↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月とかぐや姫  作者: まん丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/18

転校生

 翌朝。


「いただきます」


 いつもの朝食に、いつもの食卓。ただ一つ違うのは、私の隣に千年前から来たという少女が座っていることだった。


 私はパンをかじりながら、目玉焼きに塩を振る。


 パッ、パッ。


 それを見ていたかぐやが、興味深そうに塩の容器を手に取った。


「こうか?」


「うん。ちょっと振ればいいよ」


「承知した」


 かぐやが容器を傾けた、その瞬間だった。


 スポンッ、と蓋が外れた。


 ドバッ。


「「「あ」」」


 私とママと大地の声が重なった。


 かぐやの目玉焼きは、たっぷりの塩をかぶって真っ白になっている。


 食卓の時間が止まる中、かぐやは塩まみれの目玉焼きをしばらく眺めると、何事もなかったように隣の大地へ顔を向けた。


「そなたもかけるかえ?」


「……!」


 大地が無言で首をブンブン縦に振った。


「いや、いらないでしょ!」


 私が止めるより早く、かぐやは大地の目玉焼きの上で容器を傾けた。


 ドバッ。


 もう一つ、真っ白な目玉焼きが完成した。


「…………」


 大地は何も言わない。


 かぐやは満足そうに塩を置くと、さあどうぞ、とでも言いたげな顔で大地を見た。


 大地が箸を持つ。


「え?」


 パクッ。


「食べた!?」


 無言のまま、大地は目玉焼きを咀嚼している。


 すると、かぐやも自分の目玉焼きを箸で切り、そのまま口へ運んだ。


「かぐやも!?」


「?」


「しょっぱくないの?」


「何がじゃ?」


「塩だよ! それだけかけたら普通食べられないでしょ!」


 かぐやは不思議そうに目玉焼きを眺め、もう一口食べる。


「うまいぞ?」


「嘘でしょ……」


 私は大地を見る。


「大地は?」


「……」


「ねえ、聞いてる?」


「……」


 目は開いているし、口も動いている。


 でも、心はどこか遠い世界へ旅立っていた。


 ママはそんな二人を眺めながら、のんびり味噌汁を一口飲む。


「二人とも、塩分の取りすぎは病気になるから気をつけてね」


「心配するとこ、そこ!?」


 朝から疲れる。


 私はため息をつきながらパンをかじり、何気なく時計を見た。


「……あ」


 もう一度見る。


「やばっ!」


 椅子から飛び上がった。


「遅刻する!」


 残っていたパンを口へ放り込み、牛乳で流し込む。


 そんな私を見て、かぐやが首を傾げた。


「どこへ参るのじゃ?」


「学校!」


「がっこう?」


 そうか。知らないのか。


「えっと……同じくらいの歳の子が集まって、先生から色々教えてもらうところ!」


 説明しながら鞄の中身を確認する。


「ほう。学問をする場所か」


「まあ、そんな感じ!」


「女子もか?」


「今は普通だよ!」


 私は鞄を肩にかけた。


 ところが、かぐやは何やら興味を持ったらしい。


「わしも参る」


「無理!」


「なぜじゃ?」


「あんた生徒じゃないでしょ!」


 かぐやが少し考える。


「生徒であればよいのか?」


「そういう問題じゃないの!」


 時計を見る。もう本当に時間がない。


「とにかく今日はママと一緒にいて。勝手に出歩いちゃ駄目だからね!」


「承知した」


「……本当に?」


「うむ」


 ものすごく不安だ。


「じゃ、行ってきます!」


「いってらっしゃい」


 ママの声を背中に受け、私は玄関を飛び出した。


     ◇


「間に合ったぁ……」


 自転車を停め、私は竹田鳥山学園の校舎へ駆け込んだ。


 通称、竹鳥。


 うちの学校には制服がないので、校内を歩いている生徒の格好はバラバラだ。Tシャツにジーンズの子もいれば、お洒落に気合いを入れている子もいる。


 そんな中、廊下の向こうを学ラン姿の男子生徒が歩いていた。


 制服がない学校で、なぜ学ランなのか。


 本人が好きで着ているらしい。


 変わった人もいるもんだ。


「おはよう、門脇!」


「おはよ!」


 クラスメイトに挨拶しながら教室へ入り、自分の席に滑り込む。


「セーフ……」


 昨日から色々ありすぎた。


 宇宙から来たと言い張る女の子を拾って、家へ連れて帰ったらミケには嫌われ、大地は一目惚れ。今朝は二人揃って塩まみれの目玉焼きを食べていた。


 疲れる。


 私は机に突っ伏した。


 まあ、学校にいる間くらいは普通に過ごせるだろう。


 チャイムが鳴り、担任が出席簿を片手に教室へ入ってきた。


「ほら、席つけー。ホームルーム始めるぞ」


 ざわついていたクラスメイトたちが、それぞれの席へ戻っていく。


 いつもの朝だった。


 ところが先生は出席簿を机に置くと、思い出したように付け加えた。


「ああ、その前に今日は一人紹介する」


「紹介?」


「転校生だ」


 一瞬の静寂のあと、教室が一気にざわついた。


「マジで?」


「この時期に?」


「男子? 女子?」


 さっきまで眠そうだった連中まで目を輝かせている。


 私も少しだけ興味が湧いて顔を上げた。


「女子だ。北海道から来たそうだ」


「北海道!」


「どこ?」


「確か……空知だったかな」


「…………」


 空知。


 どこかで聞いた。


 つい最近。


 というか、昨日。


「……まさかね」


 嫌な予感がした。


 いやいや。


 そんなわけがない。


 私が家を出た時、あいつはパジャマ姿で朝ご飯を食べていたんだから。


「じゃあ、入っていいぞ」


 先生が教室の扉へ目を向けた。


 ガラッと扉が開き、一人の少女が教室へ入ってくる。


 腰まで届く艶やかな黒髪に、透き通るような白い肌。


 そして何より、私には見覚えがありすぎる顔だった。


「…………は?」


 教室が静まり返ったのは、ほんの一瞬だった。


「うわ、めっちゃ美人……」


「髪すご……」


「モデルとか?」


 あちこちから声が上がる。


 少女はそんな視線など気にする様子もなく教壇の横まで歩くと、静かに頭を下げた。


「かぐやじゃ。本日より世話になる。よろしく頼む」


「…………」


 私は固まった。


 かぐやが教室を見回し、やがて私を見つける。


 ぱっと表情が明るくなった。


「月。また会ったの」


 ガタンッ!


「うわっ!」


 椅子ごとひっくり返った。


「門脇!?」


「大丈夫!?」


 クラスメイトの声を聞きながら、私は慌てて床から起き上がる。


「なんで……」


 かぐやを指差した。


「なんであんたがここにいるのよ!」


「?」


 かぐやは不思議そうに首を傾げる。


 その顔を見ているうちに、私はもう一つ、とんでもないことに気がついた。


「……ちょっと待って」


 改めて、かぐやを上から下まで見る。


 昨日の十二単衣じゃない。


 今着ている服は、私がよく知っているものだった。


「それ、私の服じゃん!」


「うむ」


「しかも私の勝負服! 何してんのよ!?」


 かぐやは自分の服を見下ろしたが、悪びれる様子は一ミリもない。


「一番わしに合っていたゆえな」


「勝手に着るな!」


「似合っておろう?」


「似合ってるのが余計に腹立つ!」


 教室から笑い声が上がった。


 私は頭を抱える。


 学校にいる間くらいは普通に過ごせる。


 ついさっき、そう思った自分を殴ってやりたい。


 こうして、私の平穏な学校生活は、朝のホームルーム開始と同時に終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。