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翌早朝、カスパルは三人の仲間を引き連れて 店に現れた。
一人は、第八月の初頭に、泥酔して運河に転落し、溺死寸前のところを助け出したサラザルのポルブ、あと二人は、カスパルが退学処分を受けた時、連座で退学処分になったゴーズリーとバーカンダーである。
ポルブは、叙勲式の夜、ペリオンと会った時よりもさらに顔色が悪くなり、老け込んでいた。
一月ほど前、泥酔いして運河に転落したのだが、彼自身は、どうしてそんな事になったのか、サラザルのやり口をよく知っているので、心当たりがありすぎた。
死に損なった自分が、サラザルの一族の元へ戻っても、もはや居場所がないのは明らかだった。もう二度と顔を見ることもない、関わりたくもないと思っていたカスパルに拾われて、行く当てもなくつき従って来たのだ。
カスパルの店は、下層地区のタウナギ横丁の狭い裏路地の突き当たりにあった。
ポルブは、カスパルと再会するまで、プドラン宮殿内の凡人の居住地区で、ここまで最下層の地区に来たことがなかった。
古い建材を寄せ集めて作ったとしか思えない、歪んだ五階建ての雑居ビルの、狭い階段をおりた地下階、灰色の扉に青鷺洞と店名入りの飾り板がかけてある。
ポルブは、その看板を見て、そういえば、カスパルは青サギの一族だったのを思い出した。
ポルブの後ろから大欠伸するのが聞こえた。
灰色熊族のゴースリーとバーカンダーは、ポルブより身長が二尺ばかり高く、体の厚みは彼の三倍くらいあった。
「まったく、こんなに朝早くから、カスパルさん、何の用なんだ?」
ゴーズリーが眠そうな声で尋ねた。
「カスパルさん、朝食を食べさせてくれよ。腹が減ったよ」
バーカンダーが、空腹を訴えた。
カスパルは店の鍵を開けながら、
「わかった、ちゃんと食わせてやる。それに、今日は面白い人に合わせてやる。
おまえたち、魔力枯渇に悩んでいるんだろう。それを、解決してくれる人だぞ」と、説明した。
酒が飲みたいなと、うつむいていたポルブは、それを聞いて顔を上げた。ちょうど、振り返ったカスパルと目が合ってしまった。
カスパルは黄色レンズの眼鏡越しに薄ら笑いを浮かべた。
「ポルブ、魔力枯渇が解決できるんだ。興味あるだろう」
ポルブは無言で頷いた。魔力さえ取り戻せれば、魔導士として自活できるし、反撃だってできるのだから、サラザルの影に怯える必要もなくなるのだ。
カスパルは、ゴースリーとバーカンダーにも話しかけた。
「おまえたちも、退学処分をくらった頃には、魔力がほとんどなくなっていたみたいだが、今はどうなんだ?」
二人は、顔を見合わせ、肩をすくめた。
「もう、何年も魔導術なんて、使ったこともないよ。俺たち、学院にいた頃、体が大きくなり出した頃から、急激に魔力が弱くなったんだ。あの時、退学にならなくても、魔力切れで学院を辞めてたと思うよ」
カスパルは、三人を店の中へ招き入れた。そして、客用の長椅子へ適当に散らばってかけさせた。
「俺が今師事している師匠は、魔力を他人へ譲ることができるんだ」
「「「魔力を譲るっ!?」」」
三人同時に叫んでいた。
学院入学時にあれほど豊富にあった自身の魔力が、今はすっかり枯渇した三人にとって、それは、飢え死にしかけた人間の前に、ご馳走を並べるのと同じくらいの効き目があった。
「本当に魔力が手に入るのか?」
震え声で尋ねたポルブへ、カスパルは頷いた。
「見ろよ」
カルパルは、目の前の大きな長椅子めがけて、右腕を軽く一振りした。
長椅子見る見るうちい真っ白な霜に覆われ、凍りついた。
「・・・・・・」
カスパルも退学間近な頃、魔力枯渇の兆候が現れ苦しんでいた。けれど、今、目の前に発動展開された術は、魔力が豊富になければ絶対不可能なものだった。
「すげー、カスパルさん、魔力量めちゃくちゃ多いじゃありませんか」
一瞬で凍りついた長椅子に、ゴースリーは眠気が吹き飛んだ。
カスパルは、薄笑いを浮かべ、長椅子へ近寄ると、軽く蹴飛ばした。すると、長椅子は砂糖細工のお菓子みたいにポッキリ折れたではないか。
「ええっ、折れた」
バーカンダーは椅子から立ち上がった。自分の椅子まで危ない気がしたのだ。
「ここまで凍らせてしまうと、もう、軽い衝撃を与えただけで破壊できるのさ。どうだ、この力は、師匠から譲って頂いたのだ。おまえたちも、この力を手に入れたくはないか?」
三人は顔を見合わせた。
カスパルとは、魔導士学院在学時からの知り合いだ。だから、カスパルが、言ったことは必ず実行する男だと分かっていた。ただ、その代償が、時には、とてつもない犠牲を伴うことも事実だった。絶対、何か裏がありそうだと分かってはいても、魔力を何としてでも手に入れたい彼らは、要らないとは言えなかった。
ゴースリーが恐る恐る尋ねた。
「カスパルさんの師匠は、俺たちにも譲れるほど、魔力に、まだ余力があるのか?」




