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エスメルは、いきなり現れた第三クラスの担任に、一瞬怯んだが、すぐさまいつもの高飛車な調子を取り戻した。
「第一クラスも第二クラスも、今年度の指導方針は、実戦形式に重点を置き、生徒の自主性、自立心を養うのが目的なのよ。宿舎でも、自習の時に術の発動練習をさせたいの、そのためには広い場所が必要でしょ。三クラスがすべて一箇所にいては、練習の場所が十分に確保できないわ」
そう言うと、自分を睨みつける第三クラスの生徒へ、見下した視線を向けた。
「第三クラスの子は、一回生の期末試験で、実技試験の成績が振るわなかった生徒ばかりなのよ。この子たちに、実技指導の時間を費やすなんて無駄だから、出ていきなさいといったのよ」
ちょうど、そう言い終えたところへ、第一クラス担任のペリオンが姿を現した。ペリオンは背がエスメルより頭ひとつ高く、リーユエンと同じくらいだった。茶褐色の髪は、うなじのあたりは刈り込まれ、頭頂部は巻き毛が鳥の巣のように広がっていた。目鼻立ちは派手で整っていて、目は琥珀色だった。学院長がいることに一瞬目を見開いたが、そのままエスメルの反対側に立った。
その彼へ、学院長は
「ペリオン先生、君も、第三クラスの追い出しに賛成しておるのか?」と、あくまで穏やかな口調で尋ねた。
ペリオンは肩をすくめ、
「自習で実技練習をさせてやりたいのは、私も同じです。反対する理由はありませんね」と言った。
自分から敵役を買ってでるつもりはないが、エスメルが邪魔者の第三クラスの生徒を追い出してくれるなら、それに乗ってしまおうという魂胆が見え見えだった。
ロージーは、突如第三クラスの担任として現れたリーユエンに驚いたが、何とかしてくれるに違いないと期待に満ちた視線を送った。他の四名の生徒たちも、自分たちの担任なら、この二人の身勝手な先生へ抗議し、退去を撤回させてくれるに違いないと期待し、リーユエンをじっと見つめた。
ところが、彼らの期待を一身に背負うはずのリーユエンは、学院長へ
「他に、低学年用の宿舎はありましたか?」と、尋ねた。
学院長は首をふった。
「もう一棟の宿舎は、老朽化が激しくて、今、全館修繕中で使用できないのじゃ。今は、この棟しか使用できない」
フードを被ったままリーユエンは一寸考えた。
「確か、山の中腹の森の中に、使用されていない魔導士塔があったように思うのですが、まだ残っているのでしょうか」
意外な問いかけに学院長は、一瞬きょとんとしたが、すぐさまその魔導士塔のことを思い出した。
「ある、今でもあるぞ。今は亡きグリムエール老師が使っていた魔導士塔だ。ただ、最近手入れを怠っておるから、荒れておるぞ」
「構いません。自分で手入れします。それでは、君たち、荷物をまとめなさい。ここを出るからね」
リーユエンは、ごく事務的な口調で言った。
生徒たちは、呆気に取られて彼女を見上げた。自分たちの担任なのに、こんなにあっさり引き下がるなんて、生徒の間に失望が広がった。
リーユエンは、フードを後ろへ捲り、顔を見せた。
輝く紫眸と繊細で端正な顔が現れ、生徒たちはまたもや呆気にとられ、ロージーは、ただひとり歓喜に震えた。
ペリオンは、目を見開き、
「君、たしか、魔導術概論の臨時講師をしていたね」と、声をかけた。
エスメルは、思いがけないほど見目の良い第三クラスの担任の姿に、気圧された。けれど、すぐさま猛烈な負けん気が湧き上がった。
「あなた、随分若そうだけれど、学生の指導なんてできるの?あなたの名前、魔導士名鑑で見たことがないのだけれど」
すると学院長が珍しく真面目な顔つきで、ペリオンとエスメルを見回し、厳かな口調で告げた。
「リーユエン先生は、ヨーダム太師の直弟子でいらっしゃる。魔導士学院も首席で卒院しておる。指導者の資格は、十分あるのは明らかだ。これからクラス担任同士、仲良くやってくれたまえ」
エスメルもペリオンも、いきなりヨーダム太師の名が出て、驚愕した。ヨーダム太師といえば、齢七百年を超える伝説の大魔導士で、魔導士学院の創立者のひとりであり、その直弟子は、数えるほどしかいないのだ。
学院長が自分のことを紹介するのを聞きながら、リーユエンは信玄袋を五つ、空中から出現させ、生徒ひとりひとりへ手渡した。そして、
「貴重品は自分で運び、それ以外の荷物はその袋の中へ詰め込みなさい」と、指示した。
その袋を手渡されたロージーは、
「こんな小さな袋では、入りきりませんわ」と、リーユエンを見上げ文句を言った。
けれど、リーユエンは無表情で
「その袋は、次元袋だから、家一軒分くらいなら入ります。ただし、今から行くところも、建物は手狭だから、不用品は処分して必要最小限のものだけ詰めなさい」と、言った。
生徒たちが、荷物を整理しに二階、三階へ引き上げていくと、リーユエンは学院長へ
「荷物を魔導士塔まで運搬するため、騎獣をお借りしたいのですが」と、頼んだ。
「ああ、構わないよ。騎獣舎へ案内しよう。六頭必要だろう」
学院長の言葉にリーユエンは首をふり、
「いいえ、荷物だけ運ぶので、二頭で十分です」と言った。
学院長は驚き、
「荷物だけって、生徒たちはどうするのだ?」と、尋ねた。
リーユエンは「歩いていきます」と、当然のように言った。
リーユエンがそう言った瞬間、まだその場に残っていたモンシェンは、この綺麗な先生は、滅茶苦茶厳しい人だと思った。
魔導士塔は、森の中に埋もれた廃墟だった。
そんなところへ連れていくなんて、しかも、何が出るかわからない森の中へ徒歩で入るなんて、自分たちを軽蔑しきった目で見るエスメル先生やペリオン先生の方が、よほど優しく見えると思い、どうしてこんな血も涙もない冷血漢が担任になってしまったのだろうと、我が身の不幸を嘆いた。




