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授業を終え、立ち上がったリーユエンは、ウラナとその後ろにいるペリオンに気がついた。
ウラナが進み出て、一礼した。
「ペリオン先生が、お見舞いに来られました」
リーユエンは、ペリオンへ丁寧に揖礼した。
ペリオンは、人好きのする笑顔を浮かべ一礼すると、
「リーユエン先生、体調は良くなったのかい?」と、尋ねた。
「はい、もうすっかり良くなりました。ご心配をおかけしまして」
ペリオンへ応えたあと、リーユエンは周りの生徒たちへ
「あなたたち、勉強道具を片付けたら、食堂へ出発なさい。
タロナとモンシェンは、私と騎獣に乗っていきましょう。片付けが終わったら、騎獣小屋の前で待っていなさい」と、指示し、次に、空へ向かって呼びかけた。
「ソアラスっ」
魔獣が翼を羽ばたかせ、降下した。
「ハンツォン、ロージー、マルテンを乗せていきなさい」
「分かった、三人乗せて行くよ」
返事をしたソアラスは、頭をリーユエンの前へ出した。
彼女に頭を撫でてもらい、ソアラスは喉をゴロゴロ鳴らしてご機嫌になった。
ペリオンは、内心、リーユエンは飛行術が使えるはずなのに、騎獣を使うのかと疑問に思ったが、生徒を連れていくために、安全を優先したのだろうと納得した。
それから、リーユエンは、
「わざわざここまで来ていただいてありがとうございます」と、ペリオンにあらためて謝意を表すと続けた。
「ここは西陽が当たりますから、中へ入りましょう」
ワシミミズク族であるペリオンは、直射日光が苦手なことを考慮しての案内だった。
「へえ、随分綺麗になったな」
塔の中へ入ったペリオンは、一階の吹き抜けから階上を見上げ、感嘆の声を上げた。
(あの玄武が大工仕事で直したと聞いていたから、少し修繕したくらいに思っていたが、本格的に修復したようだな。まあ、彼女は明妃なのだから、この程度の厚遇は当然だろう)
ペリオンは、ケチな学院長は、出費をほんの少し負担しただけで、あとは補助金と明妃自身の化粧料で賄われたことなど知るはずもなく、彼女のために、塔は綺麗に修復されたのだろうと誤解した。
リーユエンは、ペリオンへ塔の創建年代を説明した。
「グリムエール老師が、こちらに長らくお住まいだったそうですが、来歴を確認したら、この塔は、学院島として浮遊する前から当地にあった、古典期に建造されたものだそうです。都の方で掛け合ったら補助金の許可が下りたので、建造当初の内装にしてもらったのです」
「そんなに古い塔だったのか。知らなかったな」
ペリオンは、そう言いながらも、古典期がいつ頃のことを指すのかも知らないし、塔の価値も理解してはいなかった。
「塔の建立はおそらく千年余前、前法座主の在位末期の頃でしょう。
元来、塔は、法座主から、長年の功績を称える褒美として、魔道士へ授与されておりました。塔を賜ることは、魔導士にとって最高の栄誉なのです」
リーユエンは説明をしながら、階段を上がり、ペリオンを二階の客間へ案内した。
二人が席についた頃合いで、ウラナがお茶の乗ったトレーを持ってきた。
ペリオンは、ウラナが出ていくと、リーユエンに単刀直入に切り出した。
「まさか、明妃殿下が御自ら教鞭をお取りになるなんて、全く予想外でした」
ペリオンは不意をついたつもりだったが、リーユエンは平然としていた。
「私は、こちらの卒院です。依頼があれば、講義も行います」
「殿下のようにご多忙な方が、わざわざ学院へ赴任されるなんて、学院は余程人材不足なのですか?それなら、サラザルから教師を派遣いたしますよ。それとも、何か、他にお考えがおありなので」
リーユエンは、爽やかな香の香草茶を一口飲むと、ペリオンを見た。
紫眸とまともに目の合ったペリオンは、底知れない紫の闇に、目眩を覚えた。
「ペリオン先生は、随分明快にものをお尋ねになるのですね。ご当主さまは、あなたにそのような指示をなさったのですか?」
「いいえ、今回は私の独断です。
殿下とお目にかかり、早めに殿下のご要望をお伺いするべきだと考えたからです」
「どうして、そのようにお考えになったのですか」
リーユエンは、冷静な態度を保ったままで、狙いを簡単に明かそうとしないが、恐らくサラザルへ、何らかの協力を求めたいのだろうとペリオンは推測していた。
その推測が当たっていれば、明妃は目的を明らかにするはずだ。
今、明妃が態度を明確にしないのは、自分がどこまで、彼女の意図を理解できているのか、探っているからだと思った。
だから、自身の考えを正直に話すことにした。
「当主は、ツカリーゼ教授が猊下に言及したのは、明妃殿下の許しがあったからだと判断しました。私は、その事をもう一度、よく考えたのです。
もしかしたら、サラザルの当主が、殿下の正体に確信を持つように、敢えてそうなさったのではと愚考しました」
リーユエンは、微笑んだ。
その瞬間、ペリオンは目を見張った。
ただ表情が柔らいだだけで、そこに明妃が現れたのだ。
「さすがは、ご当主さま、ご自慢のご子息でいらっしゃる。感服いたしました。
ええ、そうですね。私は、他の者に気づかれることなく、ご当主さまにだけ、気がついていただきたかったのです」
話が核心に近づいてきたと思い、ペリオンは俄然緊張した。
「殿下は、我らが当主に何かご要望がお有りなのでしょうか」
「できれば、一度、ご当主さまにお目にかかり、直接お話をしたいと思っています」
ペリオンは、目を眇めた。まだ真意を明かしてくれないとは、やはり一筋縄ではいかない女だと思った。
「当主へ、殿下のご要望を、私の方から伝えましょう」
リーユエンは無言で頷くとペリオンへ尋ねた。
「ペリオン先生は、まだ他に知りたいことがお有りのようですね」
確かに彼女の指摘の通りで、これだけは是非とも、リーユエンの意図を知っておきたかった。
「殿下なら、他にもなさりようがあったでしょうに、苦境に立ちかねないエスメル先生を、まるで助けるような噂を流したのは、なぜなのですか?」




