↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月とかぐや姫  作者: まん丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/18

帰る場所

こちらの作品はいかがでしょうか?励みになります、評価、ご意見お待ちしております。

 満月が静かに夜の街を照らしていた。


 私とかぐやは、並んで歩き始める。


 しばらく沈黙が続いた。


「……ねぇ。」


「何じゃ?」


「さっきの。」


「宇宙(そら)ってどういう意味?」


「そのままの意味じゃ。」


「いや、そのままって……。」


「わしは宇宙(そら)より参った。」


 私は思わず苦笑いする。


「変わった人だね。」


「そうか?」


「うん。かなり。」


 本人は少し首を傾げただけだった。


 しばらく歩くと、かぐやが街並みを見回す。


「民の姿も、街並みも、千年前とはまるで違うの。」


 私は立ち止まった。


「……え?」


「千年前?」


「うむ。」


「あんた何者?」


「わしは、かぐやじゃ。」


「そうじゃなくて!」


「千年前って何よ!」


「それに、その格好!」


「どう見ても浮いてるでしょ!」


 かぐやは、自分の十二単衣を見下ろした。


「おかしいか?」


「おかしいよ!」


「千年ぶりじゃから、正装して来たのじゃ。」


「なんでやねん!」


 思わずツッコミが飛び出す。


「普通、そんな格好で歩いてる人いないから!」


「そういうものか。」


 どこまで本気なのか分からない。


 でも、その顔は冗談を言っているようには見えなかった。


「……そういえば。」


「今日はどこに泊まるの?」


 かぐやはきょとんとした顔で答えた。


「ない。」


「え?」


「帰る場所はない。」


 私は言葉を失った。


 その顔は、とても嘘をついているようには見えない。


「今日は……どうするつもりだったの?」


「考えておらなんだ。」


「お金は?」


「ない。」


「昼から何も食べておらぬ。」


「逆に朝は食べたの?」


「いや。」


「目が覚めてから何も食べておらなんだ。」


「なんでやねん!」


 思わず空を見上げる。


 満月だけが静かに笑っているようだった。


「……もう。」


 放って帰れるわけ、ないじゃん。


「家族に電話とかできる?」


 私はスマートフォンを取り出した。


「これ。」


「貸してあげる。」


 かぐやは恐る恐る受け取る。


「これが、すまほか。」


「うん。」


「ここを押して、お母さんとかお父さんを選べば電話できるから。」


 私は連絡先を開き、「ママ」の文字を指差した。


「こうやって……。」


 説明しようとした、その時だった。


 かぐやの指が迷いなく画面を滑る。


「え?」


 タップ。


 発信。


 耳へ当てる。


『もしもし?』


 聞き慣れた声が聞こえた。


「夜分に失礼する。」


「わしは、かぐやと申す。」


「月には大変世話になった。」


「今宵、一晩お世話になる許しを頂きたい。」


「ちょっ!」


 私は慌ててスマートフォンを取り返そうとする。


 しかし、時すでに遅し。


 通話は終わっていた。


 かぐやは、スマートフォンを私へ返す。


「ありがとう。」


「……。」


「今、どこに電話したの?」


「そなたの母君じゃ。」


「なんでママに電話してるの!?」


「家族へ連絡せよ、と申したではないか。」


「それ、自分の家族って意味!」


「そういう意味であったか。」


 悪びれる様子は全くない。


 私は深いため息をついた。


「で?」


「ママ、何て?」


「快く了承してくださった。」


「……。」


 私は頭を抱える。


「話はついた。」


「なんでやねん!」


 かぐやは不思議そうに私を見る。


「では。」


「家まで案内頼む。」


「えぇぇ……。」


 完全に決定事項らしい。


 私は苦笑いしながら歩き出した。


 その後ろを、しゃなり、しゃなり、と十二単衣を揺らしながら、かぐやが歩いてくる。


 しばらく歩き、住宅街へ入った。


「ねぇ。」


「何じゃ?」


「家に着いたら。」


「千年前とか、宇宙とか、そういう話は絶対しないで。」


「みんな本気にしないし、変な人だと思われるから。」


 かぐやは私の顔を見て、小さく頷いた。


「承知した。」


「約束だからね。」


「うむ。」


 その返事だけは、とても真剣だった。


 歩き始めて十分ほど。


 見慣れたマンションが見えてきた。


「着いた。」


 私は足を止める。


 かぐやも静かに立ち止まり、目の前の建物を見上げた。


 私はエントランスへ向かって歩き出す。


 その後ろから、しゃなり、しゃなり、と足音が聞こえてくる。


 二人の影を、満月が静かに照らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。