【没作品】悪役転生5
売春宿「パシャ」一階の受付には老婆が座っている。タバコを吹かしながら、ぼんやりと暇そうだ。
「おい、ババア! 客だぞ!」
モンティに声をかけられ、面倒臭そうに一瞥する。
「ふぅー。チンピラが朝からキャンキャン煩いねぇ」
「なんだとぅ!?」
「黙れモンティ」
背後から膝蹴りをかますと、「いぐっ」と間抜けな声を上げてモンティは蹲った。
「ふん。ちったぁマシな面構えだね。お兄さん、指名かい? それともフリー?」
「二人ともフリーだ」
「兄貴! 本当に一階のフリーはヤバいですって!!」
正面から膝蹴りをかますと、「へぐぅ」と間抜けな声を上げてモンティは蹲った。
「ひっひっひ。面白い兄さんだねぇ。フリーならすぐに案内できるよ。一人金貨一枚だ」
モンティの分まで払うのは抵抗があるが、仕方がない。ズボンのポケットから金貨を二枚取り出し、受付台に置くと、老婆がパチリと手を打った。
受付の奥からいかつい男が現れ、「案内します」とつまらなそうに言う。これが二階より上になると案内役の接客態度も変わってくるのだが、仕方がない。
僕は【愚者の天秤】でステータスを調整しながら、案内役の後ろをついていく。
モンティが未だにグチグチ言っていたが、「影縛りのナイフ」を見せるとようやく静かになった。どうやら、影縛りが怖いらしい。
「部屋に入ってお待ちください」
モンティと隣同士の個室に通され、扉が閉められた。中は浴室とベッドだけの空間だ。湯舟から上がる湯気がピンク色の照明に怪しく照らされる。
行ったことはないが、現実の風俗店もこんな感じなのだろう。
今までとは違った興奮が全身を熱くする。
さぁ……。奴は来るのか……?
扉の向こうから、軽い足音がする。
心臓の音がバクバクとうるさい。自分の鼻息が顔にかかる。
扉が……開いた。
「失礼します」
見ると薄いワンピースを着た女が頭を下げている。
「お、おはよう」
「ふふ、可愛い」
顔を上げたのは小皺の目立つ女性だった。母親と同世代かもしれない。急速に萎むのは、多分仕方がないことだ。
「がっかりした顔も可愛い」
ふんぬ。これはなかなか手強い。プロ根性を感じる。これは僕としても応えねばならないのではないか……!?
いや! 違う!! 僕はギャングでヒールで好き勝手に振る舞う存在だ!! 少なくとも今──。
『兄貴ィィ!! 助けてェェェ!!』
──壁の向こうから僕を呼ぶ声がする。モンティが泣き叫んでいる。これは当たりを引いたようだ。
「どけっ!!」
「きゃっ」
わざとらしい悲鳴を聞き流し、扉を開けて飛び出す。そしてすぐ隣の部屋の扉を蹴破る。
「兄貴ィィイイ!!」
華奢な女が生気のない瞳でこちらを見上げる。その後ろでは、大鎌を持った髑髏に首を刎ねられる寸前のモンティ。
「アルチナ! 待て!!」
女が瞳を大きくした。髑髏の大鎌がギリギリのところで止まった。
「誰?」
「俺だ! デイブだよ!」
「デイブ?」
「そう。デイブだ! 迎えに来たぞ!!」
「迎えに来た……?」
「待たせて済まなかった」
手を開いて迎え入れると、少女はゆっくりこちらに歩み寄る。そしてそっと抱きついてきた。
「やっと来てくれたのね」
「ごめんよ」
ここで脳内に効果音が鳴った。そしてメッセージウィンドウが開く。
『死神に憑かれた女、アルチナが仲間になりました』
魅力が50以上ある状態で名前を呼ぶと仲間になる可能性のあるキャラクター、アルチナ。売春宿「パティ」の一階、早朝フリーでしか現れない。
ちなみに僕の今のステータスはこんな感じだ。
【 名 前 】 デイブ
【 年 齢 】 20
【 職 業 】 ダムドの頭領
【 レベル 】 1
【 体 力 】 30
【 魔 力 】 10(−10)
【 攻撃力 】 15(-15)
【 防御力 】 10(−10)
【 俊敏性 】 15(-15)
【 魅 力 】 20(+50)
【 運 】 6
【固有スキル】 愚者の天秤
【 スキル 】
胸の中でシクシクと泣く女──アルチナ──に気が付かれないように【愚者の天秤】でステータスを元に戻す。
緊張が解け、思い出したように呼吸をする。
アルチナはいつの間にか死神を仕舞ったようだ。ベッドの上でモンティがポカンとしている。
「アルチナ。一緒に帰ろう」
「うん」
レベルが上がっても魅力のパラメータはほとんど上がらないのが『ロード・オブ・カオス』の仕様。他のキャラクターでゲームを進めた場合、かなりやり込まないとアルチナは仲間に出来ない。
ある意味、デイブ専用のチートキャラ。それがアルチナだ。
「あ、兄貴ィィ。その女、知ってるんすか?」
「当たり前だろ。俺の女だ」
アルチナが嬉しそうに俺の手を取る。早くここから出たいらしい。部屋の前には騒ぎを聞きつけた老婆といかつい男が何事かと身構えていた。
「アルチナをもらう。いくら必要だ」
「こらまた驚いた。アルチナを身請けしようってかい?」
老婆がおどけてみせる。
「いくら必要なんだ?」
「アルチナに借金なんてないよ! 命が惜しくないなら連れて行きな」
老婆は自棄っぱちになったように言い放った。
「そうか。ならもらっていく」
アルチナが僕の手をぎゅっと握った。
とても柔らかく、不意に興奮してしまったのだった。




