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月とかぐや姫  作者: まん丸


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4/18

月の家

「なんでそうなるの!?」


 私の声が玄関に響いた。


 かぐやは不思議そうに首を傾げている。


 その足元では、ミケがまだ警戒を解いていない。


「シャー……」


「まだ怒ってるし……」


「嫌われたようじゃの」


「みたいだね」


 その時だった。


「姉ちゃん、うるさい」


 リビングの奥から、不機嫌そうな声が聞こえた。


「あ、大地」


「なんだよ」


 弟の門脇大地(かどわき だいち)が、面倒くさそうに顔を出す。


 中学二年生。


 現在、絶賛反抗期。


 私が話しかければ、


「うるさい」


「知らない」


「自分でやれば」


 だいたいこの三つで会話が成立する、とても可愛い弟である。


「今日、うちに泊まるかぐや」


「は?」


 大地がこちらを見る。


 そして。


 かぐやを見た。


「……」


「……」


 固まった。


「大地?」


「……」


「おーい」


 返事がない。


 顔が赤い。


 耳まで赤い。


 いや。


 頭のてっぺんまで赤くなっている気がする。


「どうしたの?」


「な、なんでもねぇ!」


 声が裏返った。


「そなたが月の弟か?」


「は、はい!」


「なんで私には『なんだよ』なのに、かぐやには『はい』なの!?」


「うるせぇ!」


 いつもの大地に戻った。


 かぐやは楽しそうに笑っている。


「よく似た姉弟じゃの」


「どこが!」


「どこが!」


 声が重なった。


「ほら」


「「……」」


 最悪だ。


     ◇


「かぐやちゃん、お腹空いてるんでしょう?」


 ママの一言で、ひとまず夕食になった。


「ありがたい」


 食卓に料理が並ぶ。


 白いご飯。


 味噌汁。


 焼き魚。


 煮物。


 かぐやは椅子に座ったまま、料理をじっと見つめている。


「どうしたの?」


「……これを、すべて食べてよいのか?」


「もちろん」


 ママが笑う。


 かぐやは白いご飯を見る。


「白米じゃ……」


「うん」


「それが?」


 私が聞くと、かぐやは少しだけ黙った。


「いや」


「なんでもない」


 箸を取る。


 一口。


「……うまい」


 もう一口。


「うまいの」


 また一口。


 速い。


「ちょっと、ゆっくり食べなよ」


「目が覚めてから何も食べておらぬからの」


「だから朝も食べてないじゃん!」


「そうであった」


 大地が吹き出した。


「姉ちゃん、ツッコまれてんじゃん」


「誰が!」


「姉ちゃんが」


「見れば分かるわ!」


 かぐやはそんな私たちを見ながら、楽しそうに食事を続けていた。


     ◇


 食事が終わると、ママが言った。


「かぐやちゃん、お風呂どうぞ」


「風呂?」


「うん」


「こっちよ」


 ママに案内され、かぐやが浴室へ向かう。


 数秒後。


「月!」


 大声が聞こえた。


「なに!?」


「湯が勝手に出るぞ!」


「蛇口ひねったからでしょ!」


「しかも温かい!」


「お風呂だから!」


「なんと贅沢な!」


「いちいち感動しないで!」


 パパが新聞越しに笑っている。


 ママも楽しそうだ。


 大地は浴室の方を気にしている。


「……」


「何?」


「別に」


「顔赤いよ」


「うるせぇ!」


 分かりやすい。


     ◇


 しばらくして。


「月」


 お風呂から出てきたかぐやが、リビングの入り口に立っていた。


 ママが貸したパジャマ姿。


 長い黒髪はまだ少し濡れている。


「おお、似合ってるじゃん」


「そうか?」


「うん」


 そこへ大地が飲み物を取りにやって来た。


 かぐやを見る。


「……!」


 また固まった。


「大地?」


「……お、おやすみ!」


「まだ寝る時間じゃないけど?」


「眠いんだよ!」


 逃げるように自分の部屋へ消えていく。


「変わった弟じゃの」


「あんたに言われたくないと思う」


 私は笑った。


「さて」


「今日は私の部屋で寝てもらうから」


「承知した」


「その前に髪乾かそう」


「乾かす?」


「うん」


 私はドライヤーを取り出した。


 スイッチを入れる。


 ブオオオオオッ!


「うわっ!」


 かぐやが飛び退いた。


「何じゃそれは!」


「ドライヤー!」


「風の術か!?」


「だから術じゃないって!」


 今日、何回目だろう。


 私は笑いながら、かぐやの長い髪に温かな風を当てた。


 黒髪がふわりと揺れる。


「……便利な世になったの」


「千年経ってるんでしょ?」


「うむ」


「そりゃ変わるよ」


 かぐやは目を細めた。


「そうじゃの」


 その声だけが、ほんの少し寂しそうだった。


 私はドライヤーを止める。


「よし、乾いた」


「ありがとう、月」


「どういたしまして」


 かぐやが笑う。


 私も笑った。


 こうして、かぐやとの最初の夜が始まった。

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