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リーユエンは冷めた視線でペリオンを見返し、肩をすくめた。
「別に助けたつもりはありません。ご当主さまは何と仰せでしたか?」
「サラザルの勢力拡大を許さない、目的は、学院内の均衡を保つためだと」
「さすがは、ご当主さま、ご明察です」
ペリオンは、少し意地悪い聞き方をしてみた。
「殿下は、あれだけ迷惑を被ったのに、勢力均衡のためなら、エスメル先生ですら庇うのですか」
「別に庇っているつもりはありません。今頃エスメル先生にも、私のことは、どこかから伝わっていることでしょう。彼女も、私が学院島にいる間は、居心地が悪いかも知れませんね」
(エスメルみたいな単細胞じゃないから、本当にやりにくいな。本音ではどう思っているのか、そこの所を、はっきり聞かせてほしいのだが・・・)
「殿下は、サラザルもドロメルも学院から排除するおつもりですか」
「いいえ、そんな馬鹿げた考えが一体どこから出てきたのですか」
リーユエンは心底驚いて尋ね返した。
リーユエンの反応は、ペリオンには、意外だった。
「えっ、それが目的ではないのですか」
「そんな訳ないでしょう。学院は不偏不党、中庸自律がモットーですよ。派閥潰しなんかするわけないでしょう。大切な方針に反するではありませんか。ただ、勢力の均衡を図り、バランスをとって落ち着かせたいだけですよ」
(ああっ、もう、まだるっこしい。何が目的なのか、はっきり言ってくれ)
思う通りに目的が聞き出せないため、ペリオンの苛立ちは募った。
リーユエンは、そんなペリオンの反応を観察し、当主に比べたらまだまだ青くて御しやすそうだと思った。
「森の木を、気に入らないからとむやみやたらに切ってしまえば、森はいつか草地に変わってしまう。魔導士の派閥の均衡を崩すことは、今以上の争いを招くだけです。
学院長は、そのあたりのことを、本当によく心得ておられて、実に見事な采配ぶりで、とても勉強になりますね」
リーユエンはわざと話を逸らし、その話題を打ち切った。
「そろそろ、生徒を食堂へ連れていきませんとね、ペリオン先生もご一緒に行かれますよね」
リーユエンの促され、ペリオンは席を立った。
(ペリオンの独白)
叙勲式典に臨席した際の明妃殿下は、法座主猊下の傍で、美しい人形のように腰掛ける、大人しやかな女人に見えた。けれど、リーユエン先生は、全く腹の中の読めない、手強い相手だった。
私だって、サラザル宗家の一員だ。情報収集解析において、人に遅れを取りたくないし、自信だってある。なのに、明妃殿下の狙いがまったく分からない。
勢力均衡?そんな綺麗事は建前だとしか思えない。絶対何か目的があるはずだ。
それを知るにはどうしたらいいのだろう。
その目的を、ドロメルより先に知っておくべきだと、そういう気がしてならないのだ。
サラザルの一員である私の勘が、先んずる者が制するのだ、と告げるのだ。
しばらくは、リーユエン先生の動きを徹底的にマークしなければ・・・
次の週、定例の教職員会議が開かれた。
会議室へリーユエンが姿を現すなり、ツカリーゼがさっと近寄り、
「リーユエン先生、私の横に座ってなさい」と腕を掴み引っ張っていった。
教授の横に二回生クラス担任がいるのは、本来不自然なのだが、ツカリーゼを恐れ、誰も何も言わなかった。
ツカリーゼは、リーユエンにだけ聞こえるように、小声で説明した。
「エスメル先生が、あなたのことをすっごい目つきで睨んでたわよ。危ないから、私の隣にいなさい。トラブルは避けたいでしょ」
会議の冒頭で学院長はいきなり、学院島を一週間後から十日間閉鎖することを言い渡した。
ツカリーゼの横に腰掛けて話を聞くリーユエン以外、ほとんどの職員が驚きざわめいていた。
「動力炉のメンテナンスを実施するため、学院島を十日間閉鎖することになった。
その間、動力炉の出力を最小まで落とすため、安全確保の必要があり、全生徒学生は、島から離れてもらう。
教職員についても、不要不急の者は島から一旦離れてもらいたい。
十日の振替については、第十月から第十二月の休養日は二日減らして一日のみとし、、残り四日間は厳冬休暇開始を四日遅らせて代替する」
「そんな事したら授業計画が滅茶苦茶になってしまう」
「休養日が月に一日なんて、酷すぎる」
そこかしこで不満の声が上がった。
動揺する様子もないリーユエンに、もしやと思ったツカリーゼは尋ねた。
「リーユエン先生、動力炉のメンテってどういう事なの?あなた、何か知ってるの?」
リーユエンは、極力小さな声で、ツカリーゼにだけ聞こえるように説明した。
「動力炉のエネルギー源は、太極石なのです。それが劣化しているのが見つかったので、全て取り替えると聞いています」
「なるほど、それは、島からみんな追い出して閉鎖する訳よね。私どうしようかしら・・・私の実家は、金杖王国の台地の中にあるのよ。遠いから、帰っても、ゆっくりする時間もなく、すぐ戻ってこなくちゃならないのよね」
「それなら、うちへ来ますか」
リーユエンの誘いに、ツカリーゼは目を輝かせた。
「あなたのお家にお邪魔していいの」
リーユエンは頷いた。
「先生には、すごくお世話になりっ放しですから、ぜひ、おもてなしさせてください」
最後に、他の連絡事項が伝えられ、会議は終了した。
エスメルはリーユエンへ体調不良で倒れた原因を色々詰問するつもりだったのに、ツカリーゼにガッチリガードされているので、声をかけそびれた。
(やっぱり、明妃だなんて、デマに決まってるわ。ヒョロヒョロと背ばかり高いだけの色気も何にもない女じゃない、ふんっ)
十日の臨時休業の間、ドロメルの屋敷へ戻り、父グレゴルへ、明妃の噂はデマだから取り合わないでと伝えようと思った。




