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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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(93)

 エスメルは、柳眉を逆立て、飲みかけた茶碗を乱暴に受皿へ戻した。

「リーユエンは、今、学院で、担任をしているのよ」


 カスパルは、黄色の色眼鏡越しにエスメルを見た。

「へえ、あいつは、卒業してから行方知れずになったと聞いていましたが、また学院へ戻ってきたんですか。今まで、どこで何をしていたんですか」


「それがね、信じられないくらい、馬鹿馬鹿しい噂が出回ったのよ」


「馬鹿馬鹿しい噂?それってどんな噂ですか」

 

 普段のエスメルなら、これほどの機密情報を、学院退学者へ決して漏らはしなかった。けれど当主から自分の見解を完全に否定され、厳しい叱責を受けたうえ、酒の酔いも残っていた。それに何故か、これを喋ってはいけないという、自制が緩んでいた。


「どんな噂話なんですか、是非聞かせてくださいよ。ただの噂話なら、構わないでしょ。

俺、学院の中の噂話なら、聞きたいなあ」


 そう言われると、ますます、ただの噂話なんだから、構わないと気が緩んだ。


「リーユエンが、明妃だって噂があるのよ」


「明妃?」

 

 カスパルの顔から愛想笑いが消えた。


「その噂、どこから聞いたんですか」


「ドロメルの当主も知っているわ。どこから広がったかは知らない。

 みんな、馬鹿じゃないの、明妃が学院の教師なんかするわけないじゃない」


 カスパルは、エスメルの顔をのぞき込んで尋ねた。


「学院にいた頃のリーユエンは、チビで愛想のないガキだった。今はどんな様子ですか」


「背は私より高いわ。でも顔はいつもムスッとして愛想はないわ。眸の色は紫色で明妃と同じだけど、似ても似つかないわね」


 カスパルは、店員へ目で合図を送った。

 店員はガラスの器に、クリームと果物をあしらったデザートを運んできた。クリームの下には、薄桃色で、半透明のムースが揺れていた。


「面白いお話を聞かせていただいて、ありがとうございます。これは、当店のサービスです」

 

 エスメルは、デザートを見下ろした。


「何なの、これ?」


「当店特製の、森山桃から作ったムースです。どうぞ、お召し上がりください。実は来月から売り出そうと思って、試供品ですから、是非召し上がって感想を教えてください」

 

 森山桃のムースは、クリーミーで風味豊かで美味だった。けれど、それを食べてしばらくすると、エスメルの頭はぼんやりしてきた。


(いやだ、今頃、酔いが回ってきたのかしら)


 ぼうっとしたエスメルへ、カスパルは言葉巧みに学院内の様子を尋ね、リーユエンとの模範試合で、彼女が完敗したことまで聞き出してしまった。


(私、なんだか変だわ。どうして、こんなに何もかも喋ってしまうの)

 

 カスパルは

「エスメル先生も、いろいろご苦労があって大変ですね。それに、後輩のリーユエンに負けたなんて、さぞ悔しい思いをされたのでしょう」と、慰めているような言葉をかけながら、実際は、エスメルの負けん気を刺激し、リーユエンへの憎悪を煽っていた。

 それから、わざとらしく言い足した。


「だけど、そこまで完勝したのなら、リーユエンは、もしかしたら、魔導士階梯がエスメル先生よりずっと上なのかも知れませんね」


 エスメルは、それにすぐさま反応し激怒した。


「そんな訳ないでしょっ。私は、卒業したとき、魔導士階梯は第三階梯、今は第四階梯なのよ」


「エスメル先生、魔導士階梯なんて面倒なものをすっ飛ばして、ヨーダム太師級の魔導術を使える方法があるとしたらどうします?」


 酔いが回り、ぼんやりした頭でも、それがあり得ない話であることはすぐ判断がついた。


「何の冗談よ。太師は齢七百年を越える大魔導士よ、その彼と同等の魔導術を使えるなんてあり得ないわ」


「実際に、そんな魔導術を使える奴がいるとしたら、どうします?」

 

 エスメルは急激に襲ってきた眠気を振り払おうと、頭をふり、正面のカスパルを見た。

 カスパルの目は、色眼鏡のレンズが反射し、表情がわからなかった。


「これをお飲みなさい。気分がスッキリしますよ」

 

 カスパルに勧められるまま、新しいグラスに入った飲み物を飲んだ。すると、少し意識が戻った。


「そんな奴がいたら、皆が知らないはずないじゃない」

 

 カスパルは、顔を近づけ小声で言った。


「そいつが、法座主ドルチェンの庇護下にあり、魔導士登録すらしない無名状態であったとしたら?」

 

 エスメルは、カスパルの襟首を掴んだ。

「それって・・・・」


 カスパルは、エスメルの手を自分の襟からそっと離した。


「去年の春先に明妃位返上文書が出回り、大騒ぎになった。その後、どういう経緯なのかは不明ですが、夏の終わりの第九月に復位式が行われる予定だったのが、延期になった。その時、法座主府宮殿前広場で、何か騒動が起こり、衛兵が多数死傷したそうです」


「そんな事があったの?」


「エスメル先生は、遠く学院島にいらしたから、ご存知ないでしょう。あの時、目撃者によると化け物みたいな玄武が現れ、広場は毒霧に覆われ大勢亡くなったそうです。その玄武を結界障壁に閉じ込め、被害を食い止めたのは、若い魔導士だったそうです。長身で、痩せた青年だった。眸は紫色で、応援にきたヨーダム大師からは、リーユエンと呼ばれていたそうです。そして、驚くべきことは、その結界障壁は、黄金の天蓋で、それを一時間近くも発動させ続けたそうです」


「コンスルの黄金天蓋を一時間・・・そんなの不可能よ」

 

 コンスルの黄金天蓋は、結界障壁の中でも最も強力だが、魔力を大量に使うため、通常は長くて五分くらいが限度だった。カスパルは、口元を歪めて笑い、肩をすくめた。


「だが、実際に、目撃者が大勢いるんですよ」

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