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カスパルは、目を細め、薄っすら笑った。
ポルブは、それを見て背筋が寒くなった。
学院在学中、カスパルは、一見面倒見の良さそうな、頼りになる先輩だった。けれど、付き合いが深まるうちに、他人を取り込み、自分のいいように利用し、役立たずになればさっさと切り捨てる、サラザルの当主と変わりない、酷薄な男であることがわかった。
その頃には、すでに色々な悪事に加担し、彼と関係を断つのは不可能な状態だった。カスパルが何か失敗すれば、自分もそれに連座して、学院内に居場所がなくなるのは明らかだった。
カスパルが退学処分になった一件では、ポルブは、たまたま親族の葬儀があり、学院から外出していたため難を逃れたのだ。ポルブの心の中で、これ以上この男の話を聞くな、魔導士と会うなんてやめろっという声が響いた。
そう思いながらも、それ以上に魔力を取り戻したいという渇望が強く、立ち去ることができなかった。
カスパルは、長椅子に楽な姿勢で腰掛けたまま、ゴーズリーとバーカンダーを見上げた。
「バーカンダー、カウンターの奥のキッチンに、材料があるから、何か朝飯を作ってくれ。俺たちの分も頼む」
「わかった、あるものを全部使ってもいいか」
「ああ、いいぜ。好きなだけ使え」
バーカンダーが、カウンターの向こうへ行ってしまうと、カスパルは、二人を自分のそばへ呼び寄せ、座らせた。
「俺の師匠は、ただの魔導士じゃないんだ。大魔導士なんだ。
力を譲るって言ったが、正確に言えば、力を送り込んで来るんだ。師匠さえついていれば、魔力が枯渇する心配はない。それに、俺は師匠から教えてもらったが、魔力を体内で作り出す方法があるそうだ。
魔導士学院島で、おまえたちに、俺の仕事を手伝ってもらいたいんだ。それが済んだら、俺は師匠から無限に魔力を作り出す方法を授けてもらえるんだ。その時、おまえたちも一緒に、その方法を授けてもらえばいい」
ポルブは不安になって尋ねた。
「魔力を体内で作り出すなんて、もし仮にできるとしても、それは、術の秘訣に関わることだろう?弟子入りしたカスパルさんならともかく、俺たちにまで、そんな力を、本当に授けてもらえるのか?」
「今日、ここに師匠が来られる予定だ。おまえたちも、弟子入りすればいい。弟子入りしたら、俺が今日やる仕事について、説明する。
それを手伝ってもらい、首尾よくいけば、師匠から魔力を無限に作り出す方法を、褒美として教えてもらう予定だ」
素晴らしい計画のようにカスパルは説明するが、それが実現すれば、あまりに理想が叶いすぎる話に、ポルブは、ますます不安が募った。
一方、ゴーズリーの方は、すっかり乗り気になった。
「わかった、弟子入りさせてもらう。カスパルさん、よろしく頼むよ」
カスパルは満足げに頷き、ポルブへ尋ねた。
「おまえはどうする?」
「・・・・・・」
ポルブは、サラザル当主の遣り口をよく知っていた。だから、カスパルの話には、何か裏があるはずで、このままずるずる引きずられると、また抜け出せなくなると思った。
カスパルは、ポルブの逡巡などお見通しだった。
「何だ、怖気づいたのか?弟子入りする気がないのなら、もう、帰っていいぞ。大事な仕事だからな、詳細を聞いた後で、いやだなんて言われたら、もう、こうする他ないからな」
と、カスパルは、首の前で自身の手のひらを横へ滑らせ、切り裂く真似をしてみせた。
ポルブは、それを見た瞬間、弟子入りを断っても、ここを出た瞬間、自分は殺されるに違いないと確信した。
「弟子入りさせてください、お願いします」
ポルブは、カスパルへ頭を下げた。
カスパルは笑顔で頷き、立ち上がると、カウンターへ近寄り、バーカンダーへ声をかけた。
「おい、バーカンダー、ゴーズリーもポルブも、俺の師匠に弟子入りすることになった。おまえも弟子入りするだろ?」
バーカンダーは、鉄板で焼いたパンをひっくり返しながら、カスパルへ返事した。
「二人が弟子入りするなら、俺も、構わないよ。
カスパルさん、魔力戻ったら、俺は、今よりもっと美味しいものが食べられるようになるかな」
「ハハッ、おまえは相変わらず食い意地が張っているな。魔力が戻ったら、何でもできるようになる。金儲けもできるから、美味いものは食べ放題さ」
三人が弟子入りに承諾し、朝食を食べ終わると、カスパルは、店の扉に『本日臨時休業』の看板を掲げた。
それから、三人を見回し、
「今から、師匠をお呼びする、おまえたち、ちゃんと弟子入りの揖礼をしろよ」と言った。
カスパルは、店の奥へ進んだ。そこは、見通せない程の真っ暗な闇だった。その闇の中から滲み出るように、小柄な老人が現れた。
カスパルはその老人へ跪拝した。
「師匠、新たな弟子入り志願者をお連れしました。この者たちにもどうか、師匠との契約を結ばせてやってください」




