうか。残念だ」
ステータスを弄る。
【 名 前 】 デイブ
【 年 齢 】 20
【 職 業 】 ダムドの頭領
【 レベル 】 10
【 体 力 】 130
【 魔 力 】 20(−20)
【 攻撃力 】 25(+100)
【 防御力 】 20(−20)
【 俊敏性 】 30(−30)
【 魅 力 】 23(−23)
【 運 】 7(−7)
【固有スキル】 愚者の天秤(2)
【 スキル 】
動かないカッサーノからハンドアックスをもぎ取り、深く息を吸う。
僕は今までで一番大きな罪を犯す。この世界で。
「や、やめろ!」
「聞こえないな」
全力で斧を振い、カッサーノの首に当てる。ドンッ! と弾け、胴体と頭部が泣き別れた。
クルクルと回ったあと、驚きの表情のままカッサーノの首は床に落ちる。
「終わった」
顔を上げると、死神と目が合った。赤い瞳が少し歪んでいる。笑っているようだ。
「兄貴ィィ! 流石っす!!」
モンティがカッサーノの首を蹴り飛ばす。
「デイブ!」
アルチナが身体ごと飛び込んでくる。
「今回はボスにいいところを持っていかれたな」
トリスタンが少し悔しそうにした。
「よし。カッサーノは倒した。これでスラムはダムドのものだ。くれぐれも舐められるなよ!!」
ここで脳内に効果音が鳴った。そしてメッセージウィンドウが開く。
『スラムの王、カッサーノを倒しました。ギャング団フェンリルがダムドの傘下となります』
僕は早くもスラムを手中に収めたようだ。




